第8話 それはサブイベントのような何か



翌朝、目が覚めると俺とミユは全裸Full Frontalで、しかも同じベッドに寝ていた。床には服が乱雑に脱ぎ捨ててあって、なんかミユに抱き枕代わりにされてる。


…………酒が入っていた事もあって、うっすらとしか思い出せないが、これは2つの意味でやっちまったなヤっちまったな………


落ち着け…………素数を数えて落ち着くんだ………1、2、3、5、……………


これは、責任とって結婚とかする流れだよな………7、…………俺はいいとして、ミユはどうなんだ?………9、11、…………


というか、記憶が曖昧なので確証はないけど、部屋に来たミユに対して俺が酔った勢いで無理矢理………って可能性も存在する訳だから、この状態で訴えられたら勝ち目なくね?…………13、17、19、…………俺の旅もここで終わりだな………


 


「おはよう、クロード。昨日は熱い夜だったね…………♪」


 


「ミユ………昨日は本当にすまない………!!俺、責任とるから………」


 


ミユが俺の首に両手を回して甘えるのと、俺の謝罪が重なる。


 


「「………………」」


 


互いにしばし沈黙、そして…………


 


「アハハハハ♪」


 


ミユは爆笑し始めた。


 


「フフフッ…………気にしなくていいのに………ボクの全てはもうキミの物なんだから。だって、こんな疫病神でも絶対に見捨てないんでしょ?」


 


「あの時の神殿での言葉、もう本気にしちゃったからね………?裏切ったら許さない」


 


怖い怖いって。笑顔なんだけど目のハイライト消えてるし…………


さて、ミユは気にしなくていいと言ってるけど、俺はそれにただ甘えるだけのゲスではない。とりあえずこちらからも誠意を見せないとな…………


 


「ミユ、結婚を前提に恋人になってくれ」


 


「うん♪喜んで」


 


改めて、俺の全てはミユの物だ。


 


 


 


 


 


 


その後、流石にいつまでも全裸ではいられないので服を着て部屋を出た。アインとリゼルは既に出かけていたので2人で遅い朝食を共にする。


ちなみに、アインとリゼルは食材や酒、その他旅に必要な物の買い出しに行ったようだ。


 


「今日はどうする?」


 


ミユがバターをたっぷり塗ったトーストに、さらにハチミツを大量に塗りながら俺に尋ねる。


 


「観光がてら、湖に釣りでもしに行こうぜ」


 


「わかったよ。メンヘラで疫病神なボクの心を一本釣りしたクロードの釣りの腕人たらしテクが、魚にも通用するのか楽しみだね………♪」


 


「誰が上手い事言えと言ったよ…………ってか、今『釣りの腕』の所に変なルビ入ってたよな!?」


 


「気ノセイジャナイカナ〜(棒読み)」


 


ミユとふざけ合いながら朝食を終えた。


その後、西にある湖に向かい、しばし2人で釣りを楽しむが、


 


「全然釣れねェ…………」


 


「クロードはメンヘラ女の心は釣れても、たった一匹の魚すら釣れないみたいだね♪」


 


ミユにめちゃくちゃからかわれた。かくいうミユは大漁である。


 


「舐めるなよ……馬鹿にするなよ………俺だって…………!!」


 


ムキになって1時間程粘ってみたが、やはり釣れない。


その時、突然雨が降ってきた。


 


「あ、湖のほとりに屋敷がある。あそこで雨宿りさせてもらおう」


 


ミユが指差した先には確かに、手入れが行き届いて立派ではあるが慎ましやかな屋敷があった。あんな所に屋敷なんてあったっけか?今まで全然気付かなかったな…………


さっき(ミユが)釣った魚を手土産にして行ってみよう。駄目ならそん時はそん時だ。


雨に打たれながら屋敷まで走る。屋敷に辿り着いた頃にはもう全身ずぶ濡れ。とりあえずこの屋敷に住んでる人が俺達を受け入れてくれるかどうかが問題だ。


扉のノッカーを鳴らし、しばし待つ。


 


「どちらさまでしょうか?」


 


