第6話 ニュータルク村の品揃え充実な道具屋

「さて、と……」

 ジャミスは地面に倒れたまま動かないダガー男まで行き、しゃがみこんだ。


「どれどれ」

 と、ダガー男の身体をまさぐり始める。


「やだ! 男の身体を……ジャミスのえっち! 俺も身体目当てだったのね!」

「なんでじゃ! こやつが金目のものを持っておらんか、探しておるだけじゃ!」

「え? そんなことすんの?」

「人間も、モンスターを倒したら同じようにやっておるじゃろう?」

「まぁ……」

 否定は出来ない。ただ、それはモンスターにするのであって、人間相手にはあまりやらない。例え盗賊でも。

 だが、彼女は平然とした顔で、それをやっている。


「だけど、やるにしても起きて暴れ出したら危ないから、すぐには動けないようにしておくといいよ」

 クリプスは、持っていたロープで盗賊の手を縛った。何もせずに逃げ出してもらった方がいいので、足は縛らないでおく。


 そして盗賊の身体漁りを再開。

「うーむ……これぐらいか。思ったより少ないが、他に奪ったのは、使い切ったのかのう?」


 ジャミスの手には、口を固く縛った小さな皮袋。ぱんぱんに膨らんでいて、少しぼこぼこしている。


「ま、多少は困らんじゃろう。ほれ」

 ジャミスはその小さな袋をクリプスに投げ渡した。

 袋の大きさに反してずしっと重いその袋には、大量のコインが入っていた。

 もし持って行くのであれば、しばらくは路用の金に困らないだろう。


「それはクリプスが持っておれ。わっしより人間のおぬしの方が、価値は分かるじゃろう」

「持つのは構わないけど、俺でいいの?」

「わっしが持ってもよいのじゃが、人間のものは色々と気になるからな。すぐに空になるぞ? よいのか?」

「俺が持つ!」

 とは即答したものの、ねだられたらどうしようか。断れるだろうか。

 いや、断らないといけない時は、絶対に断らないといけない。


「やっぱ路用稼ぎは盗賊狩りが一番じゃな。盗賊退治でみんなに喜ばれるし、なにより盗られたお金も盗賊どもに使われるより、わっしらが使った方が浮かばれるじゃろうて」

 そういう考え方もあるのか。ソロの時は「盗賊ウザい」ぐらいで、そんな考えもなかった。


(一人じゃない旅というのは、ソロと全く違うもんだな)

 クリプスはそう思った。

 当然と言えば、当然なのかもしれないが。


「さ、ニュータルク村に行くぞ。のんびりしてると日が暮れてしまうぞ」

「だな」


   ★


 そこからは特に大きなこともなく、二人はニュータルク村に着いた。

 思ったよりも早く着いたので、日が落ちるまでは、まだ時間がある。

 ニュータルク村は宿場村として発展した村だ。人も村にしては多く、賑わっている印象を受ける。


「ふぉぁぁあぁぁぁあ……」

 家や店がニュータルク村を見て、ジャミスは目を輝かせていた。

「クリプス、見てみい。凄く発展しておるぞ! わっしが前に来た時は、こんなに店は無かったぞ」

 明らかに興奮しているジャミス。何もない農村から出てきた子みたいだ。


「ジャミスのところに行く前に寄ったから、知ってるよ」

 逆にクリプスは冷めていた。

 旅人として色んな村や町を回っていて、ニュータルク村は少し発展した村ぐらいにしか思っていない。


「まずはどこに行くのじゃ? なぁなぁ、どこじゃ?」

「そうだな……とりあえず道具屋だろう」

「ここの道具屋に行くのは初めてじゃから、楽しみじゃ」

「普通の道具屋だぞ?」

「その普通も知らんからな、わっしは」

「そうなの?」

 今まで道具とか買わなかったのだろうかと疑問に思ったが、深くはツッコまなかった。


 と言うことで、二人は道具屋へ。

 ジャミスには普通の道具屋とは言ったが、ニュータルク村の道具屋は少し大きい。

 レッドドラゴン討伐の拠点となってから客に合わせるような品揃えをすると、品が充実していると旅人や冒険者も立ち寄るようになって、日用品、旅の必需品、その他なんでも揃うと評判の道具屋になっている。

 確かに他の村で見た道具屋よりも品は揃っていると、ファイアレッドドラゴンのところへ向かう前に寄った時にクリプスは思った。

 今はそのファイアレッドドラゴンであるジャミスと、道具屋に来ている。


「ほおぉぉぉぉぉ……」

 道具屋に入るなり、ジャミスは目を輝かせていた。店頭に並ぶ道具を見回して、

「凄くいっぱい揃っておるな!」

 と嬉しそうだ。

 道具屋に来ただけではしゃぐジャミスを、クリプスは少し恥ずかしく思う。本当に何もない農村から出てきた子どもみたいで。


 そんなジャミスを放置して店内を見てみたが、歯を綺麗に出来そうな道具は無い。

 仕方ないので、道具屋のおかみさんに訊いてみることにした。


「歯の手入れ道具……ってぇ楊枝ってことかい?」

「楊枝って言うのか……」

 クリプスも名前は知らなかったので、今後探すのが楽になりそうだ。


「楊枝を使うようなお偉いさんは、金属で作る自前のを持ってくるからねぇ。普段は自慢するかのように首からアクセサリーみたいにぶら下げてるし。だから、ここに並べても売れないから、うちにはないんだよねぇ」

「そうなんだ……」

「王都オータムハイブなら、あるかもしんないけどねぇ」


 王都のオータムハイブはとてつもなく大きな街だし、貴族や富豪も多い。確かに需要はありそうで道具屋にも並んでいそうだが、オータムハイブまではここからはかなりの距離がある。

 クリプス自身、長旅でも構わないし、ジャミスと旅するのは別に問題はない。

 ただ、そのジャミスがどう思うかだけだ。


「楊枝がない時は、ナイフでやってるみたいだけどねぇ」

「ナイフ?」

「これさ」

 おかみさんが出したのは、テーブルナイフだった。

 通常は大皿の料理を切り分けるのに使う。時にはマイナイフを持ってきた貴族が、先端に料理を刺して食べる道具だ。

 楊枝のない貴族や王族は、食事中にナイフで歯に詰まった物を取っているという。

 確かに先端は尖っていて歯の隙間は掃除しやすそうだが、ジャミスの歯を綺麗にするのに使うのは少し恐いし、そもそも用途が違う。

 それに、掃除をしたいのは歯の隙間じゃない。


「うーん……」

 クリプスは悩む。

 テーブルナイフを買うか、別の物を探すか。


「金属のナイフがイヤなら、あそこに行ったらいいんじゃないかい? ガスターブ村に」

 ガスターブ村は木工職人が多く暮らす村である。周りが森に囲まれており、木工製品が豊富に生産されている村である。

 ここから数日で着くので、距離もそう遠くない。

 行ってみる価値はありそうだ。


「ガスターブ村に行ってみるよ。ありがとう、おかみさん」

「いいってことよ」


「ということでジャミス、ガスターブ村に行こう」

 クリプスがジャミスのいる方を向くと、店の端にある品物を見ていた。

「ジャミス?」


 近付いてみると、ジャミスは木彫りのドラゴンを見ていた。やや大きめで精巧に出来ている。

 そして、いいお値段をしている。クリプスが絶対に出したくない額だ。


「かっこいいな! これ」

「それはガスターブ村で作られたドラゴンの置物だよ。買うのかい? 今なら負けるよ」

「クリプス、わっしはこれが欲しいぞ」

「だめだ」

「なんでじゃ! ケチ!」

「旅の帰りに買うならいいけど、これから旅立ちだからね? どう考えても邪魔になるし」

「むぅー」

「頬を膨らませても、だめなものはだーめ」

 まるで子どもを諭すかのように言うクリプス。


 ジャミスが盗賊を殴り倒した時、素直にお金を渡してくれて本当によかった。

 この調子なら、数日で全部なくなっていただろう。

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