第5話 私と霧と麻美
1937年(昭和12年)6月15日 北海道・札幌市
*)ポプラ並木と溶けない雪 魔法の雪 初夏の雪 妖精の青焔
「ねぇ麻美、雪が積もっているから見に行かない?」
「この六月に雪が積もる?…………あ! あれね、石川君は初めてかもしれないね。」
「白い穂の
「ノが抜けててよ。では誘ってみますか、美女の誘いは断れない性分らしいしね!」
「そうみたい、合格発表の時に美女を連れていた時にすれ違っていたんだったよね。」
「あ~……あの人ね、うんそうだね。」
「少し惹かれるとこもあるかな?」
「いいや全然無い、美男子で頭は~……ラノベを書ける程度はありそう。」
「うわ~麻美の辛口評価には敵わないな~。」
「知性が無いと女の子は付いてこない、でもね~私には敵わないから……アハハ……、」
「知性が無いとはどういう事よ、主語はどうなってんの、ものと……場合によっては怒るからね。」
「今の男は顔が良ければいいのよ、年収が高いって言っても中のドングリだと思うよ。」
「……ふ~ん、もう惚れたんだ……先生に。」
「ご想像の範囲でお願い、飛んだ想像はイヤだな?」
「ほら来た!」
「キャッ!……もう~意地悪!」
「おいおい。後輩を、」
オカ研に来て二人して石川くんに付いて話し込んでいた時に阿部助教授が見えた。性格ワル~扉の前で立ち止まり、私と麻美の会話を立ち聞きしていた様子。でないと次の言葉の意味が通じなくなるんだから。
こんな時に私に会話を振るような助教授ではない、私の機嫌を損ねたら晩ご飯にまで影響が及ぶのだと学習済みなんだから。その所為だろうか麻美を見て一言だった。どちらかと言えば麻美は男には興味は無くても、私と普通に会話出来るくらいには男に付いても話題は持っている。
私から観て馬を見る目で男も値踏みが出来てしまうらしいから羨ましい限りだ。大きくて黒い瞳は男以上に魅力的だと言うから、思い掛けない、思い描けない白馬の王子様を狙う乙女だと私は考えているんだが、実際はどうなんだろうか。今の私たちにはオカ研の二人の男性にしか接点が無いのも寂しい。
麻美を鑑賞の対象として観るのも面白いんだな? 麻美を鑑にして自分を映し出して我が振りを直す……これだよ。俗に言う「人の振り見て我が振り直せ」だよ。
「……後輩をあまり苛めるなよ。」
「せんせ~、先生こそ学生を虐めないでください。眉間に皺が増えて困っています。大体が真面目すぎるのがいけないのです。」
「麻美くん……大事な授業だ、不真面目に講義が出来るものか。大体な、学生の本分を理解していないから困るのだろうが。お前らも真面目に勉強しろ。」
どうも麻美の最後の高笑いにカチンときたのかと考えてしまった。だって麻美としたら石川くんを遙か下に見ているんだから、助教授の立場としたら許せないのかもしれない。いや? 生真面目な性格だから許せないのかもしれないや。
「阿部先生の真面目な講義とは、民俗学とはかけ離れた夢のような未来の異界探訪譚なのですからね。理解されていますか?」
麻美が言う処の異界探訪譚とは、それこそラノベ小説から端を発している。若しかしたら若しかしたらよ、麻美には私の理解が及ばない並行世界にもついて行けるだけの頭脳があるのかしらね。
単なる物語ではなく実体験を元に語られるものだから、往々にして自己主張以上に話しを盛るものだ。それを読んで麻美も自分で体験したかのように考えてしまう、困ったちゃん的な性格でもあるのよね。
そんな麻美には過去があるし、時々は不可解な夢を見ていたから……その点については聞かされてもいない。だから麻美の事に付いてはまだまだ知らない事の方が多かったのは事実。でも友人には損な過去や夢の世界は全く関係がないよ、ね?
