第11話 クリプスの即却下な提案

「ところでクリプスよ。王都へ向かう前に一つ提案をしてよいか?」

「なんだい?」

「長い旅になるのなら、わっしらの戦力を底上げしたいのじゃ。そこの魔法使いは意外と大したことがない人間じゃったから、運が良かっただけじゃが」


 結局、あの迷惑系魔法使いの男はついの場所を探してさまよっていた人で、最終的にあの伐採所にたどり着いたらしい。

 本当にただの迷惑系魔法使いだった。


「わっしらのような魔族相手だと、こうはいかんと思うぞ? わっしは攻撃されたら攻撃し返す優しい魔族じゃが、最初っから敵意剥き出しで襲って来るようなやからもおるからの。ま、人間にもそういうのはおるからな。そういう意味では、人間と魔族というのは、見た目は違っても中身は大きく変わらんのかもしれん。人間同士でも争い、魔族同士でも争い、そして人間と魔族で争う。わっしらも人間や魔族にいつ襲われるか、分からんからのう」

「言ってることは分かるような、分からないような……」

 ちょっと小難しい話に聞こえる。


「早い話、襲われても返り討ちが出来るように強くしておきたいということじゃ。わっしらは近付いて殴ることしか出来んから、このままじゃ苦労するぞ。じゃから、新しい仲間を加えようと思うのじゃが」


 迷惑系魔法使いはクリプスが囮になり、反対からジャミスが襲撃して倒せた。

 ソロでは出来なかったことだ。

 ずっと一人だったクリプスは、強くなるには自分を鍛えないといけないと思っていた。

 ジャミスはパーティーに新しい人を入れて、手っ取り早く強くしようと言いたいのだろう。


「でも、そんな都合のいい人、いる?」

「ふむ。わっしの知り合いに魔法の得意なヤツがおる。そやつなら、きっと来てくれると思うぞ?」

「近くにいるの?」

「そこまで遠くはない。氷の村と呼ばれておるカーケじゃな」

「カーケ……」


 王都オータムハイブへのルートからは少し外れる位置にあるカーケ。

 この村、周辺は普通の天候なのに、村と周囲だけなぜか氷に覆われている奇妙な村だ。作物はなかなか育たないため、大量にある氷を活かして生計を立てている村である。


「確かあの村って、アイスブルードラゴンが近くにいて、そいつが村に呪いをかけたとか言う噂が……まさか?」

 ジャミスは大きくうなずいた。

「魔法に関しては凄いと思うぞ?」

「えっと……」

 クリプスは心配なことが一つ。


「安心せい。あやつが人間化の魔法を生み出しておる。ドラゴンの姿じゃなくて人間の姿でついてくるじゃろう。ドラゴンの姿じゃと、目立つだけじゃからな」

「よかった……」

 ドラゴンの姿なら、宿にも泊まれないだろう。ずっと野宿生活になるところだった。


「そんな疑われているのに、なんでアイスブルードラゴンは村の近くにいるのさ」

「近くというか……あやつは、その呪いを解こうと研究している。それで人間化の魔法を生み出して、村に潜入しているのじゃ。便利そうじゃから、わっしも教わったのじゃがな。で、調べておるが、原因が全く分からんのだそうじゃ」

「連れ出しちゃっていいの?」

「うむ。手がかりも分からず、困ってる状態じゃからの。旅につれていって気分転換をさせようと思うのじゃ」

「王都に行くのが気分転換……」

 スケールでかいなと思いつつそうつぶやいた時、クリプスはふと思った。


「なあ、ドラゴンの姿でビューンと王都まで飛んで行けないのか?」

「さっきも言ったが、目立つからすぐ攻撃されるぞ。いろんなヤツらにな。それでもいいなら飛ぶが?」

「いや、やめよう」

 空を翔んでいるドラゴンに攻撃するようなヤツなんて、絶対に強い。

 地下迷宮にいるドラゴンに攻撃するようなヤツでも強いか、欲望に目がくらんだか、無謀かのどれかなのに、空中に攻撃出来るヤツは、間違いなく強い。

 そんなのに、巻き込まれたくない。


「世界中の強者を見られるチャンスじゃったのに」

 うん。時間がかかっても、安全に地上を行った方がよさそうだ。


「それじゃあ、氷の村カーケを目指そうか」

「うむ。わっしも会うのは久しぶりじゃからな。楽しみじゃ」


 こうして、クリプスとジャミスは氷の村カーケを目指すことになった。

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