第27話 クリプスの体当たりな救出行動

 今、動けるのはクリプス一人。

 ジャミスとオルバイドは木人の腕に捕らわれていて、動けない。


 木人の腕は枝なので、胴に比べると細い。ソードで斬れる可能性はありそうだ。

 ぶっとい丸太の胴は、ちょっと斬れる自信がない。

 というか、あの丸太の中に魔力の素があるのだろうか? どこから入れるんだろう。木人が形成される時、あの丸太を中心にできあがっていったような気がしたが……。


 などとクリプスが考えていると、オルバイドのロッドが音を立てて落ち、地面で跳ねた。

 そして、

「だめぇ……そこはぁ……」

 高い位置からオルバイドの悲鳴が聞こえる。


(どこ!?)

 オルバイドの言う『そこ』が気になるけど、もう悩んでいる暇はない。

 オルバイドが危ない!

 まず一番近いオルバイドを助けよう。


「えいっ!!」

 クリプスは木人の伸びる左腕を途中で斬る。少し硬さはあったが、思ったよりはスパッと斬れた。

 支えるものが無くなったオルバイドが空中から落ちてくるので、クリプスはソードを鞘に収めて両手で受け止める。


「大丈夫?」

 クリプスはオルバイドを地面に下ろして、身体にに絡みつく枝を取り払いながら訊いた。

「ええ。ありがとうございます、クリプスさん――後ろ後ろっ!」

 オルバイドがクリプスの後方を見ながら叫んだ。


 オルバイドに言われるのは、、今日二回目。

 振り向くと、さっき斬った枝が再び伸びて迫っていた。

(よみがえるのか、この枝)

 なんとやっかいな。


「くそっ!」

 枝の左腕を再び斬った。

 何度もよみがえるようでは、木人本体の近くで捕まっているジャミスのところまで進めない。


(いや、待て。少しずつ斬りながら進めば、ジャミスのところまで進めるのでは?)


 クリプスはやってみることにした。

 さらに一歩踏み込んで斬ろうとソードを振りかぶった。

 が、次の瞬間、斬った断面から枝が再生してきた。

「早い!」

 伸びて迫る枝を斬るクリプス。前に進むよりも再生速度の方が早い。木人必死の抵抗だろうか。


「ぐっ……食い込む……」

 遠くにいるジャミスが苦しそうな声を上げる。いつもは余裕を見せているのに、珍しい。

 早くジャミスを助けに行かないと……。


「クリプスさん! よけてください!」

 後ろからオルバイドの声が聞こえてきた。

 よけるって、どこへ?


「ええいっ!」

 考えている時間はない。とりあえず横に飛んで避けた。

 再生した枝がクリプスがいた場所を過ぎて伸びていく。

 その方向はオルバイド。


「オルバイドッ!」

 オルバイドが危ない!

 オルバイドの方を見ると、オルバイドに近付く枝は先端から徐々に凍り付いていって、次第に伸びなくなっていくのが見えた。

 その枝の先では、オルバイドがロッドの頭を枝の方に向けていた。

 落としたロッドを拾って、凍らせる魔法を使ったようだ。


「クリプスさん、急いで下さい。どこまで抑えられるか分かりません」

「ああ、行ってくる」

 力強く答えると、クリプスはジャミスが捕まっている方向へ駆け出した。


 クリプスの位置からジャミスが捕まっている位置まで、少し距離がある。

 ジャミスを捕まえている枝を斬れる高さの部分は、さらに遠い。

 だが、迷わない。ジャミスを助けられる確率が一番高い方法でやるのが、もっとも早い。


 木人に向かって走っていると、右側から凍り付いていく枝が迫ってくるのが見えた。木人は伸ばせなくなった左腕を水平方向に動かして、クリプスに攻撃しようとしている。


「ふんっ!」

 迫る左腕である枝を、クリプスは切り捨てた。斬られた部分から先の枝が、勢いを落とさずどこかへ飛んで行く。


「ジャミス! 今行く!」

「うぅっ……ほどけん。コイツ、馬鹿力じゃあ」

 ジャミスのパワーを上回るパワーってどんなのか気になるが、クリプスの剣ならパワー関係なく斬れる。何度も斬ってきた。


(助けられるのは、自分だけ!)


 クリプスはソードが届く範囲まで来て木人の右腕である枝を斬ると、ソードを鞘に収めながらすぐに踵を返してジャミスのところへ急ぐ。

 ジャミスは支えを失ってバランスを崩しながら、地面に落ちてくる。


(――間に合わない)

 ジャミスの落ちる方が速く、オルバイドのように受け止められそうもない。

 このままでは、彼女は地面に叩きつけられるだろう。いくらジャミスでも、無事だとは思えない。


(ジャミスが傷付くぐらいなら!)

 クリプスは頭からジャミスの下へと滑り込んだ。


「ぐぅえっっ!!」

 お尻から落ちてきたジャミスの衝撃が、彼女から貰ったドラゴンアーマーを通じてクリプスの背中に伝わる。強い衝撃はあったものの、ドラゴンアーマーはその形を保っていた。

 頑丈すぎる。その頑丈さで助かった。


「だ、大丈夫か? クリプス」

「俺は大丈夫……ジャミスは?」

「わっしは平気じゃ。立てるか?」

「ジャミスがどいてくれたら」

「そっか。重くてすまんのう。その痛みの怒りは、奴にぶつけるがよい」

「ああ」



 そんなやりとりをしている二人を見て、オルバイドは密かに思っていた。

(あらぁ……クリプスさんは尻に敷かれるタイプですねぇ)

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