第27話 輝いた六等星、まるでボクらのようだ

邪神樹出現から2週間後、アインとリゼルがついに目を覚ました。


実は、二人が眠っている内に事態はより深刻な方向に進んでいる。


邪神樹から出現した影法師のような魔物………、クロツキ女王が言うには邪神の眷属らしいが、そいつらがアドリビトゥム中に広がり大規模侵攻を始めた。


アドリビトゥムのほぼ全ての国家は直ちに同盟を結び、連合軍を結成。


そこまでが現在の出来事だ。俺達は白夜の国から命からがら逃げ延びた時のまま、クロツキ女王の部屋で眠り続けていたアイン達と情報を共有する。


 


「僕達が眠っている間に、そんな事が………」


 


深刻な現状を理解したアインは、深くため息を吐く。


 


「私、完全に邪神を甘く見ていました………神々が命を賭けてようやく封印した存在を、人間ごときが簡単にどうこうできる訳ないって、少し考えればわかるはずなのに…………」


 


リゼルはそう呟いて俯いている。確かに、俺も甘く見ていたのは事実だ。


こちらには闇夜の神子であるミユがいるとはいえ、一つの国をああも呆気なく滅ぼすような神を相手に俺達に何ができるのだろうか?


 


「何やら思い悩んでいるようだな、コーヒーでも飲んで落ち着け」


 


いつの間に来たのかわからないけど、クロツキ女王がコーヒーを持ってきてくれた。


いるならいるで、気配すら感じさせずにヌルッと溶け込むのやめてもらえませんかね?


クロツキ女王は魔法でマドラーを精密にコントロールしながら、即興でラテアート書いてた。


「なんて繊細な魔力制御………!?負けました………」


リゼル、お前は何と戦ってるンだ………?


ミユの分のカップにはオウムガイ、リゼルの分には毛糸玉で遊ぶ猫、アインの分には剣と盾、そして俺の分には………何故にディフォルメしたミユを書きやがったコンチクショー。もったいなくて飲めないだろ…………


 


「さて、ここらで星でも見ながらティータイムとしよう」


 


クロツキ女王が指を鳴らすと天井も壁も見えなくなって、まるで星空の中に立っているかのように錯覚する。


 


「ニュクスから受け継いだ権能の残滓と幻惑魔法の合わせ技だ。どうだロマンチックだろう?常夜の国の星空は六等星まではっきり見えるぞ」


 


「この国の全てを覆い尽くす極夜の中であっても、星はその輝きを失わない………この星空をアドリビトゥムそのものに例えるなら、お前らは六等星のようなものだ」


 


…………………はい?


 


「なんかナチュラルにけなされてる気がするんだが、そこは普通もっと前向きな事言う流れじゃアねェのか?」


 


クロツキ女王の言いたい事がさっぱりわからない。


 


「まぁ、最後まで聞け。確かに、お前ら一人一人は六等星、よくて四等星くらいの存在だが、そんな小さな光でも集まれば夜空を彩る光となる」


 


「お前らは邪神に対抗できる力を持っているが、お前らだけでどうこうできる話ではないしそんな自殺行為は許さない。要するに、いくらでもサポートしてやるから気負い過ぎるなって話だ」


 


クロツキ女王はそれだけ言うと、魔法を解除してまた部屋から出ていった。


 

▷▷▷

 


ミユside


 


さっきのあの例え話、クロツキ女王は直接ボクを名指しした訳ではないがそれでもおそらくボクの悩みも見抜いていた。


正直、今のボクは邪神を恐れている。


あれだけ簡単に国を滅ぼし、人を狂わせる程の神だ。もし戦ったとしたらクロード達が死んでボクだけが生き残る結果になるかもしれない。


大見得を切っておいて今更情けないけど、それがボクの本心だった。


少し一人になりたくて部屋を出た。


廊下を歩いていると、反対側からろくに手入れされていない赤毛の長髪にサラシと着流し姿の女性が歩いてくる。


 


「アァァァ〜〜〜〜〜、クロツキのヤロー………仕事終わった直後にまた仕事増やしやがった………」


 


女性は何やらクロツキ女王に対する愚痴を呟いていた。見慣れない相手だったので少し警戒しながら観察していると、女性と目が合う。


 


「その気配………アンタ闇夜の神子か。オレは巴カムイ、クロツキの神話時代からの同僚みたいなモンだ」


 


とりあえず会釈した時、ふと、カムイさんが腰に携えている刀が目に付いた。見たところ、素朴な白木の柄の地味な刀だが異様な存在感を放っている。その素朴な刀についつい見入ってしまう。ボクの悪い癖だ。


 


「嬢ちゃん、この『縁切り刀』がそんなに気になるか?』


 


カムイさんの声で我に返った。


 


「すみません………あまりにも異様な存在感の刀だったもので、つい見入ってしまいました」


 


「こいつは………簡単にいえばオレの先祖が造った呪物だ。本来は『悪い縁』を切る為の代物だったんだが、呪いによって縁だけでなく同時に命も絶つ妖刀に変わり果てちまったんだよ」


 


なるほど、どうりで妙な存在感がある訳か………


 


「縁を切って欲しい相手でもいるのもしれんが、こいつは呪いを振り撒く事しかできん。止めておけ」


 


「そうですね、邪神との縁を切って欲しいです」


 


ボクを咎めるような目で見てくるカムイさんに適当な冗談を返す。


 


「プッ……………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!嬢ちゃんなかなか面白い事言うな。気に入った!!」


 


「でも、今の言葉はあながち冗談でもないんだろ?」


 


「!?」


 


さっきまで豪快に爆笑していたカムイさんはひとしきり笑った後に、真剣な表情でそう言った。


 


「闇夜の神子の力がなければ邪神を滅する事はできない。だが、嬢ちゃんがそれに対してどう思うかはまた別の話だ。確かに荷が重いよな?」


 


「……………」


 


図星だった。カムイさんの見抜いたとおり、ボクは怖い。また居場所を失うのが、仲間を失うのが怖い。でも逃げ場なんてどこにもなくて、邪神と戦う以外の道はない。もうどうすればいいかわからなかった。


 


「…………そうです………ボクは怖い。邪神と戦って大切なものを失うのも、戦わずに逃げる事も………」


 


「だよな。クロツキのヤローがまた変な仕事押し付けてきたのはこういう事だったのか………31護符なんてよ………」


 


「……………?」


 


「つまり、オレが今造ってる護符で嬢ちゃんの仲間に降りかかる邪神の呪いを、闇夜の神子である嬢ちゃん自身に押し付ければ実質デメリット無しって訳だ」


 


「………………!?」


 


ボクは今になってようやく、クロツキ女王の言いたかった事を理解した。


確かにボクは闇夜の神子という、邪神を倒す為の鍵のような存在だ。


だけどそれは役割の一つであってボク一人で勝てる訳ではない。


ならば、ボクはボクの役割を果たすまで。


六等星のような弱い光でも、集まれば夜を照らす事ができると信じて…………


 


 


ミユside 終



□□□


人物解説


巴カムイ

かつてニュクスの眷属だった『常夜の3使徒』の3人目。

謎の多い人物で、普段から工房に籠もっていてなかなか姿を現さない。

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