「ちょっと麻美、その先は言わないでよ、妄想が爆発するでしょうが。」
そんな事を言ったら麻美、右手を下の方に出して「シッシッ……」みたいなジェスチャーをするし、顔だって「あんたは要らない事を言わないで」みたいな顔を作る。意外と役者みたいな処もあるから面白いんだな。付き合いは長い、麻美の性格ならば先読みも出来てしまう。この後はデートに誘う気満々だよね?
「えっと、阿部先生? お暇でしょうから車を出して下さい。」
「あ~やっぱり……もう麻美ったら。」
ほらやっぱりと言いたくなるのを我慢していたら麻美からは大きな逆襲を受ける羽目に。
「大丈夫、あ、せんぱ~い!」
「え、どこどこ!」
いや~ん、阿部助教授にも続いてからかわれる羽目にも繋がってしまった。うん、はずいけれどもいいんだ!
「桜ちゃん、乗せてってあげるよ。メンバーは杉田くんと石川くんだね。」
「はい、お願いします♡」
「あ、先生、ポプラ並木の在る場所はですね……、」
麻美による候補地が詳しく述べられた。それくらいは知っているであろう阿部助教授は、ニコニコしながら麻美の説明を聞いていた。若しかして……知らないんだ。
私たちは札幌市の郊外に広がるポプラ並木を見にいく。この時季にはポプラの綿毛が地面を覆ってしまう程に落ちている。強い風が舞う日には不可能だが昨日今日とお天気は最高だ。
「今日は風が弱くて暖かいんです。」
「杉田くんは多分虫干し中だから直ぐに場所は分るよ。」
「はい、直ぐに呼んで来ます。」
「あ、僕の車が止めてある駐車場に行ってくれないか、こちらは直ぐに移動して待っているよ。」
「えぇ~……遠いです。」
「桜、ここに戻ってきても同じだと思うよ? だったら二人して腕を組んで歩いたら?」
「あ、そうする、ありがとう麻美。じゃぁ~車で待ってて~。」
「おいおい麻美くん、中々にさくらちゃんの扱いに長けているんだね。」
「もちよ……先生?」
「僕は腕なんか組まないからね。」
「そうですね、存じております。でも捕まえて離しませんから。」
「に、逃げたりはしないよ、ちゃんと郊外まで連れて行くからさ勘弁してくれ~。」
「桜の為に……お願いします。」
「さくらちゃんがどうしているのか見に行くよ。」
「はい先生。」
麻美は阿部助教授を先生と呼ぶ。
私としては広い広すぎる学内を小走りに走って先輩を探す。虫干しだったら場所は芝生が一面に広がる場所だと決っている。そこには多くの学生も集まる黄金のスポットだ。今は芝も芽吹いてグリーンだからグリーンスポットと言う、うそピョン。
「何時ぞやの三浦助教授と小難しい事を話された場所だよね。」
少し走り込んだから汗を流す前に歩き出す、大切な先輩に会う時にお化粧が崩れたら大変だものね。
「今日は先輩の好みの格好だから……うんとても楽しみ。」
「杉田さん、どうされたのですか?」
「え”……えぇ石川くん、良かった~見つけたわ。」
「僕ですか~ぁ?」
「そうよ、皆してデートに行くと決りました、付きましては石川くんと先輩を探していたのです。」
「ありがとうございます。先輩は……ほら、あそこに座ってありますよ、横には女の子が……。」
「イヤ、何処ですか!」
「嘘ですよ、先ほど別れた処ですから急いで戻りましょうか、さも無いと恋人の処に行かれてしまいますよ。」
「こ、恋人~~~~?」
「はい、農機具の倉庫です。」
「う~からかわないで下さい、もうビックリしてではありませんか。」
「でも先輩には間違いなく恋人はいますよ、」
「うそ~……誰よ。」
「霧ちゃんです、霧ちゃんが一方的に好きなだけですから望みはあります。」
「霧ちゃんよね、まだ十歳なのよ?」
