第26話 ロフィエの町の静かすぎな目抜き通り

「なによなによなによぉぉぉぉぉぉーっ!!」

 一人しかいない広い部屋に、ロフィエの声が響く。

 ロフィエ御自慢の砂人と石人たちがやられていく様子を、目の当たりにしていた。


「ただのおバカな人間のくせに、強すぎじゃないぃ? 古古代魔法使う人間なんて、聞いてないですわぁ!!」

 ロフィエは、ジャミスとオルバイドが見た目が人間なだけで、本当はドラゴンというのを知らない。


「この前の大量に攻めてきた人間どもに使ってしまいましたから、魔力チャージの終わっている素があまり残っていませんわ。あれで十分だと思っていましたのに……」


 ロフィエが町に防衛用としてばら巻いていたり、回収してきた魔力の素には、殆ど魔力が残っていない。

 前回の戦い以降魔力チャージの終わっている物は、ほとんど出し尽くした。

 石人と砂人が全撃破されること自体が、想定外だった。


「もし、本当にここまで来ましたら……人間を直接ほめるなんて、屈辱ですわ!!」

 ロフィエは、そばにあった箱から一つの魔力の素を取り出す。

 石人や砂人の素よりは、少し大きめの物だった。


「これは単体で使うような物ではないので、足止め程度にしかならないとは思いますわ……。でも、その間に」

 ロフィエは窓のところまで行き、外へ魔力の素を投げた。

「……その間になんとか、あの人間どもをやっつける方法を考えないと、いけませんわ」

 少し焦りを見せつつ、ロフィエは次の手を考え始めた。


   ★


 町の中心を貫く目抜き通りを進むクリプス、ジャミス、オルバイドの三人。

 オルバイドの体調を考えて、走らずに早歩きで進む。オルバイドも体調は戻ってきたのか、足取りは強い。


「それにしても、不気味だな……」

 クリプスがつぶやく。

 ロフィエが来て以降、何度か戦闘があったはずだ。しかし町はきれいなままで、人がいないのを除けば、見た目には何も起きていないように見える。


 そして、

「誰も襲っても来ないし」

 そう、さっきの砂人と石人以降、何も出てこない。

 目的地が分からないので、とりあえず町の奥の方を目指しているが、誰も出て来ないのである。


「砂人みたいなのがワラワラ出てくるかと思ったのにな」

「出せないのかもしれませんね」

 そう言うオルバイドは足を止めて、地面から何かを拾った。


「見て下さい」

 オルバイドが拾った物を見せつける。

 クリプスとジャミスも足を止めて見ると、それはさっき散々破壊した魔力の素だった。

「さきほどからいくつも地面に転がっています。ただ、触っても魔力は殆ど感じられません。使った後なのかもしれませんね」

「100人の時のかな?」

「それは分かりませんが……」

「まぁよい。わっしにはやっかいな相手じゃったからな。それより、早くロフィエとやらをぶん殴りに行くぞ」

 と、ジャミスが先に進み始めたので、クリプスとオルバイドもあとを追いかけた。


   ★


 町の大通りを進んでいくと、とてつもなく大きな門が見えてきた。

 これが関所なのだろう。

 重い門は行く手を塞ぐが如く、固く閉ざされている。

 これを開ければ先へ進めるかもしれないが、この町へ来た目的は、そうじゃない。


 関所の左手を見ると、広い庭のある屋敷が見えた。

 これがゲーター侯爵の屋敷かもしれない。こちらの門は開かれていた。


「あやつ、歓迎しておるのかのう」

「歓迎会は最初にあったじゃないか。その後ここまで何もなかったのが、逆に不安なんだけど」

「恐らくですが、ロフィエさんは砂人と石人で終わると思っていたのではないのでしょうか」

 オルバイドの推測は正解だった。


「あんな大口叩いておいて、拍子抜けじゃのう。まぁよい。さっさと終わらるかの。だらだらしていても、遅くなるだけじゃ」


 三人は屋敷の門を抜けて庭に入る。

 広い庭は今でも手入れがされているかのようで、緑がまぶしい。


 その庭を貫いて屋敷まで続く道を進んでいると、目の前にどこからともなく短い丸太や木の板が飛んできた。

 やがてそれは、大きめな人の形を作り上げていく。


 太い丸太の胴には、その胴を守るかのようなプレートのように厚い木の板が貼り付けてある。

 足も胴よりは細い丸太。

 頭の部分は短い丸太が乗っかっていて、腕は木の枝になっている。


「木人じゃな」

 砂人、石人以来の敵は、木で出来たものだった。


「石人に比べると、幾分か殴りやすそうじゃのう」

「俺も戦えそうだ」

「私が火の魔法を使えれば、一発で燃やせるのですが……二人のお手伝いをします」

「いらん。わっしの拳で全て焼き尽くしてくれるわ!」

 そう言って木人に近付いて殴りかかるジャミス。相変わらず何も考えていない。


 だが、次の瞬間。

「なんじゃあ、こりゃあっ!」

 ジャミスは空中にいた。

 木人の右腕である枝が伸び、ジャミスに巻き付いて持ち上げていた。


「きゃああああああぁっ!!」

 オルバイドの悲鳴も上から聞こえてきた。見ると、オルバイドには左腕の枝が巻き付いて持ち上げられている。


「え? 無事なの、俺だけ?」

 二人を助けないと……。

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