第7.5話 幕間 温泉と野郎2人とY談(ソフト気味)




神殿の瘴気の根源を断ち、先遣隊のメンバーを救助した俺達は城に戻り大地王に事の次第を報告した。


 


「やはり勇者様に頼んで正解じゃった………その呪いの出どころがわからぬ事だけが気がかりじゃが、犠牲もなかったので今はこれで良しとしよう。勇者様も、その同行者の方々も、本当にありがとうございます………」


 


俺は今、猛烈に感動している…………初めて王族とか権力者にちゃんと功績を認められた………!!白夜の国がクソなのはもちろんだが、国が変わればここまで扱いも変わるのかと思うとなんか目から汗が……………


 


「クロード、涙拭きなよ………」


 


ミユが呆れている。


 


「ああ〜、スマンスマン。俺ドライアイ気味でな〜。あ〜目が痛ェ………」


 


必死でごまかすが、ごまかしきれたかというと正直怪しい。


ミユはそれ以上何も言わずに大地王から報酬を受け取り、金額を確認した。


 


「勇者様方はお疲れだろう。宿は既にこちらで手配した。我が国自慢の温泉でゆっくりと疲れを癒やしてくだされ。もちろんお代はいりませぬ」


 


大地王が話題を変えてくれて助かった………

ん?温泉?マジか………!!大地の国に来たからには一度は温泉宿に泊まる予定だったが、まさかタダとは!!


 


「ありがとうございます大地王!!!」


 


アインがめっちゃいい笑顔してる。たぶんあいつ、ここぞとばかりにタダ酒かっ食らうつもりだぞ………


 


 


▷▷▷ 


 


 


その後温泉宿にて、


 


「温泉に浸かりながらの酒は最高だな~~~~!!」


 


完全貸し切りで酒も飲み放題。色々な酒を次々と飲みまくって既にアインはかなり出来上がってる。


俺もアインに勧められて大地の国特産の『黒琥珀』という酒を飲んでみたが、甘さと苦みが程よく同居した味わいでスッキリ飲みやすい。これは気に入った。ついつい飲み過ぎてしまう。


俺もアインの事は言えないようだ。


 


「さてと………せっかく野郎2人なんだ、酒飲みながら男どうしでしかできないような話でもしようぜ。例えば、Y談とか」


 


どうやら俺も少し酔っているらしい。我ながらかなりアホな発言をしていた。


 


「待て待て待て待て!!どうしてそうなる!!」


 


アインが慌て始めたが気にせず俺は話を続ける。


 


「ミユのウィスパーボイスさ、アレめちゃくちゃエロいよな…………?」


 


「何言ってんのこの人!?」


 


「あの声でさ、耳元で囁かれ続けたらマジで飛ぶぞ(←理性が)」


 


「見損なったよ!!ミユにはあんな風にかっこいい事言いながら彼女をそんな目で見ていたなんて!!」


 


「あァ?テメェだけ聖人君子ヅラしてんじゃねェぞ!!なんかあるだろテメェにもよ………!!さっさと白状しやがれ!!!」


 


俺はアインに詰め寄る。温泉浸かりながら全裸で言い争う野郎2人………なんとも見苦しいが、どうせ誰も見てないんだ。この機会にアインの紳士ヅラした仮面を剥がしてやる。


 


「え〜っと、なんというか………幼なじみだから男として見られてないというか警戒されてないからだと思うんだけど、リゼルが無自覚に密着してきたり、時々無防備な姿を見せる事があって、それがものすごくドキドキします………」


 


「へ〜〜〜(ニヤニヤ)」


 


「だから言いたくなかったんだよ……………!!!」


 


アインが両手で顔を覆って照れてる姿は爆笑モノだった。


 

 

▷▷▷

 


ミユside



「待て待て待て待て!!どうしてそうなる!!」


 


男風呂の方がやけに騒がしい。慌てた様子のアインの声が女風呂まで聞こえてきた。


 