「いいえ、僕から言わせて貰えれば、もう十歳、先は早くなるものです。十二歳になればそこはもう対等と言っていいですよ。」
「随分と女の子に付いて詳しいのですね、何処で研究されたのでしょうか?」
「持って生まれた才能ですよ、これで生きて行くと決めています。」
「こら! すけこまし。」
「すけこましは僕らにとっては褒め言葉になっています、ご注意下さい。でも桜子さんの事は好きですが狙ってはおりませんよ、霧ちゃんが怖いですから。」
「どうして霧ちゃんが怖いんですか、まだ十歳よ?」
「男の勘です。麻美さんは……火焔の魔女的な人ですね、私なんかが容易く近くに寄れば火傷しますよ。」
霧の事を話しているのに、どうしてそこに麻美の名前が出たのかしら。女の勘からしてみれば海斗くんは少なからず麻美に興味があると思う。詳しく聞きたいものだわ、お祝いは~……まだよね。私から麻美を盗らないでと言いたいな。
「そうなんですか?」
「ほら先輩がいました。」
「ありがとう、先に行きます。」
私は先輩を見つけたらミニスカートという事を忘れて、白いものをピラピラさせながら全力で走っていた。眼福は石川くんか? 近くには人の気配は無くて良かった。
「んもう~探しましたよ先輩。これから農機の点検ですか?」
「いや改造に行くんだが?」
「あ、すみません。恥ずかしい処を見せました。」
「いや、寧ろアレを叩いたがいいようだよ?」
「え?……あ~石川くん。」
「見たら分かるよ、笑っているね。」
「先輩からもお願いします、叱って下さい。」
「今日はオカ研に行く予定は無かったんだが、どうした。」
「はい、皆揃ってポプラ並木の雪景色を見に行こうって話しになりまして、それでお誘いに来ました。」
「行かされたのか、」
「はい?……みたいです、恥ずかしい。」
「アハハ……だろうね、直ぐに行くか。教授がもう待っているんだろう?」
「はい、麻美が捕えて放さないはずです、駐車場です。」
腕を組んで歩く姿は割愛します♡
で、無事に三人揃って駐車場に着きました。
私の子供の時の事ね、あ、私とは桜子の事だからね。
六月になった初夏の北海道では幻想的な風景が見られる。それはポプラの綿毛なんだな、これを集めてお布団に出来ないかと子共時代には本気で考えていた。
到着前から騒ぐ私は、
「教授、車はユックリと進めて下さい、綿毛がハゲます。」
「桜、先生の頭を見て言っているのかしら?」
「いえ、唾を飛ばしました、すみません。」
「おいおい桜ちゃん、嘘だよね。」
「はい、」
「桜子さん、車の後ろを見たらいいんだよ。」
「せんぱ……ぅわ~凄いな~あんなに綿毛が飛んで舞っています、教授もっと飛ばしましょう。」
車の後方を見れば車の風に舞う白い地吹雪が見えていて、それはもう~とても幻想的だった。
「あ、あ、麻美~見て~~~~!!!」
「ヤよ、恥ずかしい。」
「え~なんでだよ~。」
「桜、今日の服はなにかしら?」
「うん、先輩の好きなグリーンのミニスカート……あ!」
「白が見えているわね。」
「やだ~麻美の意地悪。」
「親切に教えているのよ、……でも黙っていたが良かったみたいね? 確信犯殿!」
道路沿いの空き地に車を止めるなり勢いよく飛び出した石川くん。この石川くんも初めて見るからと私以上にはしゃいでいるのね。
「う~……これは素晴らしいです。」
「でしょう?」
「はい、感激しました。」
「先輩、向こうに行きましょうよ。たくさん積もっていますよ?」
「いや、俺はいつも見るから……あ、こら……、」
「おいおい、随分と我が娘は積極的なんだね。」
「桜は今でも夢見る乙女なんですよ、奥さまではなかったのですか、だって奥さまのお部屋なんでしょう?」
