エピソード14 アイドルになるために(12)
どうしようもなく、他人の目を惹く麗しさだ。
ああ……やっぱ南井は、大人になっても南井なんだな。
「………………真城」
「ん?」
「私、話せて良かったよ。真城と」
「お、おう、そうか……なんも役に立てた気はしないけどな」
「そんなことないって。おかげでちょっと迷ってたけど、その封筒……ちゃんと送りに行く決心がついた。やっぱり少しリスクは背負わないと何も始まらないし……それに、私が合格すると信じてる真城の期待に、応えたいなとも思えたからさ」
「俺の期待?」
「うん。茶化さず本当に真面目に答えてくれたし、私が所属した場合の未来の話までしてくれた。こんなに心強いものはないよ」
「そ、そうか……俺なんかが南井の後押しが出来たなら、まあ良かったのかな?」
こんな未来があるんだ。
高校生の俺に言ったら、絶対信じないだろうな。
「……ありがとね真城。その封筒、渡しに行って来るよ」
「ああ……」
プロフィールと写真を封筒に入れ直して、丁重に南井に返す。
手渡しとき、なんとか南井の願いが叶うようにと、沈黙の祈りを込めながら。
「じゃあ……行ってきます」
「おう」
「あっ、同窓会の方は行くの難しいかな……絶対ソワソワすると思うし、感情がみんなのところに追いつく気がしない。あとで断っとかないと……」
「それならバックれたらいいんじゃないか? どうせ誘ったヤツらもその場の思い付きだろうし」
「あははは。酷いね、真城は」
「酷いなんてことあるか。断りの連絡を入れるのってストレスだろ? それに多少の礼儀知らずくらい許してくれるって。融通の効かないクソ上司とかじゃなく、ある程度気の知れた、ただの同級生なんだからさ」
「……ふふ、社会人とは思えないこと言うね?」
「え? あ……」
「いや逆なのかな? 日頃の不満が溢れたのかも?」
「……どちらかと言うと、後者だな」
不平不満たらたらなのは、間違いじゃない。
おそらく南井がイメージしてるのとは異なるだろうけど。
「まあ……んーあとで訊かれたら、どうしようかな」
「そんなに気にするなら俺が……言うのは、角が立ちそうだから辞めよう」
「辞めるんだ!? 代わりに言ってあげる、みたいな雰囲気だったのに、すごい切り返し」
「ああ。過去に南井に告白したヤツらから、どーいうことだって、追及されるのはごめんだからな」
「あ……そういうことか。なんかごめん……」
「南井が悪いわけじゃないだろ。というか、南井はそんなこと気にせず行ってこい。ほれほれ」
「ええ……ああ、うん」
手を払って、南井に応募しに行くように促す。ちょっと邪険かもしれないが、こうでもしないと南井を止めてしまう。
そうだよな。これ以上長引かせる方が、悪いもんな。それにまたいつかのように、南井の気持ちが切れる原因にならないようにしないとだ。
切れる前に、動かしてやらないと損だ。
だって南井なら、ちゃんと見る目のあるヤツのところに見出される素養しかないんだから。
「……真城」
「まだ何かあるのか? 早く行って——」
「——もし。私のやろうとしてることが叶ったらさ、私は真城のおかげだって、心の中で言い続けると思う。ずっとずっと」
「南井……」
「うん……またね真城。やるだけのこと、やってくるよ」
「ああ……またな」
その公園から去って行く南井の後ろ姿に、多くは伝えなかった。がんばれとか、南井ならきっと上手くいくとか、言いたかったけど……言わなかった。
どうせ俺が伝えたところで何も変わらないだろうし、不要なプレッシャーを掛けるのも申し訳ないし。
それに、南井にまたねって言われるだけでもう十分だ。
また、そう言われるとは思ってもいなかったし。
あとちょっとだけ、嫉妬があったからってのもある。いまさら何をって感じだけど、南井が遠くに行ってしまうのは……ちょっぴり寂しかったりする。もちろん南井に上手く行って欲しくないわけじゃないんだ。
そういうわけじゃない……なのになんでだろうな。南井が遠くにいるべきだと思っていたのは、他でもない俺のはずなのに。
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