第23話 竜人たちと旅人のやる気十分な潜入
クリプスたちは、ゲーター侯爵領と迂回路の分かれ道で後続の荷馬車を待った。
幸い、そこまで待たずに後続の荷馬車が来たので、乗ってきた荷馬車の人も一緒に行ってもらうことにした。
なぜなら、護衛役のクリプスたちがここで降りるからである。
「気を付けるんだよね。あなたたちとは、また会いたいんだよね」
「会えるさ。その時はここが通れるようになってたらいいな」
「通られるようになっているに決まっておろう! わっしらがおるのじゃから」
「そうですね。その為に行くのですからね」
「頼むよ。じゃあ、お別れなんだよね」
乗ってきた荷馬車を見送る。
クリプス、ジャミス、オルバイドの三人は小さくなっていく荷馬車たちが消えるまで見送った。
「さてと……」
三人は、ゲーター侯爵領方面に続く道を方へと向いた。
そこには木製の柵が設置してある。誰も通るなという、国の意思表示だ。
「これを超えれば、魔境じゃ。ま、すぐに魔人の支配下にはならんと思うがのう」
「俺、魔人に会うのは初めてだ、多分」
「まぁ、ジンジンしますね」
「オルバイド、飲んでる?」
「いいえ? 飲んでいませんが?」
サムいダジャレがオルバイドの口から出たので怪しんだが、本人が言うなら飲んでないのだろう。オルバイドを信じたい。
「その辺の魔人ぐらいだったら、わっしらは負ける気はせん。ただ、大人数を一人で相手して勝ったというのは、気になるのう。そんなに強い魔人なら、もっと名を轟かせておるはずじゃ。特に何もしておらんのに、勝負を挑まれ続けたわっしのようにな。ま、わっしは最強じゃから、仕方ないな。大体、懺滅の魔女なんて魔人、初めて聞いたのじゃが。名前も知らんし」
「ジャミスって名前みたいに、広まってないとか? ジャミスはファイアレッドドラゴンとして知られてたわけだし、オルバイドだってアイスブルードラゴンとして知られてるし。懺滅の魔女だって、本当の名前じゃないだろうし」
「うーむ……そう考えると、魔人って不利じゃな。〔魔人〕じゃ、どんな奴か分からんからな」
「確かに……」
「どんな奴じゃろうと、とりあえず一発ぶん殴って誰が最強か、分からせる必要があるのう」
そう言って、ジャミスは腕をぶん回す。やる気は十分だ。
「好戦的だなぁ……。そんなに強さを見せたいなら、ドラゴン体に戻ればいいのに」
「まだ、あの姿に戻れるほどの魔力は戻っておらん。わっしは魔力の回復が遅いからのう」
「戦うのに問題ないの?」
「ない。普通の戦いで魔力は大して使わんからの。まぁ、戦えば戦うほど回復は遅くなるが。そもそも、ドラゴン体に戻ったら、今度は人間体にしばらく戻れないからな。ここで旅が終わってしまうぞ? オルバイドなら行けるんじゃないか? ドラゴン体」
「いざとなったら戻れますけど……私もポンポン変身は出来ませんよ? それに、私は今の人間体が気に入っていますので。かわいい服とか着られますし」
「わっしは今すぐにでも服を脱いで解放したい」
「外ではやめて下さい」
「オルバイドが言うなら、仕方ないのう。それはよいのじゃが、クリプス。おぬしも来るのか?」
「え? どうして?」
そんなことを訊く理由も分からない。
「行かない理由がないよ」
「前にオルバイドが話しておったが、魔人というのは大体強い。クリプス、おぬしがわっしに挑んでくるような命知らずとはいえ、今までと違って死ぬ可能性は高いぞ? よいのか?」
いつも鋭いジャミスの眼光。今は強さを増している。彼女は真剣だ。
一瞬悩んだクリプスは目を伏せたが、すぐにジャミスの目をまっすぐ見つめた。
クリプスの決意は固い。
「俺は死ぬ覚悟で行ったジャミスとの戦闘でも生き残った。そのジャミスもいるし、オルバイドだっている。今は死ぬ気がしないよ」
「随分な自信じゃな」
「全部ジャミスのせいだ。責任取ってもらわないと」
「そっかそっか。わっしで取れるかのう」
「責任取ると言いましたが、二人とも結婚をするのですか?」
オルバイドがポンと投げ込んだ一言に、二人ともハッとなった。
「責任を取れって、そういう意味じゃったのか!?」
「ちちち、違うよ! そこまで考えてない!!」
「あらぁ、『そこまで』ってことは、少しは気があるってことですかぁ!?」
目をきらきらと輝かせて凄く嬉しそうなオルバイド。恋バナは大好物だ。
クリプスがジャミスをチラッと見ると、どう答えるか気になっている様子。
これじゃあ否定するのはジャミスに悪い気がするし、肯定したらオルバイドがますます喜ぶ。
(さて、どうしたものか……)
こういう時は……。
「そ、そうだ! オルバイド、ゲーター公爵領について、何か知らないの?」
話題を逸らすに限る。
「え? ゲーター公爵領ですか? すみません。私はあまり知らないのです。ゲーター侯爵がこの道を管理、監視しているというぐらいしか」
「町の様子も不明か……。魔人はどこにいるのだろう」
「なぁに。侯爵の屋敷にでもいるじゃろう。とりあえず一番目立つ建物に突撃すればよい」
「いいの? それで」
クリプスはメンバーの頭脳であるオルバイドに確認をする。
「そうですね……町に入れば、相手は何かしら動きがあると思います。そこから考えるしか無さそうですね」
「その場の勢いってことじゃな? わっしの一番得意な戦略じゃ」
「それ、戦略って言えるのですか?」
「もちろんじゃ」
自信たっぷりに言うジャミス。こうなったら、どんなに否定しても認めないだろう。
「さぁて、そのでかい面、拝ませてもらおうかのう。行くぞ」
ジャミスは、柵を乗り越えてゲーター侯爵領へ続く道へ入る。
「私たちも行きましょう、クリプスさん」
オルバイドは道具袋からロッドを取り出し、いつでも戦える準備をしてから柵を乗り越えてジャミスを追いかけた。
「なんだよ、オルバイドまで戦う気十分じゃないか、もう……」
二人で迷惑系魔法使いを倒したジャミスと、今回仲間に加わったオルバイドがいるなら勝機があると思って提案したのだが、二人とも思ったよりも乗り気で良かった。
そんなことを思いつつ、クリプスも柵を乗り越えてゲーター侯爵領へと向かった。
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