第18話 竜人たちと流浪の旅人の愉快な洞窟探検を始めたい

「ああああっ!! なんということじゃあぁ!! 面白そうな洞窟じゃったのにぃ!!」

 ジャミスがひざから崩れ落ちて、地面に手をついた。

 そんなに洞窟探検をしたかったのだろうか。


「ちょっと待って下さい!!」

 オルバイドの声で、ジャミスも顔を上げる。


「どうしたのじゃ?」

「扉がついています」

 改めて見ると、洞窟入口に打ちつけられた木の板には、確かに扉のような物がついていた。

 これなら出入りできるだろう。


 すぐに三人は扉の前に行くが、

「鍵がついておる!」

 縦長のドアハンドルの上には、鍵穴が見えた。よく見かける、丸と台形が組み合わさったようなウォード錠の鍵穴だ。


 ジャミスはとりあえずドアハンドルを握って引っ張ったり、押したり、横に動かしたり、上に持ち上げたりしたが、全く開く気配が無い。

 どうやら、この扉には鍵がかかっているようだ。


「開かないみたいですね」

「くっ……。こうなったら、わっしのパンチをぶち込んで……」

 と、ジャミスは右腕をぶんぶんと回し、破壊する気満々。


「またジャミスは力技でなんとかしようとしてます!」

「しかし、オルバイド。これはわっしのパワーで壊すしか、進む方法はなかろう」

「他に方法あるでしょ?」

「なにがあるんじゃ?」

「それは……何かあるでしょう」

「やっぱり、わっしのパンチで……」

「なんでも力で解決しようとするパワー馬鹿!」

「なんじゃと!! この頭でっかち!!」

 いがみ合い始める二人。


「待ってくれ、二人とも」

 それを止めたのは、クリプスだった。

「止めるでない! これはドラゴン同士のプライドをかけた戦いじゃ」

「そうよそうよ!」


 やる気の二人。

 そのやる気を、もっと別の方向に向けてほしい。


「そうじゃなくて、俺が開けるから」

「なんじゃ? 開けられるのか?」

「多分ね」

 クリプスは鍵穴から中を覗き込みながら言う。鍵穴が大きいので、鍵の構造は見える。

「ちょっと待ってて……」

 クリプスが手持ちの道具で鍵穴から中をいじり始めて少し経つと、


 カチリ


 と鍵穴の奥から音がした。

「開いたな」

 クリプスがドアハンドルを持って引くと、あんなに動かなかった扉があっさりと開く。

「おぬし……そんなスキル、どこで身に付けたのじゃ?」

「何もなくてどうしようと思ってたころ、手っ取り早く稼ぐのに泥棒でもやろうと思って覚えたんだよ。結局、こそこそするより堂々と生きたいと思って、旅人になったんだけどさ」

「旅人になってよかったな」

「なんで?」

「そのお陰でわっしと出会えたんじゃから」

「私ともね」


 そう言われたクリプスは、二人の顔を見た。

 ジッとクリプスの顔を見つめてくる、ジャミスとオルバイド。

 今は見た目が人間な二人だが、


 ファイアレッドドラゴンのジャミス。

 アイスブルードラゴンのオルバイド。


 ドラゴン二人と旅をするなんて、泥棒にでもなっていたら出来なかっただろう。

 そうでなければ、最後にファイアレッドドラゴンに挑もうなんて思わなかったから。

 そして、ジャミスのブレスで生き残った後は、伝説通りに人生が変わったような気がする。

 こうやって、仲間と旅をしているのだから。


「そうだな……」

 女の子に見つめられるのは照れくさい。

 クリプスは照れを隠すようにドアの方へ向き直して、少し開けていた扉をゆっくりと開いていった。


 中は真っ暗で、よくは見えない。

 ひんやりした冷気が、中から流れ出してくる。


「暗くて寒いのう」

 ジャミスが身体をぶるっと震わせる。


「暗いと思って、これを持ってきています」

 オルバイドが出したのは、ランタンだった。これはオイルで火を灯し、周囲を照らす道具だ。


「俺も持ってるぞ」

 クリプスが出したのは、松明たいまつだった。こちらは松ヤニに火を灯して照らす。小さく、携帯に便利なサイズのものだ。


「こちらで行きましょう」

 オルバイドはランタンを少し持ち上げて、主張する。

「でも、オイルランタンってともあぶら代がかからない? 松明なら安いし」

「煤、吸いたいですか?」

 そう言ってオルバイドはニコッと微笑む。

 強烈な無言の圧力がかかる。

 天使のような悪魔が、そこにいた。

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