長身で流れるような黒髪の、巨乳で美人なメイドさんがドアを開けて出てきた。イテッ……ミユにスネ蹴られた。たぶんメイドさんの胸見てたのがバレたな。ミユは『貧相で悪かったね…………』とばかりに無言の圧力をかけてくる。


 


「旅の者です。急な雨で困っていまして、こちらで雨宿りさせていただけないでしょうか?」


 


「………どうぞこちらへ。私はアリア、この屋敷の管理をしている者です」


 


「ありがとうございますアリアさん。これ、そこの湖で釣った魚です」


 


魚の入ったバケツをアリアさんに渡し、屋敷に入る。


ひとまずは、計画通り……………!!!(特に意味のないゲス顔)


アリアさんは俺達を屋敷に迎え入れてくれて、無事雨宿り出来そうだ。


貸してもらった部屋で、荷物の中にしまっていた予備の服に着替えて雨が止むのを待つ。


 


「クロード………?」


 


既に着替え終わったミユが部屋に入ってきた。


 


「さっき、アリアさんの胸見てたよね…………?」


 


ミユに詰め寄られ、ベッドに押し倒される。アカン………これ修羅場かも…………


 


「………れれれ、冷静になれミユ………あれは深い意味はなくてだな、男としては普通な反応………」


 


「ボクが…………、貧相なのがいけないの………?」


 


ミユの目には涙が浮かんでいた。


 


「クロード…………キミの為ならなんでもするから…………、捨てないで…………他の女なんて見ないで……………」


 


「馬鹿だなァ…………」


 


俺は震えるミユの身体を抱きしめた。きっとミユはこれまでも何度となく傷付けられてきて、容易には人を信じられないのだろう。だからこうして時々発作のように、精神的に不安定になる。しかし、俺はそれさえも受け入れると既に決めた。俺はミユの頭を撫でる。


 


「捨てねェよ、俺の全てはミユの物だ………」


 


ミユが安心して泣き止むまで一緒に過ごす。やがて、雨は上がっていた。


 


 


 


 


「アリアさん、お世話になりました」


 


俺達はアリアさんに別れを告げた後にドアを開けて屋敷から出ようとしたが、見えない壁が存在するかのように屋敷から出る事ができない。


 


「ここから出る事はできませんよ?貴方達は私の固有結界の中に閉じ込められたのですよ。私の魂が燃え尽きるまでここにいてもらいましょうか…………」


 


反射的に飛び退き、アリアさんから距離を取って武器を構える俺達だが、アリアさんの身体が透けている事に気付いた。


 


「あんた………まさか幽霊…………!!」


 


「その通りでございます。貴方達は湖に近付いた時から私の術中にはまっていた…………もはや逃れる事はできません」


 


これはグレートにヘヴィな状況だなァ…………リゼルがここにいなくて良かったぜ………。と、ミユが俺に何か目配せしてきた。なるほど、わかったぜ!!相手が幽霊ならそれしかないよなァ…………!!


 


「「よし、もう一度殺そう」」


 


俺とミユはどうやら同じ事を考えていたようで、同時にそう言った。以心伝心、比翼連理。


 


「流石に好戦的過ぎませんか………!?普通もう少し交渉の余地とかありますよね!?」


 


アリアが唖然とした様子で訴えかけてきた。


 


「え?違うのか?完全に敵かと思ったぜ」


 


振り上げていた大鎌を降ろす。一方、ミユはまだ警戒している。


 


「違います!!お二人と交渉して、ちょっとした頼み事をしようと思っただけです!!」


 


「回りくどいのは苦手なんだよ………要求があるならさっさと言え。俺達にできる事ならやってやる、無理難題ならこの場であんたをブチ殺してここから出る」


 


「だからいちいち物騒過ぎやしませんかねえ!?」


 


最初はクールな美人かと思ってたが、アリアが完全にキャラ崩壊してる。


 


「………わかりました、素直に言います。お二人には、私のご主人様とお嬢様の遺骨を探して、弔ってほしいのです」


 


「数十年前、この屋敷には心優しく謙虚な地方領主のご主人様と、そのお嬢様が暮らしていました。ですが、強欲な貴族どうしの領地争いに巻き込まれて私も含めた、当時この屋敷にいた者全員が殺されました………」


 


「目の前でご主人様とお嬢様を殺された私は今もこうして地縛霊として現世に留まっています…………あの時、せめてお嬢様だけでも逃がす事ができていれば…………!!」


 


アリアは涙を流しながら重々しく独白した。マジにグレートでヘヴィな話だ。仕方ない………引き受けよう。


 


「いいぜ。ミユ、なんかちょうどいい探知魔法とかないか?」


 


「安請け合いしちゃって………クロード、そういうところアインに似てきたんじゃない?」


 


「うっせェ…………」


 


「確かに探知魔法なら使えるよ。『根掘り葉掘りや墓掘る獣、詮索探索思いのままに、捜し物へと導く狐』」


 


ミユの独特な詠唱により狐型の使い魔が現れて俺達を導く。やがて土の中から親子の物と思われる遺骨を発見した。


 


「見つけた。たぶんこれであってると思う………」


 


その後、簡単ではあるが墓標を作り、親子の遺骨を弔う。本当は正式なやり方とかあるんだろうけど、俺達は教会の人間じゃないからそんなの知る訳もない。


すると、優しそうな男性と育ちの良さそうな少女の幽霊が、作ったばかりの墓標から現れた。


 


「アリア…………」


 


「ご主人様………!!お嬢様………!!」


 


「旅のお方、本当にありがとうございます。それとアリア、自分を責めないでくれ………無念はあるが、お前が後悔を抱えたまま現世に留まり続ける事の方が私達は辛い………もう大丈夫だから、自分を許していいんだよ………」


 


「ご主人様………!!」


 


アリアは泣きながら墓標の前にうずくまる。


 


「アリア、泣かないで………せっかくの美人が台無しよ?」


 


少女の幽霊はアリアに寄り添い、涙を拭った。親子の幽霊はやがてゆっくりと天へと昇って消えていき、最後にアリアだけが残された。


 


「……………お二人にはご迷惑をおかけしました………」


 


アリアの身体が崩れるように消えていく。そして、固有結界は消滅して俺達はいつの間にか、荒れ果てた廃墟の屋敷に立っていた。


 


「……………帰るか…………」


 

何故か木の横に置いてあった、魚の入ったバケツを持って俺達は宿に戻る。


 


 


 


宿に戻った俺達は、既に帰ってたアインとリゼルに今回の体験談を話す。最初は怖がってたリゼルも最後には少し悲しげな表情をしていた。


 


「その幽霊さんはちゃんと天国へ行けたんでしょうか………」


 


リゼルがそう呟いた直後、


 


「いえ、貴方達といる方が楽しそうなので、天界で特別に許可を貰って守護霊スタンドに昇進して憑いて来ちゃいました♪」


 


俺の背後からアリア、唐突に登場。


 


「「な………、何ィィィィィィィィ!?」」


 


俺とアインのリアクションが完全にシンクロした。


 


バタンッ


(↑リゼルが恐怖のあまり気絶してぶっ倒れる音)


 

ミユはと言うと、不機嫌そうな表情をしている。やはり、幽霊とはいえ俺の身近に女が増えるのは気に入らないようだ。

 


「これからよろしくお願いしますね?クロード様、ミユ様♪」


 


アリアはそう言っていたずらっぽく笑った。


いや、なんでや……………


 


 




アドリビトゥム英雄譚の世界における幽霊

幽霊は、魔力を蓄える肉体を持たないゆえに魔法を使えない………と、一般的には言われているがそれは厳密には間違いである。

幽霊は自らの魂を燃料として魔力を生成する事で魔法の行使が可能となる。そして、幽霊の魂の魔力量は生前の後悔やこの世への未練といった、念の強さに比例する。しかし、魂そのものを燃料とする事でもたらされる最終的な結果は、破滅である。

幽霊が魂を燃やして魔法を使用した時点で遅かれ早かれ魂が燃え尽きて完全に世界から消滅する。

それでもアリアが湖一帯をカバーする程の固有結界を展開できたのは、単純に死後も地縛霊となる程の、彼女の常軌を逸した後悔の念が、固有結界の莫大な消費魔力を賄う程の出力となったからである。


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