第7話 神殿へ



早速神殿へと向かった俺達は、魔物で溢れ返った神殿内部を戦いながら進む。


 


「術式並列展開、魔力供給オールクリア。追尾式攻撃魔法マジックミサイル1番から40番まで装填完了、照準補正良し、1番から40番まで順次発射せよ!!」


(↑超早口)


 


リゼルの魔法攻撃はもはや圧倒的弾幕の小宇宙としか言いようのない物量と超火力で立ち塞がる魔物を次々と殲滅した。


もはや前衛職いらなくね?と思う程の火力。

しかも、撃ち切ってもすぐに次弾が装填されているという情け容赦が一切ない鬼畜仕様。


時折、討ち漏らしを倒しながら圧倒的イージーモードで神殿内部を進んでいく。

やがてひらけた部屋に出た。


 


「なんか静かですね…………」


 


待てリゼル、それはフラグか?そういうセリフの後はだいたい良くない事が起こるんだよ。


具体的には突然現れたヒットマンに襲撃されるとか………

とりあえず俺は辺りを警戒する。


 


「どうしたんですか?クロードさん………キャアアアアアア!?」


 


突如、リゼルの姿が消えた。否、消えた訳ではない。


エリック、上だ!!(←単なるノリで深い意味はない。エリックって誰?)


リゼルは天井から糸を垂らしてぶら下がっている大蜘蛛に捕まっていた。


 


「リゼル!?今助ける!!」


 


アインは光の斬撃を飛ばし、天井から伸びた蜘蛛の糸を断ち切る。

そのまま落下してきた蜘蛛だけを斬り刻みリゼルを救出した。


 


「大丈夫そうか?」


 


俺はリゼルの様子をアインに尋ねた。


 


「ああ、恐怖のあまり失神しているだけで無事だ」


 


アインはリゼルを背負いながらそう答える。大幅に戦力ダウンしたが進むしかない。


そうして進む事数分、神殿の最奥と思われる部屋の前に辿り着いた。

どうやらこの先が瘴気の発生源のようだ。ただここにいるだけで空気が重く、息苦しい。


 


「地図によると、この扉の向こうがマーテル様の祭壇か………」


 


俺が扉を開けようとすると、


 


「待って、この先はボク一人で行く」


 


ミユが俺達を引き止めた。


 


「正気か?何があるかもわからん場所にお前一人を行かせる訳ないだろ」


 


俺はミユを一人で行かせる訳にはいかないと、何故か直感的にそう思った。


 


「そうだよ。ミユは僕達の仲間だ。見捨てるなんてできない…………!!」


 


アインもほぼ同意見。

多数決なら間違いなく俺達の勝ちだが、ミユは一歩も譲らなかった。


 


「何があるかはもうわかってる。この先にあるのは、およそ人間が対抗できる物ではない、正真正銘の呪いだよ………ボクにはその対策がある」


 


「逆に聞くけど対策もなく、ただ『仲間を見捨てたくない』ってだけの理由で死地に飛び込むキミ達の方こそ、正気?」


 


ミユの鋭い視線に圧倒されて何も言えなくなった。確かにミユの言う事も一理ある。しかしアインは違った。


 


「それでも、ミユは僕達の仲間だ。ミユが本当の意味で僕達に心を許してないのは知ってる。対策があるんだろう?なら、僕はそれを信じる。だから、もっと僕達を頼ってほしい」


 


アイン、お前すげェ立派だよ。いつも飲んだくれてるお前とは同一人物とは思えない。こいつこそ勇者にふさわしい。正直、見直した。


 


「………馬鹿だね………こんな言葉に流されるボクも相当な馬鹿だけど………仕方ないから、ついてきて」


 


ミユの表情が心なしか柔らかくなった気がする。


アインはまだ失神しているリゼルを扉の前に降ろし、俺達はリゼルが起きるまで待つ。


鬼が出るか蛇が出るか、俺達は扉を開けた。



 


▷▷▷


 


 


ミユside


 


扉の先には、先遣隊のメンバーと思われる人達が熱に浮かされるように、または悪夢に魘されるように正気を失って徘徊していた。


 


「アァァ………我ハ………許サヌ…………」


 


「神ヲ………コノ世界ヲ…………」


 


「死ト狂気コソ………救イ…………」


 


徘徊している人達は何やら意味不明な譫言を呟いている。ほぼ間違いなく、何らかの呪いにより精神を狂わされているようだ。


そして部屋の中央には、触手の生えた黒い樹木のようなナニカに磔にされている、意識を失った神秘的な雰囲気の女性がいた。おそらく彼女がマーテル様だろう。


 


「なんだ………!?これは…………」


 


クロードが絶句している。狂気に支配された先遣隊の人達がこちらに気付き、ゾンビのようにふらついた足取りでこちらに向かってきた。


 


「ボクは呪いの根源を祓う、だからキミ達は先遣隊の人達の足止めを任せたよ…………狐月酔牙こげつすいが………!!」


 


ボクは両手に曲刀『狐月酔牙』を持ち、全力疾走で黒い樹木へと間合いを詰める。当然、先遣隊の人達が立ち塞がるがクロード達が引き受けてくれた。


黒い樹木の形に具現化した呪詛が次々と触手を繰り出してきた。人間の肉体くらいなら軽く貫きそうな速度だ。


 


「危ない………なァ…………!!!」


 


ボクは足を止めずに体捌きのみで触手の連撃を掻い潜り、時にカウンターで斬り裂く。

リゼルの追尾式攻撃魔法マジックミサイルによる支援とアインの魔法による防御バフを受けてひたすら間合いを詰める。

近付けば近付く程に触手の攻撃は苛烈さを増してボクの行く手を遮った。


 


「秘剣、狐影三閃こえいさんせん………!!」


 


狐月酔牙での連撃の後に狐月酔牙を投擲、大野狐おおのこに切り替えてフルスイング後に大野狐を手放し、手元に戻ってきた狐月酔牙での追撃。


全ての触手を斬り払い、マーテル様まで辿り着く。


マーテル様を拘束する蔦を引き千切り、彼女を開放した。その時、黒い樹木から新しい触手が生えてきてボクを拘束した。


 


「ぐッ…………!?」


 


触手はボクの首に巻き付き締め殺そうとしているが、おかげで


 


「……………その呪いチカラ、全部ボクに寄越せ………!!!」


 


ボクは黒い樹木の形に具現化した呪詛の塊を全て取り込み、自らの力に変換した。


呪詛喰らい………、ボクの特異体質にして、これこそボクが疫病神たる所以。


あらゆる呪術や呪詛を受け付けず、それらを喰らい力とする闇夜の神の祝福疫病神の烙印


 


 


ミユside 終


 


 

▷▷▷

 


 


よくわからないが、ミユがあの黒い樹木から瘴気を吸収(そのように見えた)して消滅させた事により先程までの息苦しさも消えた。


ミユは平然としているようだが、大丈夫なのだろうか?


 


「ミユ!?お前、髪が………!!」


 


ミユの銀髪が先程の状態よりも黒く染まっている。元々黒のメッシュが入ったような銀髪だったが、どう見ても明らかに黒い部分の割合が増えていた。


 


「ああこれ?気にしなくていいよ。特異体質でね、呪いを取り込むと黒くなるんだ………」


 


ミユは先遣隊の人達からも呪いを取り込み、その銀髪はさらに黒く染まる。


やがてマーテル様が目を覚ました。


 


「助けていただいただけでなく、瘴気の根源を祓ってくれた事は感謝します。これで大地の活力も少しずつ元に戻るでしょう。ですが、その娘とは早いうちに縁を切った方が良い」


 


マーテル様はミユを冷たい目で一瞥してそう言った。


 


「マーテル様、ミユは僕達の仲間です!!理由も無しに見捨てる事などできません!!!」


 


アインが感情に任せて訴えかける。


 


「貴方達は知らないようですがその娘は呪詛喰らい………あらゆる呪術や呪詛を取り込み力に変える、闇夜の神ニュクスが生み出した特異体質です」


 