「あ、いや~断れましたな、彼(あれ)は強敵だな。」
彼(あれ)というのは私が一目惚れをしてしまった杉田先輩だ。麻美たちはユックリと私たちの後を付いて来ている。
「先生は独身が好きなんですか?」
「そうでもないのだがね、霧がいるから難しいんだ。」
「でもとても可愛らしいお子さんですよ?」
「はは兄の忘れ形見なんだが……どうも俺には分からんのだよ。」
「誰も火を点けるんじゃないよ。」
「はい、」x3
「俺、悪者になっていいよ、退学になったらススキノで働くからさ。」
「石川さん、お願い……します。」
「おいおい桜ちゃん勘弁してよ。俺も教授をクビにはさせないでくれないか、子共も居るんだから。」
「あ、霧ちゃん。その時は私が育てます。」
「お、いいのか! ありがとうよ。」
「阿部先生? チクりますわ。」
「あ、内緒にお願いします。」
「点数の限りですがね。」
「よ~し、オカ研は全員が優をつける。」
「あざ~す。」x3
「俺はもう受講はないから、」
私の解説では、杉田先輩は民俗学の単位は不要だと暗に嫌だと申されました。あ、あ、あ、でも先輩からはとても嬉しいカウンターを頂く。
「また受けてくれてもいいんだが?」
「先輩! 是非受講されて下さい。お願いします。」
「やだよ、夫婦と言われるからな。」
「アハハ……面白い事を言われますね、私は本望ですわ。」
でも儚い夢に終わる。それは驚きの光景ででもあって、生まれて初めて観る光景にウットリとしてしまう。
「魔法の雪が初夏の雪が、妖精さんの青焔で綺麗に燃えている!」
ポプラの白い綿毛が一瞬にして燃え上がり広がっていく。燃えるのは白い綿毛のみで、落ち葉には火が移る暇もなく通り過ぎていくのだった。
「酷い観光客もいたものだな。」
「ですね~丁寧に火を点けてくれるのですから。」
たばこのポイ捨てで広がった火災、火付け役は急いで逃げて行くのが可笑しくて笑ってはみても、そこには普通の緑の草原が広がるだけだった。一瞬にして緑に変わっていくから幻想世界が無くなってしまった。
火は勢いよく周りに広がるから消火は出来ない、誰にでも出来ない事だ。
1937年(昭和12年)7月12日 北海道・札幌市
*)私の日常
私と霧は同じ屋根の下で暮らしている。もう三ヶ月が過ぎて今では霧の母親代わりにまで出世した。後は阿部教授のお嫁さんになるだけだ……いやいや私は杉田先輩の妻になりたいのよ。
「霧ちゃん~もう着替えたかな~朝食が出来たわよ~。」
階段下で私は叫ぶと階上からはいつもの返事がある。
「ん~もう少し、」
となる訳だ。
霧は十才になりすべての事は自分でできる。まだ三ヶ月のことしか知らないがお茶目でかわいい。妙にませたところがあって私の杉田先輩を見つめていたりもするし、将来は私の強敵になるかもしれないから要注意なのね。女の勘は当たるのよ、いや当たって欲しくはないのよ。それもこれも石川くんからの忠告があって観察していたら? どうも間違いはないみたいだ。私はどうしよ~。
翌日、私は寝坊していた。
先に追い出したいと思う霧ちゃんのパパは、動きが鈍いので世話も大変だったりするのね。
少し変だとは思うが私、教授のファッションコーディネートもしている。でもね殆ど服はお持ちでは無いから通常パターンに落ち着いてしまう。変わる処と言えばカッターシャツぐらいしかないのよね。あ~今日も麻美から皮肉が飛んで来るのかな。
「もっとマシな服装には出来ないのかしら?」
「煩い黙れ!」
せめて背広にブラシでもとリビングで麻美のまねごとをしていると、とある事が想像出来てしまったのね……教授=馬だと。
