第20話 ジャミスの変な気持ちの脱出大作戦

「うぉぉぉぉぉぉ!! どうすればいいんじゃあ!!」

 お尻を一所懸命振りながら叫ぶジャミス。一向に出てくる気配が無い。

 これではただただ、ジャミスの尻振りダンスを見せられているだけだ。


「クリプス!! 引っ張ってくれぬかぁ!!」

「俺がぁ!?」

「おぬししか、頼れるのがおらんのじゃあ!!」

「私は……」

 と、頼られなくてちょっと不満そうなオルバイド。


「分かった。今、助けるよ」

 クリプスはジャミスの後ろに立つ。

 見下ろせば、そこには上半身に比べて軽装なジャミスの下半身。大きなお尻と肉付きのいいふとももがある。

 こんな大きなお尻、初めて目の前にするかもしれない。

 思わず、生つばを飲み込んだ。


「……あの、変なこと考えてないですか?」

 冷めた目で見てくるオルバイド。オルバイドの冷たい目は、強烈だ。

「考えてないよ!!」

 必死に否定するクリプス。今は、ジャミスを助けたい気持ちの方が勝る。


 とはいえ、引っ張るために掴む場所がない。お尻を鷲掴みにというわけにもいかないだろう。そんなことしたら、間違いなく変な気持ちになる。


 なら、ふとももだろうか? すごくやわらかそう……。


 いやいや、そんなこと考えてる場合じゃない。

 別の場所……お尻から腰にかけての部分が穴から少し出ている。こっちの方がよさそうだ。


「ジャミス、身体触るよ?」

「頼む。こんなところで命尽きるのは、いやじゃあ」

「行くよ」

「ああ……」

 クリプスはジャミスの身体をしっかりと掴んだ。


(――ジャミスって、思ってたより柔肌だな……)

 ドラゴンとは思えない。


 そんな余計な邪念が、クリプスの頭を支配する。

 クリプスは強く頭を左右に振って邪念を払い、ジャミスを引っ張った。ジャミスも両脚に力を入れて下がろうと踏ん張る。

 しかし、ちょっと出てくるだけで、何かがひっかかって出て来ない。


「あだだだだだ!! もげる! おっぱいがもげる!!」

 その叫びを聞いたクリプスは、思わず手を離してしまった。

 ジャミスの両脚からも力が抜けて、だらーんとなった。


「ジャミス、その……胸が引っかかってるの?」

「そうじゃな」

 穴に入ったんだから、潰せばなんとか出られそうな気はするが。

「おっぱいというか、アーマーが引っかかってるのかもしれん」

「アーマー……」

 クリプスは思い出した。


(そう言えば、出会った時に……)


「ジャミス。確かそれ、魔法で出してたよね? 一時的に消せないの?」

「――そっか。その手があったのう。クリプスは賢いな」

「いや、出した本人が、なんで気付かないの?」

「出るのに必死じゃったからのう。ちょっと待っておれ」


 ジャミスの全身がまばゆい光を放ち始める。全身と言っても、クリプスとオルバイドから見えているのは、お尻と脚だけだが。


「お、抜けそうじゃ」

 と、ジャミスはお尻を動かし始める。

「あ、行きそう」

 やがて、光の収まったジャミスの上半身が、スポッと穴から飛び出してきた。


 一糸まとわぬ姿で。


「なんで全部脱いじゃうの!? 外すの、ライトアーマーだけでよかったんじゃ!?」

 そう言いながら、クリプスは持っていたマントをジャミスにかけた。魔法でまた元の姿に戻すのはすぐ出来るのだろうが、さすがに全裸で放置は出来ない。


「抜け出すことで頭がいっぱいじゃったからのう。細かい調整まで出来んかった。ま、ドラゴンの時は何も着てないからのう。これぐらい普通じゃよ。なぁ? オルバイドよ」

 ジャミスはオルバイドに同意を得られると思っていたが、

「ジャミス、人間の時は服を着て下さいね」

 と、ピシャリ。


「そんな……オルバイドは人間に染まってしもうたのか……」

「いや、人間の時は人間に合わせるのが普通だから、オルバイドは間違ってないと思うぞ」

 クリプスもオルバイドの意見に賛同。

 ジャミスは圧倒的に不利である。


「例えば、俺がドラゴンの姿になったとして、服着てたらおかしいだろ?」

「……そっか。それもそうじゃな」

 どうやら、ジャミスは納得してくれたようだ。

 これでクリプスも一安心――でもなかった。

「ジャミス、服着たら?」

 ジャミスがまだ裸だった。


「そうじゃのう。人間体での全裸は寒すぎる」

 そう語るジャミスの身体が再びまばゆい光を放ち始めた。

 光が収まると、いつものボディスーツとライトアーマーの姿になっている。


「これでよいか?」

「うん。結局、何か見えた?」

「いいや。魔法で光った時に何か見えるかと思ったが、見えんかった」

「そう」

 これでは、ただジャミスが穴にハマっただけである。なんの意味もない行動だった。


「これで一安心じゃな。しっかし、装備品を全部解放したのは失敗じゃとは思った」

「どうして?」

「いや、その…………先っぽが擦れて、少し変な気持ちになってしまったんじゃ」

「……」

 恥ずかしそうにするジャミスを見て、クリプスは開いた口が塞がらない。


 そんなこと言われたら想像してしまうので、やめて欲し……いや、やめないで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る