第25話 砂人と石人のやわかたな身体
「さて……」
ジャミスは砂人や石人たちを睨みつける。その数、おおよそ50以上。
これは峠で相手した猪人よりもはるかに多い。
「この
「どうする? ジャミス」
「もちろん、こうする!」
ジャミスは砂人に殴りかかった。
ロフィエの幻影と違って、今度は拳が砂人の顔面を捕らえた! ――と思ったが、砂が砕けて手応えが無い。
幻影に殴りかかった時と同じように、自分の勢いでバランスを崩した。
「なんじゃあ! 柔らかすぎる!」
「となると、俺か?」
頭が砕けてなくなり、首から下が残っている砂人の胴をクリプスが斬る。
腰の少し上付近をナナメに斬られた砂人の胴が二つになり、上部分がズッと滑り落ち、地面で粉々に砕け散った。
残った身体も前のめりに倒れ、砕け散る。
「行けるっ! 俺は砂人を斬る!」
「なら、わっしは……」
ジャミスは石人を見た。
石人は石が集まって人の形になっている。全体的にゴツゴツとした身体。
石人たちはジャミスを見たまま、動かない。
「ふむ。なんとなく結果は見えてはおるが、やらない訳にはいかんじゃろう」
ジャミスはとりあえず石人の顔面を殴ってみる。
拳が石人の顔面を捕らえたまま、ジャミスは動かなくなった。
その見た目と雰囲気からなんとなく予感はしていたが、結果は予想通りだった。
「なんじゃあ! 固すぎる!」
痛みがこっちの手にやってきた。
相手は魔法で作られた石人。ついでに防御力を上げる魔法がかけられているのかもしれない。厄介な敵だ。
ジャミスはチラッとクリプスを見る。少しの期待を込めて。
「いやいや、斬らないからね? 絶対。ジャミスの拳でもどうにもならないのに、斬ったらソードが折れるか、欠けるヤツ!」
ジャミスと目が合ったクリプスは、ジャミスが何を望んでいるか、手に取るように分かる。
だが、やらない。やりたくない。
近くにいた砂人を斬って、目を逸らした。砂人はスパッと斬れるので、やってて心地がいい。
(これなら石人も……?)
という期待は生まれるが、ソードに何かあった時のダメージが大きいので、手は出さない。
(まずは確実に斬れる砂人の数を減らしたい)
と、砂人を斬っていると、
「クリプスさんっ! 後ろ後ろぉ!」
オルバイドの声が背後から飛んできた。振り返ると、そこには斬ったはずの砂人が元の姿に戻っていた。
「えぇ!?」
驚くクリプス。この砂人が斬られて地面で崩れるのを、確かに見た。
「普通に斬るのでは、元に戻ってしまうようです! 中心を斬ってみて下さぁい!」
オルバイドが叫ぶ。
中心って、どこを斬ればいいのだろうか。
「ええいっ!!」
迷ってる暇は無かった。
クリプスは砂人に剣を振り下ろす。
身体の中心を通るように、まっすぐと縦に。
胸の辺りで砂とは違う感触がした。
縦に真っ二つと斬られた砂人は、左右に別れて倒れた。
身体の断面は、違う感触を感じた辺りには、黒い半球状の物が左右に見える。
黒い半球状の物が消滅すると、砂人はサラサラと砂に還ってしまった。
「今のは……砂人の魔力の素じゃな」
ジャミスが言う。
「今の素から魔力が供給されて、砂人が動いておるんじゃろうな。あれを破壊しないと駄目じゃったんじゃな。あれがあれば、術者から供給し続けなくてよいからのう。大量に操れるはずじゃ。恐らく、素は石人にも有ると思うぞ」
「石人にも……ねぇ……」
恐らく素があろう胸の部分は、当然石で覆われている。顔ですらジャミスが砕けないレベル。クリプスの剣じゃ歯が立たないだろう。
「石人は私がなんとかします! 石人の動きを抑えつつ、砂人を倒して下さい! なるべく集めていただくと、助かります!」
