第26話 邪神樹

王都への道は完全に黒雲に閉ざされており、ここからではアイン達が無事なのかもわからない。


こうなりゃア、断ち切る者スラッシャーでぶった斬って………


 


「駄目だよ!!!クロード!!」


 


不意に、ミユに呼び止められた。


 


「今、近付いて初めてわかった……その雲のような物は全部瘴気なんだ!!!抵抗力の無い人間が近付いたら、簡単に狂ってしまうよ!!」


 


なんだって!?なら、アインとリゼルは…………


 


暴風狂嵐の蒼翼ゲイルストリーム·オーバードライブ…………!!!」


 


突如吹き荒れた暴風が瘴気の黒雲を蹴散らし俺達の道を作る。


 


「私の暴風狂嵐の蒼翼ゲイルストリーム·オーバードライブに………、常識は通用しない!!!(ドヤァ✨)」


 


「リタ!?手を貸してくれ!!!」


 


「OKOK〜……もともとその為に来たからね~……まだ本調子ではないけど、こんな瘴気くらい…………!!!」


 


リタの支配する暴風は瘴気の黒雲をほぼ完全に吹き飛ばし、視界がクリアになった。


そこで俺達が見たのは………………、狂ったように笑いながら自分自身を刃物で滅多刺しにする少女、笑顔で首を吊る少年、満面の笑みを浮かべながら互いに殺し合う夫婦、そしてそれらの成れの果てと思われるおびただしい数の死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体……………


 


「………………ざ、けるな…………………ふざけるなァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」


 


「こいつらが一体何をしたって言うンだァ…………!!!確かに俺は白夜の国の奴らが嫌いだ!!!だからって、こんな酷い死に方をしなきゃアならないほどの理由なんてねェだろ……………!!!!!!!」


 


「クロード、この人達はもう手遅れだよ。ミユの力で呪いを解いたところで、既に精神が壊れてしまっている。それより、アインとリゼルを探しに行くべきだ」


 


リタはどこまでも冷然と、そう言ってのけた。

この野郎………!!!

 


「お前!!!よくもそんな冷たい事が言えるな………!!!」


 


俺は感情に任せてリタに掴みかかった。しかし、リタは表情一つ変えない。


 


「確かに、私は天使だから人間らしい感情に欠けているかもしれない。だけど、間違っているのはクロードの方だ。今感情的になったところで誰も救えない。その怒りをぶつけるべき相手は邪神であって私ではないよ」


 


「……………悪かったよ………」


 


俺は一度冷静になり、リタから離れた。すると、リタが両手の拳を強く握り締めているのが見えた。


あまりにも強く握り締めたせいで爪が手の平の皮を破り、血が流れている。


なんだ、あんた……、ちゃんと人間らしい感情あるじゃアないか。


 


▷▷▷ 


 


 


宮殿の前は瘴気に呑まれる直前までパレードが行われていたようで、集団パニックでもあったのか横倒しになった馬車などが転がっていた。そこでアインとリゼルを発見して、直ちに駆け寄る。


 


「アイン!!リゼル!!大丈夫か!!!」


「死なないで……アイン、リゼル…………!!!」


ミユの力で呪いを解いて貰うが、一向に目覚める様子がない。


 


「リタ、アインとリゼルが………」


 


「大丈夫、その二人は精神力を消耗して衰弱しているだけだ。邪神の呪いは精神の弱い者から呑まれていくからね………そろそろ離脱するよ」


 


リタが暴風のカプセルで俺達を包み込み、その場を離脱しようとしたその時、王宮の屋根を突き破り、黒い樹木のような何かが地を割りながら天にそびえ立つ。それと同時に再び瘴気の黒雲が広がり始めた。


 


「ヤバッ………逃げるよ!!!」


 


リタが飛び立つと同時に暴風のカプセルも加速して、瘴気の黒雲を置き去りにしながら空を疾駆した。それでも瘴気は津波のように押し寄せ、あまつさえ追い付こうとしてくる。


 


「アドリビトゥム最速は伊達じゃない……………!!!!」


 


ちょっと待てリタ!?なんか慣性とか空気抵抗とかも置き去りにして物理法則無視した速度出てないか!?


新たなトラウマを生成されそうにはなったが、なんとか俺達は瘴気から逃れて常夜の国まで辿り着いた。


 


「クロツキ〜〜〜〜〜〜〜〜☆」


 


「ふむ、なかなかルナティックイカれてる&素晴らしいの意味な登場演出だな。全員生きて返ったようで何より………」


 


クロツキ女王は、優雅に宮殿の自室の窓辺に腰掛けながら、俺達が中にいる暴風のカプセルと、一切減速せずに突進してくるリタを片手で止めていた。…………止めたというか、暴風のカプセル(とリタ)の加速とか運動エネルギーとかを諸々込みで魔法により吸収して安全に停止させた感じだ。


 


「まぁ、ここまで来ればお前らの安全は保障する。我が国の国境線には呪詛喰らいの能力を模倣した結界神器が多数配備されている。無論、造ったのは私だ。さぁ、私を褒め称えよ」


 


「さて、冗談はさておき、お前らは白夜の国で何を見た?」


 


クロツキ女王に促されるまま、俺達が見た物を話した。


▷▷▷

 


「巨大な黒い樹木………たぶん呪詛の木イビルツリーのでかいやつか……すると、邪神の本体は発見できなかったのだな?奴め、随分と用心深くなったものだ」


 


クロツキ女王の言うとおり、少なくとも俺達はまだ直接邪神と遭遇してはいなかった。


それはそれとして………さっきから部屋に置いてある水槽にいる、やたら主張の激しい見た目をしたイカと貝の中間みたいな生き物はなんだろうか…………?ミユもそのイカのような貝のような生き物が気になるようで、水槽に張り付くような感じで観察している。


 


「なんだ?オウムガイがそんなに気になるか?私のペットだ、どうだ可愛いだろう✨」


 


可愛い…………かァ………?コレ………


 


「この水の中を漂うような不器用な泳ぎ方、殻の丸いフォルム………アァ………可愛い………✨」


 


完全に自分だけの世界に入っていらっしゃる………


 


「可愛い………」


 


って、ミユもかよ………!!!


 


ふと、何げなく窓から外を見ると、白夜の国の方角に巨大な木のような物が見えた。


 


「そろそろ話を戻すけどよ、あれが瘴気の根源って事でいいんだよなァ?」


 


俺はクロツキ女王にそう尋ねた。すると、


 


『ほう、案外猪頭でもないらしい………』


 


どこからかそんな声が聞こえた。


 


「!?」


 


「まさか、邪神………!!どこから………!?」


 


『我は、ずっと貴様らが目にしておる邪神樹におるぞ。世界中にばら撒かれた呪詛の木イビルツリーを通じて、いつでも貴様らを見ておる』


 


『我は、我を生み出しておきながら否定した神々を、神々が造ったこの世界を決して許さぬ………だが我は寛大だ、死と狂気の祝福呪いをくれてやろう。この邪神樹の高みから、貴様らに救済滅びを与えてやろう。それでも我に抗うと言うのならば、邪神樹の頂まで来るが良い』


 


邪神は、一方的にそれだけ伝えると完全に気配を絶った。


 


 


 


 


 

□□□



用語解説


呪詛の木イビルツリー

邪神の外部感覚器官であり瘴気を散布する為の端末。

今までクロード達が旅の途中で出くわした黒い樹木のような物の正体こそが呪詛の木イビルツリー


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