第7話 ガスターブ村の定番なお土産品

 道具屋で旅に必要な物を買ったクリプスとジャミス。

 今日はニュータルク村で泊まることにした。

 宿場村でもあるニュータルク村には複数の宿屋があり、少し高めだが二人部屋も確保出来た。盗賊から奪ったお金があるので、これぐらいは余裕で出せる。

 クリプスがソロの時は雑魚寝や相部屋になる大部屋でもよかったが、今はジャミスがいる。もしジャミスが襲われでもしたら、襲った人の命が保証出来ないだろう。


 部屋の広さは普通だが、ベッドが二つ。寝るのに問題は無い。

 長時間地下迷宮に潜っていたクリプスも、久々にゆっくり眠れそうだ。


「あぁ……」

 声を漏らしながら、ジャミスはベッドに座る。お尻でベッドの感触を確かめる。

「宿も随分変わったのう。前にわっしが宿に泊まった時は、こんなに設備は整っておらんかったぞ」

「――いつの話だ?」

「知らん」


(それ、相当昔の話なのでは?)

 と思うが、ソレを確かめるすべは無い。


「で、明日からどうするのじゃ?」

「ガスターブ村へ向かう」

「ガスターブ村……知らん村じゃなぁ」

「俺は知ってる。木工で盛んな村だ」

「そこで何をするんじゃ?」

「まず、その歯のねばねばを取る道具探しだな。そこなら何かあるかもって話だ」

「なるほど。では、明日朝に旅立つかの」

「ああ」

 その夜。二人はぐっすりと眠った。


    ★


 翌朝。

 クリスプは目が覚めた。薄暗い部屋が目に飛び込んでくる。

「……ん。朝か?」

 身体を起こし、少し眠い目でジャミスが眠るベッドの方を見ると、まだ眠っていた。

「ジャミス?」

「んん……」

 ジャミスは寝返りを打つ。その拍子にシーツがめくれ、綺麗な肌をしたジャミスの身体が見える。


 クリプスは一気に目が覚めた。


    ★


 クリプスとジャミスはニュータルク村を出て、ガスターブ村へ向かう。途中に大きな山も無い平坦な道なので、問題無く行けるだろう。


「ああ……あんなにゆっくり眠ったのは、久しぶりかもしれん」

「ジャミスは……その……裸で寝る派なのか?」

「わっしが着ている物は魔法で出しているからのう。ぐっすり眠って魔法が途切れたのかもしれん。そもそも、普段が裸じゃからな。ドラゴン体の時なんて、着たことないぞ」

「うーん……確かに服を着たドラゴンは見たことないな」

「じゃろ? じゃから、裸でいるのは自然体なんじゃよ」

「人間の姿でいる時は、人間に合わせて」

「合わせて、普段はこうして着ておるじゃろ?」

「うん……まぁ」

 人間でも寝る時は全裸という人もいる。これについては、あまりうるさく言わないようにした。


    ★


 そして盗賊とも会わない、平和な旅を三日。

 森の中にある道を進んでいると、ガスターブ村が見えてきた。


「なんじゃ。もう旅は終わりか。残念じゃな」

「家に帰るまでが旅さ」

「わっしにきちんとした家はないがのう」

「俺もないよ」

「ははっ。それじゃあ、この旅は永遠に終わらないではないか」

「ジャミスの口が簡単に治るとは思ってないよ」

「ひどい奴じゃのう」


 と、明るい雰囲気で村に入る二人と違って、村内は暗く重い空気に包まれていた。

 ここの村人たちは、世界の終わりでも見たかのような表情だ。


「クリプス。なにかおかしくないか?」

「うーん。取りあえず道具屋に行ってみよう」


 ガスターブ村の道具屋はニュータルク村の道具屋より小さいが、特産品やお土産品がところ狭しと並んでいる――いや、いたと思われる。

 それらの木工製品が並んでいたであろう場所は、空きが目立っていた。陳列棚がスカスカなのだ。


「物がずいぶん少ないね」

 クリプスは店主のおじさんに訊いてみた。

「ああ。実は、困ったことになっていてね」

「なんだい?」

「この村が木を伐採している場所に、謎の魔法使いが出るようになってね。材料が手に入らないんだよ」

「木なら村の周りにいっぱいあるじゃないか」

「村の周囲は村を守るための木だから切れないんだよ。今はまだ前に切っていたのがあるからいいけど、いつ伐採が再開出来るか分からないからな。今は生産を抑えてんだ」

「なるほどねー」


 その謎の魔法使いがどれぐらい強いか分からないし、クリプスは魔法についてはそこまで詳しくない。

 だが、ジャミスは魔法で服を出したりしているし、多少魔法は知っているんじゃないだろうか。

 そいつが人間か魔物か魔族かも分からない。一旦ジャミスと相談した方がよさそうな気がした。


 ジャミスの方を見ると、彼女は木剣を見ていた。

「この木剣、かっこいいのう」


 鞘に『ガスターブ』と書いてある、お土産品の木剣だ。

 お土産品を売っている村や町なら、大体地名の入った木剣が置いてある。

 誰が買うんだろうと思うが、お手頃な価格とあってか地味に売れてはいるらしい。


「凄く欲しいのじゃが」

「買わないよ?」


 ジャミスは、ここの村民たちのように世界の終わりでも見たかのような表情になっていた。

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