エピソード13 アイドルになるために(11)
ただこれ、南井に伝わってるのかな……あとどさくさに、南井の顔が良いって言ってるようなものだけど、面食いなだけとか誤解されないかな。まあ……南井の顔が良いのは事実なんだが。ほら、好きな人には良い印象を持って貰いたいじゃないか。
「……ふふ」
「な、なんだよ。まさか俺が笑われること言ったか?」
「ははは、うんん。ただね……真城は相変わらず捻くれてるなーって思っただけだよ」
「貶してる? 貶してるよな? 真面目な話してるのに」
「違うって。貶してないって……でも、ありがとう真城。嘘でもそう言ってもらえて、ちょっとだけホッとしてる」
「いや……っ!」
嘘なんかじゃない、と言い返そうとして辞めた。
いいや、辞めさせられてしまった。
だって……ほんとにホッとしたように、微動だにしない綺麗な姿勢でちょこんと座るニッコリ南井に、うっとりと、目を奪われてしまったから。
「ちなみにね、その応募が今日までなんだ」
「え……」
急に現実に引き戻される。
いや元々現実ではあったけど、なんか妄想の世界から帰還した気分だった。
「当日消印まで有効だから、まだ大丈夫。糊付けは、し直さないとだけどね」
「ああ……って、はぁ!? じゃ、じゃあ俺と話してる場合じゃなくないか? 何してんだよ南井っ! 当日の消印って夕方が最後だろうが」
「だから焦らなくても大丈夫だって。郵便局に直接行けば夜でも問題ないし」
「ああ、ポスト投函じゃないのか……そっか、そうだよな」
もう郵便とかそんなに使わないからな。
重要な書類なんかでは特に。
「うん。こういうのは直接が一番確実だからね。でも、ちょっと出し渋ってる私もいるんだ。真城とこうして話してるのも、それを紛らわすためなのかもしれない」
「え、なんで……」
アイドルになるために必死に探して見つけだした芸能事務所だ。順調に行けば南井なら所属出来る。
なのに一体、なにを躊躇することがあるんだろうか?
「そこ……『ARUE』っていう芸能プロダクションなんだけどさ。調べたら最近、問題を起こしてるとこらしくてね」
「問題って」
「まあ……そこまで大きな事件ではないんだけどね。これは私の予想だけど、25歳でも不問の理由は、もしかしたらそこにあるのかなとか、思ったり思わなかったり?」
「……大丈夫なのかよ、それ」
「大丈夫かどうかは……ちょっとリスクはあると思う。でも私にはそこしか今のところないし、どのみちいつかリスクを背負うことになる……事件の反省をしてると、願うしかないかな?」
「おいおい……オーディションってことは、南井そこに所属するんだろ? また事件が起きるとも分からないじゃないか。なんの事件か知らないが、南井をちゃんと活かしてくれるとこなのかよ……心配になる」
「……っ!」
すると南井が大きな目をパチクリとさせて俺を見る。
な、なんだろう? 俺おかしなこと言ったか?
「ま、真城?」
「なんだ? 驚いたような顔して」
「あの、まだ私が応募するかしないかの段階なんだよ? でもその言い方ってさ……私が合格すること、前提じゃない?」
「……そんな言い方になってたか?」
「うん。私を活かせるとか……明らかに結構先の話だよ?」
「あー……んーその、あれだ。どうせなら上手く行く想定で考えた方が良いだろ?」
「ああ……そうだね、確かにそうだ。前向きに考えるのも大切だよね」
誤魔化せたか? 誤魔化せてるよな、これ。
あっぶな……完全に南井の指摘通りの考え方してたわ。
あの南井が落ちるなんてこと、そうそうない。
もしそんなヤツが居るなら、人を見る目が皆無だろうと。
だってこうして、横目で流し見ても伝わって来るんだ。
俺が高校生のときから変わらない。ただ南井が隣に居るだけなのに、この憧れと幸せのジレンマで悶々とする感じ。
こういうのがきっと、芸能人やらプロアスリートが持ってるらしい、カリスマ性とかいうヤツなんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます