第32話 ジャミスの最後の切り札な必殺技
ロフィエの方へ駆け出したクリプスとジャミス。
直後にクリプスは右の方へ。
ジャミスは左の方へと分かれる。
「二手に分かれても、ムダですわ」
ロフィエは右手を挙げる。
「
ワンドの先端に集まった黒い魔力のカタマリが二つに分かれ、クリプスとジャミスの方へ飛んで行く。
「ふんっっ!!」
ジャミスは気合いで魔法を避けて進む。
「うぁ……」
そして黒い魔法が迫るクリプス。
避けたいところだが、クリプスには
(一つ試したい)
ことがあった。
成功すれば有利に。失敗すれば不利になる、賭けとも言えることだ。
クリプスは戦闘であまり運に頼ることは少ないしリスクの高い行動だが、ジャミスと出会ってからの出来事で、なんとなくやれそうな気がしていた。
(――試してみる価値はある)
早速、クリプスは行動に移す。
「ていっ!」
クリプスは走りながら、飛んできた魔法をソードでぶった斬った。
黒い魔力のカタマリは二つに分かれ、クリプスの両サイドを通り抜けて行く。
後ろで大きな音がした。床か壁にぶつかったのだろう。
「やった!」
今までの経験から、このソードは物理的な物は意外となんでも斬れるとは思っていた。
なので魔法的な物も斬れるのでは? と思ったが、予想以上に上手くいった。
「わ、
消沈するロフィエ。
「――許さなくてよ」
すぐに立ち直り、ロフィエはワンドの先端をクリプスへ向ける。
「よそ見している場合ではないぞ!」
ジャミスの右拳がロフィエに迫る。
「くっ……
拳を防ぐようにワンドをジャミスに対して横にして突き出すと、黒く半透明な魔力の盾が現れた。
ジャミスの拳は盾に阻まれ、鈍い音が部屋に響く。
「ったーっっ! 石人より硬いぞ、こりゃあ」
赤くなった右手を振るジャミス。右手がジンジン痛む。
「てやぁぁぁぁぁ!!」
ロフィエに近付いていたクリプスがソードを振り下ろす。
魔法が斬れたのだから、この魔法の盾も斬れる――と思ったのだが、黒い盾にクリプスのソードは防がれて甲高い音が響いた。
「くっそ! こっちは斬れねぇ!!」
ロフィエに手が届く位置なのに、あと一歩が遠い。
「あんたたちのへっぽこ攻撃なんて、効かなくてよ」
ロフィエは余裕の表情。
「離れて下さい!!」
クリプスとジャミスの後方からオルバイドの声が響く。
クリプスとジャミスが後ろに大きく飛び退くと、二人がいた辺りの床から先の鋭い大きな氷柱が勢いよく飛び出してきた。ロフィエがさっきまで座っていたイスが大きな音を立てて砕け散る。
「ロフィエは?」
「やったかのう?」
「残念でしたわね」
上の方からロフィエの声がした。
ロフィエは攻撃される前に空中へと飛んでいた。
その足が、イスを砕いた氷柱の先端にゆっくりと降り立つ。
「声を出さなければ、やられていたかもしれませんわね。でも、その時は二人もやられていたでしょうけどね」
ロフィエが下方にワンドを半円状の180度に振ると、氷は砕けてスッと消える。
足場を失ったロフィエは、ゆっくりと床に降り立った。その床には、砕けたイスの欠片だけが残っている。
「さて、そろそろ終わりの時間ですわね。後悔する時間はたっぷり差し上げましたから、すぐにラクにしてあげますわ」
「うわぁぁぁあぁぁ!!」
クリプスは叫びながら斬りかかるが、再び黒い盾で防がれる。
「えいっ! えいっ! えいっ!!」
何度も何度も斬りかかるが、黒い盾は全く斬れる気配がない。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をするクリプス。
力尽きた。しばらく動けそうもない。
「もがき、あがきで必死なその表情、最高ですわぁ。その表情をさらに恐怖と絶望のどん底にたたき落としてあげるのは、もっと最高ですわぁ」
と、ロフィエはニヤリ。一人だけ楽しそうだ。
「ふんっ!!」
ジャミスが再びロフィエに殴りかかった。その右拳は、当然黒い盾に阻まれる。
「もうヤケクソですのぉ?」
ロフィエは完全に挑発顔となっていた。
「――この手は使いたくなかったのじゃが……」
「?」
拳を盾に当てたまま、ジャミスはもう一歩踏み込む。
そして顔を突き出し、
「ふーーーっ!」
ロフィエのその挑発的フェイスに、息を吹きかけた。
結果。
「おえっ」
えずく。
「ぅぇええっ!」
えずくっ!
「ぅうぉえええぇぇ!!」
えずくっっ!!
堅強な魔法の盾も、ジャミスのブレス攻撃は防ぐことが出来なかった。
さっきまでの勝ち気な雰囲気は一変。地獄のどん底にでもたたき落とされたような、見たことない表情を見せていた。
「な、なんなんですの……? 毒霧?」
吐き気が収まってきたところで、今度はロフィエの身体を衝撃が襲って、壁に背中を打ちつけた。
「なにっ!?」
呼吸を整え終わったクリプスが体当たりをして、ロフィエの身体を壁に押しつけていた。
次に左手でロフィエの右手首を掴み、肩の上まで持って行って壁に強く打ちつける。
「いったっ!」
その衝撃で、ロフィエはワンドを手放してしまった。
落ちてくるワンドを、クリプスは右足のカカトで後方へと蹴る。
オルバイドは、床を滑ってきたワンドを急いで拾った。
そしてクリプスは右手のソードを、ロフィエの首に突きつける。
「終わりだ、ロフィエ」
「くっ……」
ロフィエはすっごく悔しそうな表情をしている。
(少し気持ちがいい)
ロフィエが恐怖と絶望のどん底にたたき落とすのは最高だと言っていたことが、分かるような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます