第16話 カルバドス火山へ

アインとリゼルを人質という形で城に残した俺とミユは今、無言でカルバドス火山に登頂している。万が一、炎皇の気が変わってアインとリゼルに手を出す可能性を考えてアリアも城に残してきた。


 


「クロード………怒ってる??ボクが勝手な事言ったから………」


 


「少なくともミユにではねェよ………」


 


このアドリビトゥム世界は、本当にミユを犠牲にしてまで守る価値があるのだろうか?


もはやミユと出会う前の俺には戻れない。ミユがいない世界で生き続けるなんて未来は考えたくもない。ミユに俺が必要なように、俺もミユを必要としている。


ならば、このまま世界が滅びてしまったとしても2人一緒に死ねるのならばそれでいいのではないだろうか?


 


「なァミユ………このまま2人で逃げないか?世界の危機を救うなんてだいそれた事よりも俺はミユと一緒にいたいんだ………だから………」


 


「だから…………何?ボクにアイン達を見捨てろと………??」


 


ミユの鋭い瞳に射抜かれたように言葉が出なくなる。


 


「クロードの事は1番好きだけど、ボクはアイン達の事も大切なんだよ。ボクみたいな疫病神を受け入れてくれる相手なんて今までほとんどいなかったからね………だからボクはその恩を返す。たとえその結果がどうであれ、ね」


 


「ボクがいなくなっても、時々ボクの事を思い出してくれるだけで充分だよ………それだけで充分報われる」


 


「……………」


 


想いが通じ合っているようで致命的に噛み合わない。


2人でいるはずなのに、1人でいる時と同じ寂しさがあるなんて思いもしなかった。


こうして分かり会えないまま話は終わり、やがて山頂へと辿り着く。


やはりというべきか、山頂にはあの黒い樹木のようなナニカがいた。火山の熱をものともせずに瘴気をばら撒き、呪いによる汚染を広げ続けている。


 


「ここは暑いし空気も悪いから、速攻で片付けるよ………クロード!!!」


 


「わかってらァ…………!!」


 


俺達は2人同時に黒い樹木の姿をした呪いの塊に向けて走り出す。

自慢ではないが、ミユの本気のスピードに完璧に合わせながら連携できるのは『時計仕掛けの時の神クロノス·クロックワーク』を持つ俺くらいだろう。


呪いの塊は殺人的な速度で触手を繰り出して応戦するが、ミユには傷一つ付けさせねェ…………!!!


全ての攻撃を俺が引き受けて、触手による波状攻撃を捌きながら文字通り道を切り開く。


 


「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!………………無駄ァァァァァ!!!」


 


俺が囮として攻撃を引き受けつつ、俺の背中を踏み台に大ジャンプしたミユが一気に強襲。


作戦通り呪いの塊に肉薄したミユは瘴気ごと呪いの塊を取り込んだ。


 


「流石に疲れたな…………」


 


「仕方ないよ。『時計仕掛けの時の神クロノス·クロックワーク』のパワー全開で、あれだけ本気で戦えば疲れるのも当然だよね~………」


 


そう言うミユは意外と平気そうなのが、なんとなく敗北感。


その時、突然地面が揺れ始めた。


 


「…………ッ!?ミユ…………!!!」


 


訳もわからず、それでもミユだけは守ろうと手を伸ばす。


 


 


直後に俺が見たのは、地面を抉りながら出てきたラーヴァワームに一瞬で呑み込まれたミユの姿だった。


 


「アァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアァァァアァァァ…………!!!!!」


 


俺は怒りの衝動のままにラーヴァワームを斬り刻んだがミユの物と思われる焼け焦げた骨と、冷えた溶岩でガチガチに固まった剣のような物しか出てこなかった。

俺は夢であるように何度も願った。だが、『ミユを失った』という目の前の現実は変わらない。

絶望する俺の前で、溶岩塊に覆われた剣のような物が宙に浮かび、輝きながら砕け散る。


そして、眩い光を放つ剣が俺の前に姿を顕した。


 


『我は、刻の魔剣なり…………』




□□□


用語解説


ラーヴァワーム

溶岩地帯に生息する魔物。外見上、砂漠地帯に存在するサンドワームという魔物に類似している為にサンドワームの亜種だとも言われている。主に地下を掘り進み溶岩を食べているが基本的には肉食で他の生物を襲う事もある。


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