「あ、教授。今日お弁当はありませんから早くお出かけして下さい。」
「で、どうして無いんだい?」
「霧ちゃんのお団子頭を作るのに時間がかかってしまったの。」
「そうか……。」
ゴメンなさい教授それは嘘です、本当は私が寝坊したからです。第一に霧とはまだ挨拶もしていないし、私の朝食は残念だけど霧のお弁当の中に収まり、私も朝抜きね。心の中で呟いて謝る。
「すみません教授、お相子です」
「何がだい。」
「なんでも……です。」
今度は急いで霧ちゃんを起こしておいて私はお弁当を作る。今日は遅れているから、
「霧ちゃん、今朝は一人で着替えてね。」
「うん、」
それで二階から降りてきた霧の服を見たら、余り着せたくはない上下の組み合わせに考えさせられた。
その所為もあって、教授の服の代金はその殆どが霧の服に私が変えている。時々? 私へのプレゼントになるのがいい。エプロンだったら教授の必要経費でいいのよ、それ以外は少し心が痛むのは仕方がない。
「あ、あ、あ、今日はスカートにしようか。」
「なんで?」
「そうね霧ちゃんが上を選んだから……これでよし! いってらっしゃい。」
霧には当てはまらないらしいが、女の子はスカート姿だとお淑やかになる……はず。
「行って来ま~す。」
う~ん元気に走って行く姿が可愛いな~これは母親冥利に尽きると言う事か。私も早く智治さんの子を産みたいな~キャッ恥ずかしい。
それ程遠い未来ではないが、どうしてか私には見えてこない夢だった。初恋は実らないと言うからジンクスは嫌いよ、麻美という馬に食わせてやりたいわね、あれは恋に生きる女の子では無いからね。
私は服も適当に着て出て行く。これでは霧には言えないよね、明日はちゃんと起きるから許して。そこは好きな先輩の色を適当に選んで……と言う一文は省略しているから読み取って欲しい処よ。
及び……気合いを入れたい時にはネクタイをする、当然に麻美からは笑われてしまうし茶化される、からかわれてしまう。それだけでも日常は変化するから楽しい。
そもそも私が寝坊した原因はと言えば、昨夜は霧が夜泣きしていたので眠れなかったのだ。深夜の十二時過ぎにどうしたんだろうと部屋を覗いたら霧が泣いていたから、母親が居ないので淋しいかもしれないと考えてしまった。
霧ちゃんはベッドで起き上がって、上半身だけだったから顔も良く見えた。泣き止んでも宙を見つめるから私の事は見えていない。そこで思い切って部屋に入り声を掛けて抱き寄せれば良かったのかと、自問もしてみたが答えは出ない。母親のいない寂しさは私に理解が出来るはずも無し、だった。
今日は満月で部屋は薄暗い程度の暗闇ではあったが、ベッドは窓の横だからはっきりと霧の姿が見えた。異様と言えるほどに両目がとても赤く光り輝いていたのでこれを見た私は気になり眠れなかった。
翌日はちゃんと起きたからね。
私が考案したお団子頭。この髪型は霧の左右に二つのおでこがあるので、このおでこを隠す意味で髪を丸く巻いて髪留めで留めている。ちょうどお団子が二つ頭に乗っかっている感じなんだ。おでこのことを教授に尋ねたらそんなもん知らないと言われた。これが親なのかと、これで良いのかと大いに悩む。
このおでこは……う~ん何なんだろうね。
「霧ちゃん……綺麗にお団子が出来たわよ。」
「うん、ありがとう。」
霧が洗髪した翌日の朝には必ず髪を整えてやるが可愛いから苦にもならない。あの日から度々霧の目が赤く光るのを見る事になるも、霧本人には自覚が無いみたい。
どうか朝シャンだけはしませんように……、現代の小学生は時として朝シャンをして学校へと行くのだから驚いてしまう。
思い出したように霧の事をお父さんに聞いてみたら、