「呪詛喰らいを持つ者が過度に呪いを取り込み続ければ、やがては魔そのものに堕ちる………今は良くてもいつかその娘は貴方達に牙を剥くでしょう…………」


 


マーテル様はそれだけ言って姿を消した。その間、ミユは何も言わなかった。

ミユはやっぱり呪詛喰らいか………そうでなければ、あの瘴気を浄化できるはずがない。

 


「ミユ…………」


 


「アハハ………、ボクが疫病神だって事、バレちゃったね………」


 


ミユが自嘲気味に笑う。俺はその姿を痛々しく思った。


 


「さよなら、クロード、アイン、リゼル。今まで楽しかったよ」


 


ミユは俺達に背を向けて歩いて行く。


 


「待ってくれミユ!!何も君がパーティを抜ける事はないだろ!!!」


 「ミユさん!!!いかないで!!!私達まだ出会ったばかりじゃないですか!!!それなのに一方的に別れるなんて………!!!」


 


アインとリゼルは引き止めようとしたが、ミユが立ち止まる事はない。


このままでいいのか?確かにマーテル様の言う事は理解できる。


だが、ここでミユを見捨てたら俺も、俺を冷遇していた白夜の国の奴らと同じになる。きっとミユは呪詛喰らいゆえに差別され、辛い過去を経験しているはずだ。


正直、ミユとの出会いは散々な物だったが、俺にはミユの苦しみが、孤独が、他人事とは思えない。


だァァァァァァ〜〜〜〜!!!もううだうだ考えるのは馬鹿らしい!!!


俺は駆け寄ってミユを後ろから抱きしめた。



 「クロードさんッ!?いったい何を!?」


リゼルが息を飲む様子が見なくてもわかる。だが、そんな事はどうでもいい。


 


「ッ!?なんのつもり………!?」


 


ミユは明らかに動揺している。


 


「馬鹿だなァお前………たかだか、特異体質程度で俺達がお前を見捨てるとでも思ったのか?それに何より、まだ恩返ししてもらってない。お前から言い出したんだ、今更『やっぱ無し』とは言わせねェぞ………」


 


「馬鹿なの………?ボクみたいなメンヘラで疫病神な女に優しくしたら、本気にしちゃうよ………?いつか、呪いに呑まれてキミ達を殺しちゃうよ………?」


 


「そん時は、ぶん殴ってでも目を覚まさせてやるまでだ………」


 


「馬鹿…………………」


 


ミユは泣きながら俺に縋り付いてきた。さて、ここまで大見得を切ったからには、責任を取らないとな………これから何があってもミユを守り続ける、ミユのそばにいる。


戦う事しかできない俺に何ができるかわからないが、俺の全てはもうミユの物だ。



「今日の夕食は、ミユさんの好物にしましょうか………何が食べたいですか?」


 


リゼルはそう言って、ミユの手を取る。


 


「常夜の国風スパイスシチューか、タンドリーチキン………」


 


ミユは涙声でそう答える。


 


「わかりました✨スパイスの鮮度とかはどうしても常夜の国で食べる物に劣るかもしれませんが、全力を尽くします!!!」


 


今晩は常夜の国風の料理か………楽しみだな。


 

 

□□□


用語解説

追尾式攻撃魔法マジックミサイル

特定の攻撃魔法ではなく、追尾性能を持つ攻撃系魔法の総称。戦闘において極めて汎用性が高い。



呪詛喰らい

闇夜の神ニュクスが生み出した特異体質、またはそれを持つ者を指す。あらゆる呪術、呪詛を喰らい自身の力へと変換するが、呪詛喰らいが過度に呪いを取り込むとやがては魔そのものに堕ちると言われていて、それゆえに差別や迫害の対象となる。

常夜の国の民だけにごく稀に発現する。

某呪術の世界に呪詛喰らいが存在したら、あらゆる呪術、術式が通用しない上に呪霊をおやつ感覚で取り込むチート能力となる。

ついでにストーリーが圧倒的に面白くなくなりそうなので二次創作であれ何であれ、ミユは某呪術の世界には出禁確定である。

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