最終章 邪神編

第25話 白夜の国、墜つ

常夜の国での戦後のゴタゴタが全て片付いて、俺達はクロツキ女王の見送りで出国する。


次の目的地は勇者協会の本部がある白夜の国だ。


 


正直、俺は戻りたくないので用事だけ済ましたらまたミユと一緒にどこかしらの国に移動して邪神との戦いに備える予定。


 


「お前らには本当に世話になった。特にミユ、お前の力がなければ魔王を救う事ができずに殺してしまうところだった………そうなれば魔族との間に遺恨が残る事は避けられない。お前ら勇者パーティのおかげで最悪の事態を防ぐ事が出来たんだ」


 


クロツキ女王はミユの頭を撫でながらそう言った。


そういえば、ミユは呪詛喰らいの完成形だから邪神の呪いを取り込んでも平気なんだよな………いつか俺の手でミユを救う方法を探そうと思っていたが、なんか肩透かし食らった気分だなァ………


とりあえずローレンス、ざま〜みろ。俺はお前とハルファスの分までミユと一緒に生きて、ついでに邪神も倒して最高のハッピーエンドに辿り着いてやらァ…………


 


「では、さらばだ。来い、『夜天』………」


 


クロツキ女王が呼びかけると、夜の闇が質量を得たかのような漆黒の神竜が烈風を伴いながら舞い降りた。


 


『お呼びでしょうか?クロツキ陛下………』


 


「勇者パーティを白夜の国まで送り届けてくれ。支度は………今から済ませるから30分後に出発な」


 


『御意………』


 


その後、夜天の背中に常夜の国の旗を括り付けたり俺達の旅荷物を積んでロープで固定したり、俺達の乗る為のキャビン馬車の箱型の座席部分を括り付けたりして出発の準備をする。


ちなみに、俺達が借りた駱駝らくだは常夜の国の勇者協会職員が責任持って返却してくれるそうだ。こりゃア


…………なんかミユにすっげェジト目向けられた。今頭の中でアホなダジャレを連想したのバレてるかもな。


何はともあれ、俺達は神竜『夜天』の背に乗り常夜の国を後にした。


気は乗らないが、俺にとっては里帰りってところか………


 


▷▷▷ 


 


 


アインside


 


神竜『夜天』はわずか半日程度で常夜の国から白夜の国までの道のりを飛行して僕達を送り届けてくれた。


一方、白夜の国の衛兵達は『夜天』と常夜の国の旗を見て恐れ慄く。


 


『勇者パーティの凱旋である……!!!門を開けい!!!』


 


王都の城壁前に降りた『夜天』は、国中に響き渡るかと思う程の声で衛兵達を圧倒した。


ややあって門が開き、僕達は白夜王に謁見する事となった。


 

▷▷▷

 


「白夜王、この度、我ら勇者パーティ一同は無事に魔王を討伐して参りました」


 


「うむ、よくやった。我が国でも勇者パーティの凱旋祝いを行うつもりだ。………………ただし、そこの黒勇者と呪詛喰らいの娘の参加は認めない!!!こやつらを即刻追放せよ………!!」


 


白夜王は冷酷にそう言い放った。


 


「白夜王…………!!!彼らは僕の仲間です!!!」


 


「黙れ!!よりにもよって黒勇者と汚らわしき呪詛喰らいなんぞに絆されおって!!!」


 


激昂した白夜王は僕の言葉を聞き入れようともしない。


 


「いいんだよ、アイン………」


 


そんな中、クロードは僕を冷静に宥めた。


 


「さて、白夜王。俺の事を『黒勇者』と呼ぶのは別に構わんが、ミユの事を『汚らわしい』と言ったな………???』


 


ゆったりとした動作でクロードが攻撃態勢に移る。あ、駄目だ。これはキレてる時のクロードだ……………


 


時計仕掛けの時の神クロノス·クロックワーク、3倍速………彗星ドロップキック!!!」


 


「あべしッ!?」


 


「陛下!?」


 


クロードは白夜王にドロップキックを叩き込み壁まで吹っ飛ばした後に、ミユをお姫様抱っこしながら走り去って行く。


これがこの一瞬で起きた事の全てだ。


あまりにも唐突な出来事に衛兵達もろくに対応できず、クロードを取り逃してしまう。


 


「クロード…………全く君って奴は………」


 


「まぁ、クロードさんらしいといえばらしいですね」


 


不謹慎ながらも、僕とリゼルは互いに顔を見合わせて笑うしかなかった。


 


 


アインside 終


 


▷▷▷


 


「…………ククッ………、ハハハハハハハハハ!!」


 


「アハハハハハハハ♪」


 


 


王都を離れ白夜の国の外れまで来た俺とミユは、草原に寝転びながら二人して笑い転げた。


あの傲慢な白夜王に一発かましたんだ。実に愉快じゃアないか!!!


ひとしきり笑った後に、ミユは俺の手を握ってきた。


 


「ねぇクロード、ボクの代わりに怒ってくれてありがとう……」


 


「あれくらい当然だ。どうせ二度とこの国に戻るつもりはなかったからな。でもなァ………お尋ね者になっちまったから、今度は常夜の国にでも移住するかァ」


 


「本当に?」


 


ミユがキラキラした目で見てくる。ついでに狐耳と尻尾も激しく揺れていた。


俺とミユがお尋ね者なのは間違いないが、そろそろ王都ではアイン達の凱旋パレードとかやってそうだなァ………


こんな形で別れる事になってしまったが、また会う事があれば酒の一杯くらいは奢ってやろう………


 


「あれ、何…………???」


 


その時、ミユが王都の方角を指差した。


見ると、暗雲が白夜の国の象徴である擬似太陽を遮り呑み込んでいる。


やがて暗雲は王都そのものを包み込み、暗闇の中へと閉ざしてしまった。


「…………アイン達は大丈夫なのか!?」

 


 俺とミユはすぐさま王都に引き返す。


 



今振り返ると、あの時の俺達は邪神の本当の恐ろしさをまだ知らなかった。


 


 

□□□



解説


神竜『夜天』

かつてニュクスの眷属だった漆黒の神竜。

ニュクスの死後、『闇夜の権能』の残滓を引き継いだクロツキの眷属となる。


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