エピソード13 後悔とオーディション(4)

 ただこれ、南井に伝わってるのかな……あとどさくさに、南井の顔が良いって言ってるようなものだけど、面食いなだけとか誤解されないかな。まあ……南井の顔が良いのは事実なんだが。ほら、好きな人には良い印象を持って貰いたいじゃないか。


「……ふふ」

「な、なんだよ。まさか俺が笑われること言ったか?」

「ははは、うんん。ただね……真城は相変わらず捻くれてるなーって思っただけだよ」

「貶してる? 貶してるよな? 真面目な話してるのに」

「違うって。貶してないって……でも、ありがとう真城。嘘でもそう言ってもらえて、ちょっとだけホッとしてる」

「いや……っ!」


 嘘なんかじゃない、と言い返そうとして辞めた。

 いいや、辞めさせられてしまった。

 だって……ほんとにホッとしたように、微動だにしない綺麗な姿勢でちょこんと座るニッコリ南井に、うっとりと、目を奪われてしまったから。


「ちなみにね、その応募が今日までなんだ」

「え……」


 急に現実に引き戻される。

 いや元々現実ではあったけど、なんか妄想の世界から帰還した気分だった。


「当日消印まで有効だから、まだ大丈夫。糊付けは、し直さないとだけどね」

「ああ……って、はぁ!? じゃ、じゃあ俺と話してる場合じゃなくないか? 何してんだよ南井っ! 当日の消印って夕方が最後だろうが」

「だから焦らなくても大丈夫だって。郵便局に直接行けば夜でも問題ないし」

「ああ、ポスト投函じゃないのか……そっか、そうだよな」


 もう郵便とかそんなに使わないからな。

 重要な書類なんかでは特に。


「うん。こういうのは直接が一番確実だからね。でも、ちょっと出し渋ってる私もいるんだ。真城とこうして話してるのも、それを紛らわすためなのかもしれない」

「え、なんで……」


 アイドルになるために必死に探して見つけだした芸能事務所だ。順調に行けば南井なら所属出来る。

 なのに一体、なにを躊躇することがあるんだろうか? 


「そこ……『ARUE』っていう芸能プロダクションなんだけどさ。調べたら最近、問題を起こしてるとこらしくてね」

「問題って」

「まあ……そこまで大きな事件ではないんだけどね。これは私の予想だけど、25歳でも不問の理由は、もしかしたらそこにあるのかなとか、思ったり思わなかったり?」

「……大丈夫なのかよ、それ」

「大丈夫かどうかは……ちょっとリスクはあると思う。でも私にはそこしか今のところないし、どのみちいつかリスクを背負うことになる……事件の反省をしてると、願うしかないかな?」

「おいおい……オーディションってことは、南井そこに所属するんだろ? また事件が起きるとも分からないじゃないか。なんの事件か知らないが、南井をちゃんと活かしてくれるとこなのかよ……心配になる」

「……っ!」


 すると南井が大きな目をパチクリとさせて俺を見る。

 な、なんだろう? 俺おかしなこと言ったか?


「ま、真城?」

「なんだ? 驚いたような顔して」

「あの、まだ私が応募するかしないかの段階なんだよ? でもその言い方ってさ……私が合格すること、前提じゃない?」

「……そんな言い方になってたか?」

「うん。私を活かせるとか……明らかに結構先の話だよ?」

「あー……んーその、あれだ。どうせなら上手く行く想定で考えた方が良いだろ?」

「ああ……そうだね、確かにそうだ。前向きに考えるのも大切だよね」


 誤魔化せたか? 誤魔化せてるよな、これ。

 あっぶな……完全に南井の指摘通りの考え方してたわ。


 あの南井が落ちるなんてこと、そうそうない。

 もしそんなヤツが居るなら、人を見る目が皆無だろうと。

 だってこうして、横目で流し見ても伝わって来るんだ。

 俺が高校生のときから変わらない。ただ南井が隣に居るだけなのに、この憧れと幸せのジレンマで悶々とする感じ。

 こういうのがきっと、芸能人やらプロアスリートが持ってるらしい、カリスマ性とかいうヤツなんだろう。

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