幕間・2

「うぐ……、これ本当にあってる?」

「あってるって、何を言ってるの?」とルナ。


 僕はフラフラ立ち上がり、まるで赤ん坊のように彼女に手を惹かれて歩く。

 僕らは、スケート場に来ていた。

 彼女が滑れるなんて知らかなった。

 僕はもちろん初めての経験。

 いや、これは人間が履くものじゃないよ。靴の下に一本の刃が付いていて、それで氷の上を滑る……そんなの人間のやることじゃない。

 一センチほどの刃に立つなんて、常識的に考えてあり得るか?

 どんなことをすれば、こんなスポーツを思いつくのか知れないし、思いついた人間の気が知れない。

 外れないように、挫かないようにと足はがちがちに固定されている。

 またそれがギュッと足全体を締め付けていて、とても痛い。

 転んだら、足首折れそう。

 めちゃくちゃ怖い。

 リンクの外から、リンクの淵にまでたどり着くのさえ、始めての僕には恐ろしく大変な行為過ぎた。これを普通にやっている、オリンピアンやプロって本当に凄いんだな。



 

 氷の上にようやくたどり着いて、今までの床がまだマシだったとばかりに滑る。


「うっそ――すべっ」

「そりゃ滑るよ。氷なんだもの」


 彼女の言葉と同時に、尻を氷の上に打ち付けた。

 ぐんと背骨に衝撃が走る。

 寒いからと言われ、父から古いスケートウエアを渡されたのが良かった。

 分厚い服で氷の固さは、少しだけ抑えられたみたい。


「ううぅ……、これは本当にダメ。向いてないんだよ」

「まあ、壁を掴みながら少しは滑ってみてよ。私はちょっと行ってくるから」


 彼女は軽やかに氷の上を滑っていく。

 フィギュアスケーターを妖精とはよく言うけど、そんな姿は本当に妖精のようだった。

 僕は本当に目を奪われる。


 髪が風になびき、彼女の白くて美しい横顔は、ほほ笑んでいた。

 キレイだ。僕の彼女って、本当にキレイだな。

 そして、僕は思う。

 比べて僕の方は?


 

 後ろから戻ってきて、僕の肩が強く叩かれた。


「どう?」


 キレイだったとは、素直に言えず、


「そこまで滑れるようになれると思う?」 とだけ聞いた。

 ルナは笑っていた。

 僕の手を取り、彼女は滑る。

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