第33話 クリプスの勝者に与えられるなんでも自由なお願い
「まさか……こんなのにやられるなんて……」
ロフィエはひざの力が抜けたのか、壁に背中を当てたままずるずると座り込んでいった。
クリプスはその動きに合わせて首元に当てているソードも動かす。
ロフィエの右手首は掴んだままだ。オルバイドがロッドがなくても魔法は出せると言っていた。ロフィエもワンドがなくても魔法を出せるかもしれない。不意に魔法を出させないようにしておく。
ゆっくりと降りてきたロフィエのお尻が床に着地すると、
「
うつろな目をして語り出した。
その声に、さっきまでの威勢はない。素直すぎるのが、逆に怖い。
「……このロフィエ様が負け、ロフィエの町も陥落ですわ。さ、煮るなり焼くなり、なんでも自由になさい。勝者に与えられた権利でしてよ」
「なんでも自由に、ねえ……。そう言うなら、そうさせてもらおうかな」
クリプスはロフィエの首元に当てていたソードを鞘に収めた。
ロフィエの手首は変わらず掴んだままだ。
自由に動かれては、困る。
「それじゃあ……」
「クリプスさん」
後ろからオルバイドの声がした。少し不安そうな声だ。
「あの……これからロフィエさんに何をするかはあえて訊きはしませんが、私たちはいない方がいいですか? それなら退出しますが」
「いや、いいよ。出なくて。むしろ、いて欲しい」
「まぁっ!」
オルバイドは、それ以上何も言わなかった。
あとはクリプスに任せる。
「それじゃあ、改めて……俺の望み通りにしてもらおうかな」
上から降ってくるクリプスの言葉を聞いて、ロフィエはギュッと目を閉じた。
ロフィエは敗者である。
なので、どんな報いも受けるつもりだ。
目の前にいる
絶対服従させるつもりだろう。
もしかしたら、この手にナニかを触らせようとしているのかもしれない。
そして堕ちていく様子を、あの二人に見せつけるつもりなのだろう。
あの二人も、服従させるために。
(
ロフィエは抵抗する気すら完全に失う。
あとは流れに任せようと思った。
「それじゃあ、ロフィエ」
その呼びかけで、ロフィエは固唾を呑む。凄く大きな音に聞こえた。
「俺たちと一緒に来てくれ。パーティーに加わって欲しい」
「はっ?」
予想とは全く違う言葉が出てきたことに、思わず目を開けるロフィエ。
目の前にはクリプスの股間があった。その布の向こう側を想像して、つい顔が赤くなってしまう。
「何を言っておるのじゃ? おぬしは」
「本気ですか?」
ロフィエ以上に驚いたのが、ジャミスとオルバイドだった。
さっきまで戦っていた敵を仲間にしようだなんて。
「ロフィエ。一個だけ訊いていい?」
「な、なんですの?」
「屋敷の前にあったバラ、あれはロフィエが育ててるのかい?」
「そうですね。バラは
「やっぱりな……」
「なにがじゃ?」
「彼女、本当は心優しい子なんだよ。そうでなきゃ、あんなにきれいな花を咲かせることなんて出来ないよ」
「べ、別に、優しくなんか……」
ロフィエの顔は更に赤みを増して、目線を逸らしてしまう。
「それに、この町の人たちを傷つけずに逃した。この町に攻めてきた100人のようにしてしまえばよかったのに、それをしなかった。それを考えても、根は優しい子だと思う」
「ですが、ロフィエさんはクリプスさんを殺そうとしていましたよ?」
「うん。強かった。だからこそ、俺たちのパーティーに加わって欲しい。攻撃魔法を得意とするロフィエが加われば、このパーティーはもっと強くなれる」
「……」
ロフィエは黙ったままだった。
目線を逸らしたままで、何を考えているのかは分からない。
「俺たちと一緒に来て欲しい。『なんでも自由になさい』と言ったのはロフィエ自身じゃないか。だから、俺は自由にさせてもらう。君に加わって欲しい、と」
「――
声を絞り出したロフィエ。その声は震えていた。疑心、そして不安が入り交じっている。
「ロフィエがいいんだ。俺たちのパーティーに必要だ」
再びしばらく黙っていたロフィエ。
「――――そこまで言うなら、仕方ありませんわね。このロフィエ様が加わる以上、敗北は許されなくてよ?」
「安心していい。強いジャミスと強いオルバイドがいるところに、強いロフィエが加わるんだ。強い奴が現れたら、世の中は広かったってことだ」
「面白いこと、申しますわね」
クリプスは制するように左手で手首を掴んでいたロフィエの右手を解放した。
座ったままのロフィエと、右手で固い握手を交わす。
「ところで、あなたは強くて?」
「俺? 弱いよ?」
クリプスの右手を握るロフィエの右手に、とてつもない力がこもった。
冷たい目で見られていることからも、より固い握手を交わしたいとか、そんなのではない気がした。
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