第7話 7日目 俺が盾になる
—…い…ー
—
はっ!!!!
俺は目を覚ました。
どうやら部活中に寝ていたらしい。
うっすらと目を開けると隣の席の
「冴内、お前、ゲームもできねぇほど眠いんなら、さっさと帰れや。」
「え、いや、あぁ。いや…」
こういうタイプの女子は今までの人生で絡んだことがない。
うるせーとか返せばいいんだろうか。いまいちよくわからない。
でもせっかくゲーム好きの集まるサークルだ。俺は勇気を出して桜庭に話しかけた。
「昨日、オンラインゲームで夜更かししすぎちゃって、眠くてさ。」
「ふーん。ウチもそーゆー時ある。目ぇ覚ましてやろっか?」
「へ?」
桜庭の顔がニヤッとして、次の瞬間、急に目の前に素早いパンチが繰り出された。
咄嗟によけようとした俺は、椅子から転げ落ちた。
「ギャッハハハハ!!!冴内、おもしれ〜!!!!」
桜庭は涙を流して大笑いしている。
五十嵐さんも、見て見ぬ振りをしながら、肩を震わせて笑っている。
—この野郎!!!—
頭に来た俺は桜庭をキッと睨むと、勢いよくその顔に拳を向けた。
ひょいっ。
桜庭はなんてこともなく俺の攻撃を軽くかわした。
恥ずかしすぎて顔が赤くなっていくのがわかる。
—むっかつくー!!!!!—
俺はカバンをどさっと机から下ろすと、帰り支度を始めた。
「なんだよ、もうやんねーのか?もっぺんかかってこいよ。」
桜庭は俺を挑発する。
「うるせぇ!!!バカ!!アホ!!!」
小学生レベルの悪口を残して俺は部室を後にした。
はあ。夢にまで見た女子との交流がまさかこんなものだったとは。
俺は女子に夢をみすぎていたんだろうか。
でも、もういい。
俺にはもう非モテの現実世界なんて不要だ。
ゲームの世界では俺はイケメンアバターで、可愛いリディアたんと毎日一緒なのだ。
俺の彼女はリディアたんだ!!
現実の女子なんてぜんっぜん興味ない!!
酒場のおねえさんにも「かっこいいお兄さん」っていわれたんだ!!現実の俺じゃなくてアバターのことだけど!!
べ、別にちっとも悔しくなんかないぞ!!
…そういえば、リディアたんに触ることはできるのだろうか。
いつも俺の後ろ側にいっちゃうから、考えてなかったけど…角度によっては触れたりするんだろうか。
やばい。顔がニヤけてきた。
「渉、アンタさっきから何ひとりでブツブツいってんだい。」
「え?いや、別に…」
どうやらいつのまにか心の声が外に漏れていたようだ。
俺はさんまの骨を皿の隅に集めて、夕飯の食器を下げた。
「ご馳走様。」
「はいよ。水につけといてね。」
部屋に戻った俺は早速VRゴーグルを装着し、ゲームを起動した。
あれっ。
なぜかリディアたんが勝手に動いている。
風にひらひらとなびくスカート。
あっ、もう少しで見えるかも…
あれっ。こっちにくる。
リディア「カイン、はじめまして。リディアです。よろしくね!」
可愛いボイスとともに、セリフが画面に表示され、リディアたんはにっこりと微笑んだ。
えぇえぇえー!????
喋る機能あったの〜!????(*゚▽゚*)
「り!!リディアた…リディアさん!オレ、リディアたんのシモベ…じゃなくて薬草係…じゃなくて…えーっと…」
「はっ…白銀の王子、カインだぜっ!よろしくな!!!」
ギャー((((;゚Д゚)))))))しくじったぁ。
ゴーグルに映る画面内に俺が喋った文字が映し出された。
カイン「白銀の王子、カインだぜ。よろしくな。」
俺が喋ったわちゃわちゃしたキモイやつは、幸いアリエスに音声認識されなかったもよう。助かった。
おまけに声も勝手にイケボに変換されている。最高だ。
リディア「今日は一緒にプレイできるみたいね。昨日までカインさん、私のうしろについてくるだけだったの。」
カイン「一緒にプレイ…!!いっ、いやなんでもない。そうなんだ。リディアた…さんも昨日までずっと俺の後ろに…」
俺はリディアに手を伸ばしかけて、はっとした。
そうか、昨日まではリディアは自動行動だったけど、今は俺もリディアもオンライン、生身の人間だ。
下手なことをして嫌われたら大変だ。
リディアたんにさわれるかどうかのチャレンジは自動行動モードの時にしよう。
カイン「リディア、君は魔法使いでHPが少ない。勇者の俺が、君の盾になる。薬草もたくさん買ってある。俺に全てを任せてくれ!」
—決まった!!!—
リディア「やったあ!カイン、素敵!頼りになるわ!!」
す…素敵!??頼りになる!!??
そんな言葉、人生で初めてリアルな女性に言われた…
ん?ゲームだからリアルな女性じゃないか。
いや、オンラインだからリアルな女性か?
よくわかんなくなってきた。
まあ、どっちでもいい。
今、俺は最高に幸せだ!!
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