第4話
ロニーは素早く中に踏み込み、部屋を見回した。死角になっていた部分に
即座にスタンロッドを抜いて猛然と駆け出し、無言で最寄りの
ロニーのスタンロッドが次の
残るは一匹。人質の方へ走った
土だ。それが人の顔の高さ位に横薙ぎに撒かれてロニーの目に入る。次の瞬間、
勝利を確信していたロニーは、自分の迂闊さを悟った。仲間が次々と討ち取られ、残る仲間が無くなれば最後に自分が狙われるのは必然。
襲撃者の姿が見えなくても、仲間が倒れた時、敵がその近くにいるのは簡単に想像がつく。
最後の仲間が倒れた時、それに気付いた奴は、倒れた仲間の辺りに目潰しを兼ねた土を撒いたのだ。
土が遠くまで撒かれた所は何も無いが、何かに当たった所に襲撃者がいると確信して。
「ちっ!」
ロニーは、思わず小さく舌打ちして飛び退いた。
次の
見えない敵と戦っても勝てないと判断したらしい。何かを罵りながら懸命に走っていく。
奴を、ノーマンの下に行かせるわけにはいかない。ロニーが駆け出そうとした時、部屋を揺るがす振動と土砂と共に、ドスーンと大きな音を立てて天井から大きな物が落ちてきた。
「ピギャーーーーッ! ギャッ! ギャーーーー……」
「ぎゃあああああーーーーっ!」
「うわあああああーーーーっ!」
部屋の前後から、ノーマンと捕虜達の驚愕の叫びが轟く。ようやく目の土を完全に振り払ったロニーは、落ちてきた物を見て言葉を失った。暗闇の中、机の上のランプの明かりに照らされ、黒い筒の様な巨大な怪物が、痙攣する
この怪物は、巨大な蛭かミミズの様な姿の獰猛な生物で、名をジャイアントワームという。
人間も
音と振動を察知する能力に優れ、嗅覚も侮れないと聞いた。
厄介な事に目が無く、視力を頼らない怪物なので姿消しが効かない。
警備局が討伐に向かわせるなら、対象が一匹でも六等級以上の者が複数いるチームでないと請け負う事を許可しない難物だった。
ジャイアントワームを見たロニーの心から、この洞穴に感じた違和感が消えていく。
洞穴の崩落が多かったのも、
恐らく、昨日か今日、洞穴がワームに襲われて、
ワームを見て考えを巡らせていたロニーは、状況のマズさに気付いた。真っ暗の洞穴で机のランプが消えたらお終いだ。ロニーは、急いで腰に下げたランタンの照度と蓋を全開にした。
ノーマンを見ると、彼は怪物を見つめて唖然としている。一般人の彼は、ワームの事を何も知らないかも知れない。対策を教えねば危ない。
「ノーマンさん! 音を出すな! こいつは目が見えない。音と振動で襲ってくるぞ!」
ワームの注意を引く意味も込めて、ロニーが叫んだ。この怪物は近くに潜んでいた所を、先程ロニーが扉を吹っ飛ばした、大きな音に気付いてやって来たのだろう。
ロニーの叫びで、ノーマンは正気に戻ったのか片手を上げて合図したが、捕虜達は違った。
「な……なに今の? 何も無いのに声が! やっぱりバ、バケモンだあああーーーーっ」
少年達が、パニックを起こしている。姿消しを使って部外者に心霊現象と間違われるのは、たまにある笑い話だが、今は静かにして貰わないと困る。
ロニーは、急いで格子に駆け寄った。
「アイクさんの依頼で来ました。お願いですから落ち着いて!」
「ひ、ひいいいーーーっ」
小声で語りかけたロニーだが、少年達は怯えて、叫びながら牢獄の後方に後ずさっていく。
恐怖で腰が抜けたらしい。
「クソッ! 仕方ない!」
ロニーは説得を諦め、格子からスタンロッドを突っ込んで捕虜達を突いた。
ロッドで触れた捕虜達がビクビクッと大きく痙攣して、白目をむいて力無く崩れ落ちる。
「ふぅ……」
「フ、フレッドーーーーッ!」
安堵したロニーは、後ろからのノーマンの悲痛な叫び声に飛び上がった。
(今度は、お前かよ! ……頼むから黙っててよ!)
心の中で頭を抱えたロニーが急いで立ち上がり、ノーマンに説明しようとした刹那、再び大きな振動が起きたかと思うと、天井を突き破って再び大きな物が落ちてきた。
今、
自分へ迫る不気味で巨大な怪物を見て、恐怖からかノーマンが力無くへたり込む。
「フレッドは気絶しただけだっ! 死にたくなかったら逃げろーーーーっ!」
ロニーは、大声で怪物の注意を引き付けるつもりだったが、怪物は近くのノーマンの匂いでも捉えたのか振り返ろうともしない。ロニーは駆け出してノーマンへ向かう怪物にスタンロッドを叩き付けたが、怪物はビクッと小さく痙攣しただけで歩みを止めない。
この巨体相手では、人を痺れさせる程度のスタンロッドでは止められない様だ。
「うおおおーーーーっ!」
ロニーはスタンロッドを鞘に収め、大声で叫びながら剣を抜いて斬り付けた。
このままではノーマンが丸呑みにされる。何とか怪物の注意を引き付けて、彼を逃がさないといけない。怪物の皮膚が厚く、斬撃は深手を与えられない事に気付いたロニーが剣を突き刺すと、怪物は急に大きく仰け反った。
怪物の怒りに火が点いたらしい。急に動きを止めて、素早い動きで大口を開けて襲いかかって来た。間一髪でロニーは躱して、体勢を整えるべく飛び退いて距離を取った。
怒り狂った怪物が、再び大口を開け、口から不気味な粘液を垂らしながら襲いかかる。
それを躱しながら剣を叩き込んだが、怪物の口の周りを少し斬っただけ。
襲いかかって来た怪物の向こうでは、
もう一度、義手の鉄拳を使おうかとも思ったが、剣を突き刺しても動きが衰えず、大したダメージになっていないのを考えると、効果は怪しいだろう。
義手の鉄拳は、ロニーが幾つか持つ切り札の一つだが、大きな威力で放つと衝撃で義手が壊れる可能性がある。それに魔力の消耗も大きいので、無駄撃ちは出来ない。
必死に考えるロニーの前で、再び怪物が大口を開けた。その後ろには
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