幕間・1

「かわいい!」


 散歩中、ルナは急にしゃがみ込んだ。

 彼女がしゃがんで、ちょうど顔が向かい合う大きさ。

 サイズ感にちょっとビビる。

 ちょうど犬の散歩をしていた老人とすれ違おうとした時、目が合ってしまったようだ。生き物全般が大好きな彼女は、毛があってもなくても、好みであるらしい。そういう所がルナのいいところで、僕とはまったく似ていないところ。


「お名前は、なんていうんですか?」

「コウです」

「そうかー、コウ君かー」


 そう言って、優しく頭を撫でる。

 犬の方もまんざらではない感じ。

 ちょっと複雑な気分だ。

 黒と茶色の毛色が入り混じった、僕の腰くらいまである犬。大きすぎて怖い……

 僕の苦手のことを理解していないわけではないと思うけれど、ルナは自分の気持ちに正直だった。ちょっとだけこの時間が手持ち無沙汰になる。

 犬のご主人と目がって、少し会釈をする。

 彼女は相変わらずワシャワシャとしている。

 犬の頬をむにむにっとも、している。

 そんなにされても怒らない、その彼もすごいな。

 しっぽも盛大に振っているし。

 なんか、ジェラシー……

 


「では、そろそろ」


 飼い主は、行ってしまう。

 ルナもその子も満足したのか。ご機嫌だった。


「犬飼う?」

「そこまで迷惑かけるのもねー。ダメだよ」

「なら……」

「なら?」


 ちょっとだけ決心をして、言葉を紡ぐ。


「結婚したら?」


 彼女は笑う。

 格好つけたつもりなのにな。


「犬、怖いんでしょ?」

「ちがうよ。そんなに好きじゃないだけ」


 また笑われた。

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