第28話 水底の国へ

クロツキside


 


自室から、水晶玉を通して連合軍の会議に参加する。


『遠見の水晶』ごしに見る各国の王達は、皆一様に深刻な表情をしていた。


 


「まさか、白夜の国がああも呆気なく滅ぼされるとは………おまけに、邪神の眷属は際限なく現れる。アドリビトゥム中の現在戦える勇者を集めても足りるかどうか………」


 


炎皇は眉間に皺を寄せながら呟く。


 


「ですが、負ければ未来はありません………勝てるかどうかではなく、勝つしかないのです!!幸いにも風の国は、自国で保有する竜騎兵隊のおよそ全勢力を連合軍に合流させる事に同意してくれました。我が国からも全兵力を連合軍に提供します!!!」


 


氷雪帝は連合軍への全面的協力を宣言した。


 


「我ら大地の国も、連合軍に全面的に協力する」


 


氷雪帝の鶴の一声により、他の国々も次々と連合軍への協力を宣言する。


 


「話がまとまったようで何よりだ………常夜の国も、連合軍に全面的に協力する。そして、神話時代からの同盟に基づいて『水底の国』にも協力を要請しよう」


 


「「「!?」」」


 


連合軍に参加している各国の王達が驚愕している。


 


「水底の国だと!?馬鹿な!!!所在すらわからん国に、どうやって協力を求めるというのだ!!!それに、水底の国は神話時代以来、同盟関係である常夜の国としか関わりを持っていない………本当に協力してくれるのか………??」


 


予想通りの反応だ。水底の国はかつて、ニュクス陣営として常夜の国と共に戦った。


水底の国との契約で所在や国の情報を連合軍に明かす事はできないが、常夜の国と水底の国は神話時代から良好な関係を保っている。


しかし、だからといって水底の国が味方につくかどうかはわからない。


それでも今は水底の国の高度な文明力が必要だ。


 


「水底の国に使者として、リタと勇者パーティを派遣する。なお、連合軍への参加交渉も全て常夜の国で行うつもりだ。お前らが余計な手出しをすれば逆効果になる可能性がある。水底の国が現在でも、常夜の国以外との関係を絶っているという事を忘れるな」


 


私は最後に、連合軍の面々に釘を刺して会議を終えた。


 


 


クロツキside 終


 


▷▷▷ 


 


「と、いう訳で………お前達にはリタと一緒に水底の国まで行ってもらう」


 


また突然現れたと思ったら、クロツキ女王はそう言って新しい仕事を押し付けてきた。


 


「待て、水の中にある国なんて、どうやって行くンだよ?」


 


俺は嫌な予感を抱きながらも、そう尋ねてみた。


 


「??………当然、リタの権能で造った風のカプセルに入って水中に潜るに決まっているだろう?」


 


だと思ったよチクショーめ………特別これといってリタに恨みはないが、リタが来るとまずこうなるンだよ………魔王城の壁に正面衝突して強行突破したり、物理法則を無視した挙動と速度で運ばれたり…………そして今度は海に潜る事になった。


そうして、リタの権能で造った暴風のカプセルトラウマ製造ボールに収容されて俺達は強制連行ドナドナされるのだった。


 


 


 

▷▷▷

 


 


空を飛びながら、パノラマのように流れていく景色を眺める。


暴風のカプセルに閉じ込められていなければ景色を楽しむ余裕もあったかもしれないが、この後には強制海中ダイビングが控えている。


リタの権能『暴風狂嵐の蒼翼ゲイルストリーム·オーバードライブ』による風は物理現象なども遮断するそうだが、不安しかない。


例えるならば、何らかの入れ物に閉じ込められたまま川に沈められるネズミの気分だ。


もはやアインもリゼルも、ミユまでもが一言も喋らない。当然俺もだ。


 


「皆、そんなに怖がなくても大丈夫だって〜……私の権能なら本気になれば海を割って道を作る事だってできるんだから〜……」


 


いや、それは洒落にならんて………


嵐の中で輝いてそうな駄々々堕天使リタ·アズリアはそう言って、笑いながら風のカプセルを海中にダイブさせた。


海の中に潜るのは初めての経験だったが、水中の景色の美しさと、風のカプセルに閉じ込められて身を守る物もほぼ無い状態で海の中を進むこの恐怖は生涯忘れる事はないだろう…………


 



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