第19話 謎な洞窟の不思議な穴
三人はランタンに火を灯し、洞窟の中へと入っていく。
先頭はランタンを持つクリプス。そして隣にジャミスがいる。
洞窟の横幅は、二人並んで少し余裕があるかな? という程度の広さ。天井はあまり高くない。
入口を少し開けているせいか、外からの空気の流れは感じる。
真っ暗な洞窟の中は、ゆらゆら揺れるオイルランタンの明かりだけが照らしていた。安い魚油特有の臭いがしないことからも、いい油を使っているに違いない。
(もったいないなぁ……)
なるべくお金を使わないように生きてきたクリプスは思う。魚油の臭いも、慣れるとクセになるのに。
洞窟内は不規則な形をした壁や天井が見える。これは自然の洞窟なのだろうか。
だが、入口に扉が付いていた。明らかに誰か人の手は入っている。
「うっ……」
ジャミスは身体を震わせていた。あまりの寒さにマントを羽織っているが、彼女のマントはかなり薄手だ。
「ジャミス。俺のマントと交換するか? 寒いだろう?」
「平気じゃ。おぬしが寒かろう」
「俺は寒くない。ジャミスは身体を震わせてるだろう」
「むぅ……。おぬしがそういうなら……」
ジャミスはしぶしぶ応じて、マントを交換した。
ジャミスのマントを羽織るクリプス。確かにそれは薄手で、ないよりはマシレベル。寒さが突き抜けてくるようだった。
クリプスには、ギリギリ我慢出来る寒さだ。
(これでよく耐えられたな)
そう思いながらジャミスを見ると、
「あぁ……暖かいのう。クリプスの温もりを感じるぞぉ」
と、ご満悦な様子。
(ま、喜んでるならいっか)
その時、ふと思った。
後ろを見ると、比較的薄着なオルバイド。彼女はマントも羽織っていない。
「オルバイド、寒くないの?」
「全然?」
平然とした顔をしている。
「あやつはわっしと違って、寒さには強いからのう」
「同じドラゴンでも、違うんだな」
「人間だって、寒さに強いのと弱いのがおるじゃろう」
「そう言われたら、そうだな」
と話していると、丁字路に着いた。洞窟は左右に分かれる。
「どっちに行くか、三人一斉に言ってみよう。せーの」
「右」
「右じゃな」
「右ですね」
三人の意見は一致した。
その意見の通りに右へ進むと、思ったより早く壁が見えてきた。道はここまでのようだ。
「ふっふっふ。わっしは知っておるぞ! 洞窟のこういう行き止まりには宝箱がっ!!」
……なかった。
ジャミスがクリプスから奪い取ったランタンで地面を照らしてみたが、何もない。
「空箱すらないのですね」
横に並ぶジャミスとクリプスの後ろから顔を出して覗くオルバイドが言う。
「表に扉があったのですから、例えあったとしても、回収済なのではないでしょうか」
「いや、なんかあるじゃろう……ん?」
他に何か無いか探していたジャミスが、壁の腰ぐらいの高さに穴が開いてるのを見付けた。穴は小さく、身体が入るぐらいの大きさだ。
「なんじゃ? これは」
ランタンを近付けてみるが、奥はよく見えない。
とりあえず手を突っ込んでみた。
「おおっ! なんか、この奥はさらにひんやりしておるぞ!」
「何かありそうなのか?」
「多分な。ちょっと持っておれ」
ジャミスは脱いだマントとランタンをクリプスに渡した。
「中を覗いてみる」
「大丈夫か? 入る?」
「大丈夫じゃろう。身体はわっしよりオルバイドの方が細いと思うが……なにより、わっしがすっごい気になってる!」
「そう……」
目を輝かせるジャミスがなかなか止められないのは、クリプスはもう分かりきっている。ジャミスに任せることにした。
「ん……しょ」
ジャミスは穴に頭、そして上半身を突っ込む。少しキツめだったが、身体をよじらせると、なんとか入って行けた。
「何か見えるかい?」
「んー……真っ暗じゃ」
「そうだろうな」
「ただ、なんか広い空間じゃな。わっしの声が響いておるぞ」
「そうなんだ」
「もうちょっと進んでみるかのう」
再び、ジャミスは身体をよじらせた。
後ろから見ているクリプスとオルバイドには、ジャミスが大きなお尻を振っているだけのように見える。
やがて、お尻はピタリと止まった。
「どうした?」
「どうやっても、ケツがひっかかって進めんのじゃが」
「まぁ、そこは人が行き来するような穴でもなさそうだったからね。戻ってきたら?」
「そうじゃな」
再び、ジャミスはお尻を振る。
しかし、一向に出てくる気配が無い。
しばらく動いていたお尻が、ピタリと止まる。
「どうした?」
「おっぱいがひっかかって、後ろにも戻れないんじゃが」
「は?」
洞窟探検どころではなくなった。
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