「クロードとアイン、どんな話をしているんでしょうか?」


 リゼルがなんだか落ち着かない様子でソワソワしてる。


「気になる?『壁に耳あり戸口に狐、窓から覗くは鴉の目』………」


 


ボクは魔法で偵察用の使い魔を召喚した。聴覚に優れた狐の使い魔と視覚情報を得る為の鴉の使い魔、この2体で男風呂を覗く。


 


「ふむ、Y談だね…………クロードがボクの『声がエロい』とか言ってて、アインが『リゼルが時々無自覚に密着してきたりしてドキドキする』とか話してる」


 


「ッ!?」


 


リゼルは耳まで真っ赤になって一瞬でのぼせ上がった。


 


「フフッ…………流石にリゼルには刺激が強すぎたかな?」


 


ボクはリゼルを風呂から上がらせて介抱する。


クロードがボクを一人の女として見てくれていたなんて………フフッ………、今夜は楽しくなりそうだなぁ………


 


 


ミユside 終


 


 

▷▷▷

 

リゼルside


 


お風呂から上がって、着替えた後すぐに夕食の準備に取り掛かる。


調合が済んだスパイスや調味料を混ぜた物を鶏肉にまぶして、初歩的な時魔法で時間を加速して短時間で下味を付けて、下ごしらえが済んだら威力を抑えた火属性の魔法で皮目はパリパリッと、内側はしっとりジューシーになるように精密な魔力制御で焼き上げる。


それと同時平行で、牛の骨からスープを取る。骨を煮込んで出汁を取る工程で再び時魔法で時間短縮。牛スジ肉と野菜を炒めて、アインが開けた赤ワインの残りと黄金比率で配合したスパイスと先程のスープを鍋に投入。


ついでに、小麦粉をバターで炒めてブラウンルーを作る。


『料理とは人類にとって、最も身近な魔法である』


アインの家で働いている時にメイド長から教わった言葉だけど、こうして実際に時間短縮できるし、魔力制御の練習にもなるから、まさに真理だと思う。


まさか………メイド長はこれを私に伝えようとしていたのでは………!?


メイド長………料理とは、奥が深い物ですね………



初めて作った常夜の国風料理……出来栄えが不安だったけど、皆喜んでくれた。特にミユさんは一番たくさん食べてくれた。


ミユさんの故郷の味に、少しでも近付ける事が出来ていたなら嬉しい。


故郷の味で、少しでミユさんの孤独を埋められたなら………そう考えずにはいられない。


 


リゼルside 終


 


▷▷▷

 

 


風呂の時と夕食時にぶっ続けで呑んだせいで、ふらついた足取りで部屋に入りベッドに倒れ伏す。流石に飲み過ぎたな………


もう寝ようかと思ったその時、部屋の扉が開いた。


 


「ボクだよ…………♪」


 


ミユは何か企んでいるような表情で俺に歩み寄り、ベッドにダイブしてきた。


狐耳がピョコピョコと揺れ、尻尾も激しく振っている。あ、なんかマウントポジション取られた………


 


「クロード、ボクの声がエロいって………?」


 


ミユが耳元で囁いてくる。ヤベェ………!?風呂でのアインとのY談の内容バレてる…………一気に酔いが覚めた。


 


「ボクを一人の女として見てくれて、嬉しいなぁ………♪こんな貧相な身体つきでもいいなら、ボクの全てをクロードにあげる………ボクの全ては、キミの物だよ………♪」


 


脳がとろけるようなミユの囁き声に唆されて、完全に理性が飛んだ。


その後、2人で眠れない夜を共にした事だけはうっすらと覚えている。




□□□

 

用語解説


黒琥珀

酒。やや透明感のある黒色で甘さと苦みが程よく同居したような味。(現代日本で言うとコークハイの見た目と味が一番近い)とても飲みやすい。


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