第29話 竜人たちと旅人の暗中模索な屋敷探訪
ゲーター侯爵の屋敷改めロフィエの屋敷に入ってきた三人。
目の前に広がるのは、エントランスホール。
正面には二階に上がる階段も見えるその広い空間を見回した。
豪華絢爛、という言葉が似合うほど、きらびやかな世界がそこには広がっていた。
派手な装飾。
なんだかよく分からない形の装飾。
ピカピカ金色に光る装飾。
とにかく飾られている。無駄に。
金持ちは金持ちアピールをするというのが普通な時代。屋敷に大勢のメイドがいる時があるのも、その流れである。
「はぁ……。こんな立派なところ、わっしは初めてじゃ」
「俺も初めてだよ」
「私は、貴族のお屋敷に何度か」
「いいのう。わっしも人のいる屋敷を見てみたい」
「ここではダメですか?」
「人がいないんじゃあ、ただのおしゃれな迷宮じゃよ」
「確かに。それは言えますね」
「ジャミスの言う通り、迷宮かもね。これからボスをぶっ倒しに行くからね。でも、どこにいるんだろう。ボスと言えば最深部?」
「最深部というと……寝室ですか?」
「それはないじゃろう。服は着ておったし」
すぐ脱ぎたがり、寝る時も脱ぐことが多いジャミスは着眼点が違う。
「では、応接室でしょうか」
「となると、どこじゃ?」
「一階……ですか?」
「よし、一階を探すぞ」
と、ジャミスは近くの部屋に入った。
「ここは……」
部屋に入ったジャミスが見回すその部屋は、厨房だった。
室内には数多くの調理器具が整然と並んでいる。
ここで屋敷の食事が作られている――いや、いたのだろう。
「使われていないみたいだ」
クリプスが台を指でなぞりながら言う。
台のなぞったところは、指の跡がくっきり残っていた。
台にはホコリが積もっていた。しばらく使われていない証拠である。この町の時が止まっていることを、実感させられる。
食材だってない。もしあったりしたら、腐っていたかもしれない。
「ここは違うようじゃのう」
と、ジャミスは厨房を出て、近くにある扉を開けた。
「ここは……」
「わぁっ!」
ジャミスの後ろから部屋を覗き込んだオルバイドが目を輝かせていた。
中にはメイド服がズラリと並んでいる。ここは使用人の部屋のようだ。
「かわいいぃっ! 私、一度メイド服を着てみたいんですよね」
「そうかぁ? 動きにくそうじゃがのう」
服に求めるものが違うオルバイドとジャミスは、反応が全く別である。
「クリプスさんも、私たちのメイド姿を見たくはないですか?」
「え!?」
ジャミスとオルバイドで部屋の中を覗けないクリプスは少し離れて廊下にいたが、突然話を振られて驚く。
「いやぁ……見たいか見たくないかで言えば、見たいかな?」
特にジャミス。メイドからはほど遠い存在。どう変わってしまうのか、気にはなる。
「そっか。見たいのか……。じゃが、今回は時間がないからのう」
「そうですねぇ。機会があれば」
なんだか、オルバイドだけじゃなくてジャミスも着ることに前向きな空気がある。
時間があれば、いつかは着てくれるのだろうか。ちょっとは期待していいのかな?
「さぁ、次に行くぞ。ロフィエを探し出すのじゃ」
ジャミスはドアを閉めて先へ進み、次の部屋のドアを開ける。
「ここは……」
広い部屋に大きなテーブルとイス。
どうやら食堂のようだ。ここも今は使われていないようで、テーブルやイスには埃が積もっていた。
どう見てもロフィエがいる感じはしない。
「次じゃな」
と、進もうとすると、廊下の前方でもこもこ動くものが。
「なんじゃ!」
やがて、それは5体ほどが人の形となった。
「また砂人じゃ」
最初に散々倒した砂人だ。だが、さっきと違って動きが鈍い。
「これなら、俺の出番だな」
と、クリプスが前に出ると、砂人は5体とも崩れ去った。
「クリプス。おぬし、とうとう触れずに倒せる技を身に付けおったか。強くなったのう」
「いやいや、俺は何もしてないよ!」
「どうやら、手当たり次第に投入しているようですね」
オルバイドが崩れた砂人の元に行き、魔力の素を拾う。
「魔力がほとんど感じられません。立ち上がったところで、魔力が尽きたのでしょう」
「拍子抜けじゃな。じゃが、そんなものまで出さなきゃならんほどの状態なのかもしれん。奴は追い詰められておる。急ごう」
次の部屋は、今までと違う装飾の施された両開きの扉だった。
「――明らかに他の部屋とは違う。怪しいのう」
ジャミスは勢いよく扉を開け放った。
やや広めの部屋には、客人をもてなすためのテーブルと、その周囲に装飾の施されたイスがある。
そして、その奥。一際派手に装飾された大きなイスがあり、主が脚を組んで座っている。
「ようこそ、ロフィエの屋敷へ」
さっき幻影で見た殲滅の魔女こと、魔人のロフィエだった。
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