第16話 酒場のサムサムでアツアツな宴会
「では、メンバーが増えた記念に宴会じゃ。オルバイド、いい店はあるかのう?」
「有りますけど……その前に洞窟へ行く準備しないと。準備は大切です。武防具は行かなくてもいいでしょうけど、道具屋とかですね」
「おお、そうじゃ。道具で思い出したのじゃが、あれはまだあるか?」
「あれ?」
「あれじゃよ、あれあれ」
「ああ、あれですか? 有りますよ。ちょっと待ってて下さい」
一旦奥に引っ込んだオルバイドが持って帰ってきたのは、道具袋だった。それと同じ物が、オルバイドの腰の辺りに付いている。
「これですか?」
「そう、それじゃ。クリプスが生意気なことを言うでのう」
(どれのことだろう……)
クリプスは自由すぎるジャミスを制するために色々言ったような気がする。ジャミスが生意気だと思ってそうなことは、多数ある。
「その凄さを見せつけてやるのじゃ」
「どれがいいですか?」
「オルバイドがいつも使っておる、あれでいいんじゃないか?」
「そうですねぇ……」
オルバイドが自分の腰に付けている道具袋の上に手を持ってくると、道具袋の口が光り出した。そして口から細長い物が飛び出してくる。
オルバイドがつかんだそれは、小さな羽根のような飾りが付いたロッドだった。恐らく、オルバイドが普段魔法を出す時に使っている物だろう。
そしてクリプスは気付く。
「え? ちょっと待って? おかしくない?」
ロッドの太さは道具袋に収まる。
だが、長さはどう見ても道具袋の縦幅より長い。
物理的におかしい。
「これは魔法の道具袋です。私が作りました。荷物もいっぱい入って、長い旅でも安心でしょう?」
「ふっふっふ。クリプス、おぬしは峠道で邪魔にならなければ木剣を買っていいと言っておったな?」
――言ったな。確かに言った記憶がある……。
「これで全て解決じゃ。のう? クリプス?」
ジャミスは不敵な笑みを浮かべる。
それは、クリプスが持つ財布終了のサインだった。
★
その後、三人は道具屋で洞窟探検に必要な食料や薬などを買い込んだ。もし使わなかったとしても、その後の旅でも使えるのでムダにはならないだろう。
そして鞘に『カーケ』と書かれた木剣も。
なんとかこれだけで済んだので、財布へのダメージは小さかった。
ジャミスが嬉しそうにオルバイドから貰った道具袋に詰めているのを見て、
(買ってよかったかな?)
とクリプスは思った。
最初に貰った『ガスターブ』の木剣は、そのまま背中にある。これは初めて手に入れた木剣で、ずっと背中にあったので、これからもずっとそのままにするらしい。
準備が終わったところで、酒場へ。
ここの酒場はホットワインとも呼ばれる温ぶどう酒を提供していた。スパイス入りの温かいワインで、寒い氷の村ではとても温まる飲み物だ。
「このワインはいーんだよ」
料理も温かい物が多かった。寒い氷の村で温かい食べ物は助かる。
「あったかい食事があったかい?」
前にジャミスもダジャレ好きの知り合いがいると言っていたし、村に入る前に「つまらないと言うな」と言っていた。
そして今、ダジャレを飛ばしまくっている人が目の前にいる。
ジャミスの言っていたことは、全てオルバイドのことだったのだ。
(でも、天使のダジャレはかわいらしいな)
心がほっこりする。
温かい目で見てあげよう。
「食堂の食事、おいしすぎてショック! どう? みんなは。ふふふ」
――いや、寒い。
本人は楽しそうだけど、寒い。
生暖かい目でオルバイドを見てしまう。
折角暖まった身体が、また冷えそうではある。
ふとジャミスを見ると、温ぶどう酒をちびちび飲んでいた。
ガスターブ村の惨状を経験しているだけあって、大人しく飲むジャミスは意外な姿だ。だが、これはこれで絵になる。
「今日はゆっくり飲むんだね」
「うむ。この酒は量を飲むタイプじゃないからのう」
「そっか」
「それにな」
「それに?」
「これは飲んでいるとぽかぽかしてくるからな。飲み過ぎると暑くなって脱ぎたくなるのじゃ」
「知らない人の前で脱ぐのはやめて!」
「なら、クリプスの前はよいのか?」
「いや、それもよくないけど!」
宴会は比較的遅い時間まで続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます