エピソード15 アイドルになるために(13)
もっと俺だけの……うんん、違うか。
南井に向けられる好意は、なにも俺だけなわけがない。俺だけで収まっていいうつわじゃないと思う。
だけど、だけど……南井の特別になりたいと思ってしまう。そんな色恋になんともピュア過ぎた、高校時代の俺がみっともなく邪魔している。
「……俺にも、独占欲みたいなのがあるんだな。はあ……まったくいやらしいってもんだ。そんなの高校生のときに、置いて来たつもりだったんだけど……」
これだけのブランクがあっても、南井への想いは変わらない。
変わらず、この気持ちを伝えることも無さそうだけど。
伝えたところで、フラれるの確定みたいだし。
「それにしても、南井がねぇ……。年齢的に厳しいと南井は感じてるんだろうけど、逆に言えばアイドルになる南井自身の懸念点は、パッと見、そこしかないんだよな——」
今も南井は、当時と同じくらいか、それ以上の才媛に溢れている。
ネックなのはほんとうに、年齢だけって感じる。
「——勉強や運動はもちろん、声も通るし、誰かが歌も上手いって話してたような気がする。ルックススタイルは言わずもがな、あれやこれやどんな服でも似合うだろう。マンガなんかでありがちな、料理を作って爆発させるような、メインヒロインの致命的な欠点みたいなもんも無い。つか寧ろ、料理は得意だったっけ? ……はは、なんかもったいないな。ほんともったいないよ南井……やっぱ南井はこんなところで、悩んでる場合じゃないって……」
これまでの南井の人生を否定してるわけじゃない。
でも。やりたいことが明確にあったのに、25歳になってもそのスタートラインにすら立っていないのは、南井にはもったいない。
「もしかしたら今頃。とっくに、画面の向こうで活躍してる未来だってあったかもしれない。それだけの素質はあるんだよ、南井には」
あれだけの魅力。あれだけの気品。あれだけの淑女。
当時から高校生離れしていた才色兼備の美少女。
一緒のクラスルームに居てもいいのかって疑問に思った。こんな才能、こんな女……もう現実にはいないんじゃないかと思った。
そりゃあもう、南井に惚れないはずがないって。俺やっぱ、好きなんだよな……南井のこと。
ずっと、心の中でも。南井、南井、南井って……南井のことしか頭にないし。
「まだ時間あるな……ああ、そうだ。南井が受けに行くところ、なんか事件がどうのこうの言ってたよな? ……南井も確認したんだろうけど、念のため、俺も調べておくか」
南井が当日まで悩んでいたリスク。
オーディション先の芸能事務所に起きた事件。
それがなんであるのか、少し知りたくなった。南井自身で応募しても良いってなったものに、俺がいまさらとやかく言えることなんかないけど……心配といったら心配だし。
「よし……——」
ポケットからスマホを取り出す。
今は外でもこうして、なんでも簡単に調べられるんだから楽で良い。
「——確か『ARUE』ってところだよな? 芸能事務所なら流石にスマホで検索すれば出て来るよな……えっと? 『ARUE』ってとこじゃなくてartist real unique entertainment……って、なんか長ったらしいところがヒットしたけど、ここで合ってるのか? 芸能関係なんて全然知らないが……『ARUE』は略称ってことなのか? んーでもここが上に来てるしなぁ……っと。とにかくこれをコピペして、事件って入力すれば出て来るだろう………………よし! …… え?」
芸能事務所で起きた事件だから、所属タレントの素行不良とか、運営側のマネジメントの不誠実さとかかなと予想していた。それに南井が、もう応募するところが少なくなっていたとはいえ、オーディションに出しても良いと判断した範疇の事件だ。正直あまり深く考えてはなかった。
でも事件と、検索キーワードを追加してヒットした内容の数々にもう、嘘だろと目を疑った。
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