ムギさんと猫の🧤

吉岡梅

月夜の散歩

暖かくなってきたと思ったら急に寒くなったりしている頃の夜。

僕はこっそり屋根裏の窓から外に出ると、夜への一歩を踏み出した。


屋根の端っこのすぐ先には、ちょうど同じくらいの高さに高台の公園がある。昼間に靴さえ持ってきておけば、あとはちょっとの思い切り次第で出かけられるのだ。


無事にジャンプを済ませてほっとしている横を、ムギさんがすいっと通っていく。


「本当は僕はナイショで夜の散歩に出るようなじゃないんだよ」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれないね」


ムギさんが、ちらりとこちらを振り返って答える。どことなく冷ややかなのは、碧い目のせいかしらん。それとも、すらりとした黒い毛並みにゆらゆらと揺れている長い尻尾のせいかしらん。僕はなんとなく慌てて付け足した。


「今夜は仕方ないんだよ。だって、だって……ほら、満月じゃない」


見上げた夜空には、しっかりと真ん丸なお月様が浮かんでいる。


「確かに」

「ムギさんだって、満月になると人の言葉で話し始めるじゃない。猫なのに」

「それは君、満月だからさ」

「でしょ」

「……そっか。それなら仕方ないかな」

「うん。仕方ないよ」


ムギさんと僕は、2人で頷くと夜の散歩を続ける事にした。


少し変わった事が起きるきっかけというのは、たいていは満月のせいなのだ。

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