第8話 ガスターブ村の危険な伐採所
「ふ-む。謎の魔法使いか……」
道具屋の外に出て、今後を考えながらぶらつくクリプスとジャミス。
クリプスは魔法使いについて、ジャミスに訊いていた。
「まぁ、魔法使いというのは、二種類いる」
「二種類? 魔法が使えるか使えないか?」
「それじゃ片方が魔法使いではない! まず、普通の魔法使いだ。魔法攻撃や補助魔法、回復魔法を他人に対して使う魔法使いじゃな」
「もう一種類は?」
「わっしのように魔法で自分を強化して攻撃する魔法使いじゃ」
「じゃあ、ジャミスも魔法使いなの?」
「と言ったものの、魔法を補助的に使っているから、魔法使いと呼べるかどうかは微妙じゃな。結局物理攻撃しておるし」
「じゃあ、魔法戦士?」
「それもちぃーっと違うかのう。魔法を使える人といったところか」
「じゃあ、なんと呼べばいいの?」
「うーむ……」
ジャミスは少し考えたあと、言った。
「魔女っ子ジャミちゃんと呼んでくれ」
「……」
クリプスは黙って前を向いたまま進行方向を反転。後ろへ歩いて素早くジャミスと距離を取り始めた。
「すまん。冗談じゃ」
その言葉を聞いたクリプスは早足で戻ってきて、ジャミスに追いついた。
「で、もし俺らが謎の魔法使いと戦ったとして、倒せると思う?」
「相手の力量によるが……この辺にそんな強い奴がおるとは、聞いちゃおらん」
「じゃあ、倒せるかな?」
「なんじゃ。倒す気か?」
「うん……せっかくここまで来たし、何か手に入れたいなって思ったからね。そのためには謎の魔法使いを倒さないと、どうしようもない気がした」
「わっしはあのカッコいい木剣でよいぞ?」
「あれで歯の掃除は出来ないし、持ち歩くには邪魔だから!」
「ケチじゃのう……。ま、わっしのナワバリでデカい顔している奴がいるのも気に食わん。どんな奴が見てみようかのう」
「手伝ってくれるの?」
「当たり前じゃ。おぬしの一番の使命は、わっしの歯を綺麗にすることじゃぞ? ここで死なれたら、たまったもんじゃないわい」
「それじゃあ、簡単に死ねないね」
「なんじゃ。まだ死ぬ気じゃったか?」
「いいや」
今は一人じゃない。
ジャミスがいる。死ぬ訳にはいかない。
「そうか。それならよい。ただ、一個問題がある」
「なに?」
「わっしらはどっちも接近攻撃型じゃ。相手が遠距離攻撃してきたら、ちょいと大変じゃぞ?」
「確かになぁ」
接近攻撃型対して遠距離攻撃を続けて近付けさせないというのは、それだけで防御になる。近付かなければ攻撃が出来ないのだから。
それに対抗出来るのはスピードで一気に距離を詰めることだが……。
「わっしは、そんなに速くはないぞ」
「俺も」
期待は出来ない。
「どうするのじゃ? 謎の魔法使いと戦うのか?」
「やろうよ。このままじゃ、村の人たちがかわいそうだ。それに、強いジャミスがいる。二人ならなんとかなるかもしれない」
「まぁ、よかろう。そこまで言うのならな」
勢いでクリプスはジャミスを『強い』と言ったが、どことなく嬉しそうだった。
「わっしがこの身体になったあと、戦ったのは盗賊ぐらいじゃ。たまには身体を動かさんとなまる。それに、この地域で最強なのはわっしじゃと、分からせてやらんとな」
「人間体でも最強なの?」
「当たり前じゃ! わっしはドラゴン体じゃろうが、人間体じゃろうが、最強じゃぞ?」
「そりゃあ、頼もしい。歯は汚いのに」
「うるさい! そこは関係ないじゃろう」
「それじゃあ、まずは情報収集をしよう。どこにいるかも分かんないし」
「そうじゃな」
クリプスとジャミスは、村内で謎の魔法使いに関する情報を集めた。
まず、村の裏側にある道を行けば、伐採所があるそうだ。
その伐採所に、謎の魔法使いが小屋を建てて住んでいるという。
村の者たちで追い出そうとしたが、魔法で攻撃されてダメだった。
以降、村人は伐採所には近付けていない。
ということだそうだ。
「つまり、勝手に来て、勝手に住み着いてる迷惑な魔法使いってことだな」
「わっしですら、誰もいなくて広かったあの場所を、ねぐらにしておったというのに」
「そうなんだ」
ちょっと意外に感じるクリプス。
「外じゃ目立つし、全方向気を付けにゃならんから、落ち着いて寝られぬからのう。あそこなら誰か来ても、進入口はひとつじゃったからな。安心して眠れたわい」
「大変だな」
「ドラゴンにはドラゴンなりの苦労があるのじゃよ。さて、迷惑系魔法使いはどうするかのう」
「取りあえず、伐採所に行って様子を見てみるとか? 状況が分からないと、対策もとれないし。行けそうだったら捕まえちゃおう」
「そうじゃな。まずは見に行くとするかの」
★
クリプスとジャミスは村の裏側へやってきた。
そこから森の奥深くへ、伐採所へと伸びる道がある。道幅は荷車が一台通れるぐらいで、そこまで広くはない。村の人が必要な伐採をしつつ、伐採所までの道を作ったのだろう。
クリプスとジャミスは伐採所の方向へと進んだ。
目立たないように左右に分かれて道の端を歩いて行くと、先の方で開けている場所が見えてきた。あれが伐採所だろう。
広場の手前で、木の陰に隠れる。
伐採所で見えるのは、建物が三つ。
広場の隅に小さな小屋と、大きな建物。そして広場の真ん中には、その中間ぐらいな大きさの小屋がある。
大きな小屋は製材所のようだ。加工途中の木材が、小屋から飛び出している。
真ん中の小屋は、新しめの物だった。
小さな小屋は古め。誰かが住んでいるような感じはしない。
「どう見ても真ん中が魔法使いの小屋、だよね?」
「あれだけ新しいからのう。村人も建てたって言っておったし」
「誰かが近付こうとすれば、目立つってわけか。考えて建てたのかな?」
「さあな。本当はもっと大きな小屋を建てたかったのかもしれんぞ」
「で、どうするの? ジャミス。攻撃しちゃう?」
「わっしが魔法攻撃出来れば、あの小屋ごと燃やすんじゃがのう。どうせ捕まえたら小屋は解体するじゃろうし」
「奇襲とは物騒な!」
「そうした方が早いからのう。奇襲は攻撃側が使える、一番有用な攻撃手段じゃ。わっしは何度も食らったわい」
「ジャミスには奇襲が効かないの?」
「その前に気付くからのう。わっしに向かってくる輩は、殺気立っておるからな」
「そうなんだ。で、魔法使いに奇襲したいが魔法は使えない。物理的燃やすには、バレやすい。となると……」
「――中の人に出てきて貰うか」
「……ん? どうやって?」
「そりゃあ――」
クリプスはイヤな予感がしたが、それは当たることになる。
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