第13話 クリプスとジャミスの爽やかな日課
朝がやってきた。
同じベッドで寝ることになったが、即寝落ちしたお陰で何もわだかまりもない、最高の朝となった。
クリプスとジャミスは、部屋で日課を始める。
立っているクリプスの前で床に座るジャミスは、そっと目を閉じる。
「ん……」
「ジャミス。そのきれいな顔がネバネバで台無しだね」
「んん……」
「目を開けてごらん」
ジャミスは恐る恐る目を開けた。
その目には、白い物が見える。
「今日もいっぱい出てるのう」
ジャミスの目の前には、クリプスの持つ木片があった。
その木片の先端には、ジャミスの歯から取れた白いネバネバした物がついている。
ジャミスの歯の掃除は、クリプスの朝の日課だ。
ガスターブ村で貰った木片で掃除をするが、この木片は数回使うとダメになる。早いところ、耐久性の高い金属製の楊枝が欲しいところだ。
「口をゆすいでおいで」
「ああ」
そう言ってジャミスが部屋を出ようとしたところで、足を止めた。
「ところでクリプス」
「なに?」
「さっき言っていた『きれいな顔』というのは、本当か?」
「あ、うん。まぁ……。俺はそう思う」
勢いでつい言っちゃったけど、嘘ではない。ジャミスはすごく美人だ。
「そうか」
静かにそれだけ言い残して、ジャミスは静かに部屋を出て行った。
その日のジャミスは、なんだか上機嫌だった。
★
宿を出たクリプスとジャミスは、サクサイ村を出て北にある氷の村カーケへの道を進む。
この先にはやや険しい山がある。このルートは旧道と呼ばれる道だ。
カーケ村には、この道の他に東の王都方面へ続くなだらかな道がある。貴重な氷を王都に早く運ぶようにと、きれいに整備された道だ。村を行き来する人はほとんどがその氷関係の人なので、次第に通りづらいこちらが旧道と呼ばれるようになり、人もほとんど通らなくなった。
これがサクサイ村が寂れている理由である。
運ぶ荷物のない旅人なら、山を越えれば短時間で行けるので旧道を通ることはあるが、氷に用事は無いのに氷に覆われたカーケ村に行こうなんて人は、変わった人ぐらいしかいない。
そんな変わった人、クリプスとジャミスは時間短縮を選んで、この旧道を通ることにしたのだ。
山道は、伐採で切り開いた広くもない道が続く。道の外で不規則に立ち並ぶのは、オークの木。固く丈夫な木として有名だ。
そんな
「置いてけぇー」
目の血走った盗賊だった。
新しい道は開けていて、誰かが潜むような場所も少ない。なので盗賊や魔物が現れてもすぐに分かるということも、新道が好まれる理由の一つである。
そこで盗賊稼業をする勇気もない盗賊は、こうやって旧道で待ち構えているのだろう。
だが、人はほとんど通らない。久々にやってきた
「はぁ……」
クリプスは大きく溜め息を吐く。
「なんだ? 盗賊に会ったことを後悔したのか?」
「後悔するのはお前だよ」
「ん? それ――」
盗賊は訊く間もなく、一気に間合いを詰めたクリプスにソードの柄頭で殴られて気絶した。
「クリプス、おぬし強いのう。盗賊を斬らずに倒すし」
「え? こんなザコ相手にソードなんか使って劣化したら、鍛冶屋に依頼する料金がもったいないじゃないか」
「ケチじゃのう」
「節約家と言ってくれよ」
そう言いながら、クリプスは盗賊の手を縄で縛って持ち物を漁り始めた。
「予感はしてたけど、シケてるな」
盗賊の持ち金は少なかった。
そりゃあ、必死になるというものである。
「ま、支出は抑えているし、多少出費があっても困らない程度にはあるからいいけどさ」
「なぁなぁ、じゃったら次のカーケ村で木剣買ってよいか?」
ジャミスは目を輝かせながら訊いてくる。しっぽがあれば、全力で振ってるんじゃないかとすら思える。
この問いに対する回答はもちろん、
「ダメだ」
「なんでじゃあ!!」
「邪魔になるでしょ! 今でも使わない飾りの剣が背中にあるのに」
ジャミスの背中にはガスターブ村で貰った木剣がある。ニュータルク村で欲しがっていた大きな木彫のドラゴンよりは邪魔にはならないが、数が増えたら間違いなく邪魔になるだろう。
「なら、邪魔にならなければよいのか?」
「いいよ。出来るならね」
「その言葉、覚えておくがよいぞ? 後悔するでないぞ?」
自信たっぷりにジャミスは言う。
クリプスは、
(ま、無理だろう)
と余裕の表情。
「さ、早く行くぞ! カーケ村へ」
急にやる気を出したジャミスが先にある峠を方を指さし、先へ進み始めた。
なにか、お土産木剣が邪魔にならない秘策でもあるのだろうか。
(いや、ないだろう)
クリプスもすぐに追いかけた。
★
山を登り、一番高い場所である峠が見えてきた頃だった。
力強い足取りで先を進んでいたジャミスが足を止めた。
「どうしたの?」
「シッ! 何かいる」
「……熊か?」
「――の方がマシじゃったかもな。数が多い」
「? 大量の熊?」
「違うな。そんなに大きくない」
「じゃあ、何が……?」
「出て来い! いるのは分かっておるぞ!」
行く手を塞ぐように現れたのは、二本足で立つ魔物たち。数は二十匹ぐらいだろうか。
手には槍や斧、棒を持つ者もいる。武器に統一性はなく、拾ったりした物であろう。
全身は毛深く、頭は確実に人間とは違った。
特徴的なのは、その突き出た鼻である。
「猪人じゃあ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます