第21話 カーケ村外れの怪しげな洞窟の正体

 丁字路まで戻ってきた三人。

 左に曲がれば出口なので、まっすぐ進むしかルートはなかった。

 少し進むと、緩やかな下り坂になっている。


「下りていくね」

「どこへ行くのじゃろう」


 途中、平らな部分があって、折り返す。

 そこは踊り場のようで、また下り坂が続く。


「まだ下がるね」

「どこまで下っていくのじゃ」

「ねえ、ジャミス、クリプスさん。この方向って……」

「「ん?」」


 坂道を最後まで下っていくと、少し頑丈な扉があった。

 扉を開くと、そこには広い空間が広がっている。


「ここは……」

 一段とひんやりした部屋に、ジャミスの声が反響する。

 振り返ってランタンを高く掲げると、上の方にぼんやりと小さな穴が見えた。


「さっきわっしがハマった穴か!」

「多分、そうだと思います。私たちが歩いた距離を考えますと」

 オルバイドの予感は当たっていた。ここは、さっきジャミスがハマった穴の下である。

 ジャミスが暗くて見えなかったものが、ここだ。


「そしてここにあるのが……」

 ジャミスが正面を向いて先を照らした。

 そこには、再び頑丈な扉。今度は先ほどの扉よりも少し小さい。


「また扉。随分と厳重にしておるのう」

「この奥には、きっと秘密の物があると思います」

「一体何が……」

 クリプスはツバを飲み込んだ。その音が、静かな洞窟で大きく響いたような感覚がした。


「開けるぞ」

「はい」

「ああ」


 ジャミスはリング状のドアハンドルを引く。

 扉が開くと、大量の冷気が流れ出してきた。

 中でランタンに照らされたのは、大量の氷だった。


「ん? 貯氷庫かのう?」

 ジャミスが一歩踏み出すと、

「ジャミス、足元!」

 クリプスが制する。

 暗くて分かり辛かったが、そこには大きな穴が開いていた。

「これは……侵入者を殺すトラップじゃ!」

「そうじゃないみたいだ」

 クリプスは近くを指さす。そこには下へ降りる階段が見えていた。


 三人は階段を下りていく。幅は人一人に少し余裕があるぐらいで、二人は並べないほど。穴は円状に掘られていて、階段はその壁に沿っている。

 下まで降りると、そこには多くの物が置いてあった。

 氷の冷気が集まっていて、上よりも凍えるその場所にあったのは――。


「食料じゃな」


 そう。食料だった。食料以外にワインなんかもある。

 ここは食料の冷蔵倉庫のようだ。

 氷で空気を冷やし、それで食料などを冷やす原始的な仕組みだ。冷気が逃げづらいよう、工夫がされている。


「もー! ただの倉庫じゃないですか。誰です? ここを怪しいと言い出したのは」

 そう叫ぶオルバイドに浴びせられる、ジャミスとクリプスのジト目。

 オルバイドは一旦目を逸らしたが、

「てへっ」

 笑顔でごまかした。


「――と、とにかく、この村が氷に覆われている理由は、まだまだ解明出来そうにないですね」

「そうじゃな。怪しくないと分かったし、帰ろうかのう」

「そうですね」

「そうだね」


   ★


 三人は洞窟を出て来た。

 クリプスが開けてしまった扉の鍵は、かけられそうもない。最後に出た人がかけ忘れたという設定にしておいた。

 どうせすぐに旅立つし、問われることはないだろう。

 怪しくもなんともなかった洞窟に別れを告げる。


「さよなら、洞窟」

 クリプスが振り向いて呟く。そこに見えるのは、斜面にある洞窟入口の扉と、その周囲を覆う氷だけだ。


「……ん?」

 クリプス、気付く。

「なぁ、ただの貯蔵庫なはずなのに、なんで扉の周りは氷で覆われてるんだ?」

 クリプスの言葉で、ジャミスとオルバイドも振り返る。

 ただ普通に氷を置いているだけなら、こうはならないはずだ。


 この洞窟、村と同じで何かが起きている。

 それが何かは分からない。なぜ、この洞窟が凍っているのか。


「また疑問が増えてしまいましたね。謎を解明するのに、まだまだ時間がかかりそうです」

 そう語るオルバイドは、なぜかちょっと嬉しそうだった。研究するのが好きなのかな?


   ★


 洞窟の謎は残ったままだが、三人は王都オータムハイブへ向けて旅立つことにした。

 オルバイドの家は、留守中近所の村人が管理することになった。オルバイドがアイスブルードラゴンだということを知らず、関係は良好なのだそうだ。


 そしてもう一つ、オルバイドからいいお知らせが。


「オータムハイブ方面へ行く荷馬車を捕まえました。護衛をするなら、乗せていってくれるそうです」

「馬車か。わっしは初めて乗るぞ」


 この調子なら、王都には意外と早く着くかもしれない。

 洞窟探検の長期戦を覚悟して買い込んでいた荷物は、そのまま旅の必需品へと変わる。準備はほぼ、いらなかった。途中で何かあっても、次の村までは持つだろう。


「さぁ、行こう! わっしらの目的地、王都オータムハイブへ!」

 ジャミス、クリプス、オルバイドの三人は、荷馬車で王都オータムハイブへ向けてカーケ村を旅立った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る