「阿部助教授、少しいいでしょうか。」
「あぁいいよ、」
「霧ちゃんですが、偶に夜泣きをしているんですよ、気になりませんか?」
「夜泣き?……いや、お手伝いさんからは何も聞いていないよ。だから以前は何もなかったとしか返事は出来ないね。」
「そうなんですか、すると私が原因だったりしますかね。」
「アハハ……それは無いよ、断じてない。だってさくらちゃんが来てくれたからあの子は明るくなったんだからね。男の子も苛める程に元気だよ。」
「え~~そこは大事なところです~、ちゃんと教えて下さいよ。」
「あ……そうだったか、偶に学校から苦情の電話があっ!」
「……お父さん、今晩はお酒を飲みましょうか?」
「今日は教授会があるんだ、遅くなるよ。」
「へ~そうなんですか、三浦助教授は先輩と飲みに行かれるそうですが、誘われましたね~。」
「あ~教授会は明日だっかな~……いいよ、三人で夕食に行こうか。」
「やった~嬉しい。」
「……。」
阿部助教授……落されたなり~ルンルン。
それから静かなお店を選んでおいて霧を連れて待っていた。お酒を飲ませるとポタポタと要らない情報までもが漏れてきて、私が来るまでは毎日必ず寝顔を見ていたそうだ。すると、答えは私が来てから泣くようになったとしか。
「いや、他にもあるよ。麻美くんと隣に遊びに行くようになっているんだが?」
「そうでした、掃除が忙しいので麻美に霧ちゃんを頼んでいましたね。でも馬はとても可愛くて好きだと言っていますよ。」
「だよね~、僕も麻美くんにお礼を言ったらそう聞かされたよ。」
「馬は関係ありますかね。」
「無いだろう……。」
しかしだ、霧本人の横で話しているのが不思議でならない、これはお酒の所為だと思いたい。いやいや実のところ霧は、女将さんと仲良く話しをしていたんだから驚いてしまった。カウンター席にチョコンと座っておやつだかデザートだかを強請っていたようだ。女の店員さんがスーパーまで買いに行ったとか知らな~い。
それからは私も麻美を誘って行く事もあったな。勿論、私の保護者(ともはる)も同伴だからね。
「先輩! ゴチになりました。」
「お礼は瀬戸牧場に言えよ、農機具の修理代を頂いたんだからね。」
そこは先輩の闇バイトだった。麻美がお世話になるからと修理代は弾まれるのだとか、もう麻美さまだまだな。杉田牧場からは修理依頼は無い、無いが偶にでっかいお肉の塊が届くから、その時は私がお金を出して具材を買い接待に回る。
それはそれで楽しいひとときが過ごせるから最高だ。霧も……蹴落としたいが……先輩に甘えていて可愛い。
麻美からは馬術部からの徴発があって助かるし、三浦助教授は決まって紐で結んだ二本を提げてきてくれる。先輩と石川くんは霧のおやつだったりするから、霧は余計に嬉しいようだ。
石川くんには手ぶらで来るように頼んでおいた、今から霧に近づいて貰っては困るよ?
霧は活発な女の子で頭の切れもよく教授よりも優れている? とさえ思える。たぶんそうなのだろう、日頃から霧本人が意識して抑えている節が見受けられるのだよね。テストの答案用紙を黙って見た事があった。そこでバッテンの問題を読んでみたらばよ、前後して同じ傾向の問題で正解不正解を書いている。これって故意に書いたものだと考えられたんだ。黙って見てごめんなさい、今は保護者だからいいのよね?
マルとバツが交互に続くとか気づいてやれないのか? この担任は最低の若い女だろう、丸印も綺麗な丸を書いているから女の先生に間違いない。
「もっと頑張りましょうとか、一筆書くのはいいけれども霧のサインを見落としているね。」
これが私の正直な感想だ、私の成績は棚の上でいいんだ!