「って、オルバイドが言ってる。やる?」
「うむ。策があるのだろう。やろうではないか。二人で」
「ああ」
クリプスとジャミスは石人を牽制しつつ、砂人の中にある魔力の素を破壊していった。
一方、オルバイドはロッドを少し高く掲げながら、口を動かしているのが見える。呪文の詠唱だろうが、なかなか終わらない。
長い。
これはきっと古古代魔法だろう。古代魔法よりさらに古い魔法になる。
術式や詠唱が複雑で、コントロールが難しい。そして現代の魔法に比べると同じ効果の魔法でも、魔力の消費量がはるかに大きいという。
オルバイドが何も考えずに使うとは考えにくい。長い詠唱の間、時間を稼がねばならない。
クリプスは魔力の素を斬り、ジャミスは手を突っ込んで魔力の素を握りつぶして砂人の多くが消えた頃に、
「離れて下さいっ!」
オルバイドが叫ぶと同時に、クリプスとジャミスが後方へ飛び退いた。
二人が離れたのを見て、オルバイドは掲げていたロッドをトンっと地面に下ろした。
すると、石人たちの足元から先端の鋭い氷の固まりが突き出てきて、石人たちの身体を貫いていく。
飛び出してきた氷は石人に埋め込まれた魔力の素を捕らえていく。
素を砕かれた石人は魔力供給が断たれて、ただの石に戻ってバラバラになっていった。
「効いた……よかっ……」
そうつぶやいたオルバイドは、全身の力が抜けたようにぐらりと体勢が崩れる。
「オルバイド!!」
クリプスは急いでオルバイドの元に駆けつける。
「あとはわっしに任せとけぇ!」
残ったジャミスは氷と石人が消えた場所に残っている砂人たちに手を突っ込み、素を握り潰していった。
「オルバイド、大丈夫?」
駆けつけたクリプスは、力の無いオルバイドを支えた。なんとか間に合って、オルバイドが地面に倒れるのは防げた。
ぐったりしたオルバイドは少し重く感じたが、そんなことは言ってられない。全力で支えないと。
「すみません。一気に魔力を放出したので、その反動が来てしまいました。でも、ジャミスが暴れ終わる頃には、回復していますので……」
「ありがとう。ここは突破できそうだよ。それにしても、古古代魔法なんて初めて見たよ」
「そうですよね。私が古い生き物だから、使える魔法は古古代魔法が多いのです。なので、発動に時間がかかる上に魔力消費も大きいので、攻撃魔法はそこまで得意ではないと言っているのです」
オルバイドは古い人間だから古い魔法と言うが、古古代魔法は数百年レベルで昔の魔法。
古い、じゃない。古すぎる。
オルバイドって一体何歳――怖くて知りたくない。
「あ、もう終わりそうですよ」
オルバイドに言われてジャミスの方を見ると、最後の一体だった砂人の素を身体から取りだして、高く掲げて握り潰した。砂人は立ったままサラサラと砂へ還る。
「わははははははっ! やっぱりわっしが最強じゃあぁ!」
ジャミスは嬉しそうだ。やっぱり戦うのが好きじゃないか。
「予想よりも早かったですが、行きましょう。先へ」
そう言って、オルバイドは身体を起こそうとする。
「行ける? 本当に」
まだ本調子ではなさそうなオルバイドの様子が、クリプスは心配だ。
「休んでいる暇はありませんし、体内の魔力バランスが戻りさえすれば普段通りに行動出来ます。行きましょう」
「……分かった。無理しないでね。俺はここでオルバイドと別れたくないから」
「はい」
クリプスはオルバイドの手を優しく取り、立ち上がらせる。
クリプスは気付いていなかったが、この時のオルバイドは口元が緩んでいた。
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