私は女の勘で分かるような気がするの。日本の教育は詰め込み式の知識優先主義だから知識の勉学と頭の切れとは比例しない。霧ちゃんにはそれなりに女としても教える事は沢山ある。女親=母親とはならない、女としての生き方は女しか分らないから、そこは私が教えてあげたい。
そこは理不尽な教え方はしないよ、押しつけもしない、丁寧に説明すれば霧だって理解してくれるし、たま~に私が間違っていたんだと、逆に教えられてしまった事も……あったかな~?
教授があーだからなおさらだ。……ねぇ~霧?
また、運動神経もずば抜けて優秀でどの男の子よりも俊敏に動けると思う。そこは動かないだけだろがね、でも事実を知らないのは私だけだったか。時期に学校からは呼び出しを、それも霧に家庭事情を聞いてまで私にまで要求してくるから困惑してしまう事にもなる。この一因が私だと決めつける担任は嫌いよ、大いに文句を言えば翌日からは休む女性教師だった。
あ、家庭訪問があったのを忘れていた。でも担任の先生とお会いしたのはお父さんだからね、私は渋茶を出しただけだから知~らない。
「もうさくらちゃんには頼めないね、教員の間ではマシンガントークとあだ名されたみたいだよ?」
「何ですかそれ、何処がマシンガントークなんですか。今度は教頭にも文句を言って……、」
「そ、それだけは勘弁して欲しい。忙しいが自分で誤りに行くよ。」
「そこは謝りです、誤りではありません。」
「う~指摘をありがとう。」
霧の弁護に、私の指導と行いに誤りはないと絶対に無いと言い張るから、こじれるのだろうか。私と智治さんとの子は大変かな、……キャッ!
*)麻美と霧
ここの処は大きく割いて別に書きたい処だから別様で書いてみる事にした。ここは霧の成長には欠かせないと思うの、書けたら投稿するね。
霧は麻美と時々乗馬しに札幌競馬場まで行く事があって、そして必ず霧はいつものようにニコニコとした笑顔を作り帰宅して来るのよ。
「麻美~霧ちゃんとまた乗馬に行くの?」
麻美と大学で別れる時の挨拶で、麻美は時々から行くときは常にとまで行く回数が増えてきた。霧を札幌競馬場まで連れて行って貰うのね、それだけでも私としては大いに助かるので今では感謝の念が大きくなってきた。
今日も行くと言って、そうして笑顔で帰宅するのが日常なのだが、昨日まではそうだったがそれがどうだろうか今日は二人とも沈んだ表情で、麻美は霧を連れて来てくれた。
「桜~ただいま~。」
「おかえり~……霧ちゃん?」
「……。」
帰った霧の様子が変だったので私はおもむろに麻美に尋ねた。
「霧ちゃんがに元気ないんだ、麻美……何かあったの?」
「実はね連れて行ったら馬が暴れて乗せられなかったの、この前もそうだったわ。」
「え……?」
「いつも上手に乗りこなしているけど、ホントどうしたのかしらね。」
「乗馬出来なかったから淋しいのかな、なんだろうね。」
実際は馬が代っただけなんだが、私らかして見れば馬は馬、同じと思い込んでいた。馬と騎手の組み合わせは変わる事もあるんだね。
それからまだ他にもあるからと麻美は話を続けてくれる。
「気のせいかもしれないけど、霧ちゃんは私のことを不思議そうに見つめることがあるわ。」
「きっと麻美が綺麗になったからよ。」
「え~そうかな、私綺麗になってるかな~。」
嘘も方便だけれども、女の私からおせいじを言われて喜ぶようじゃまだまだね。心で呟くの「勝ったね。」
何気ない霧の動作に「あっ、霧が変わってきたの?」とふと思った事を思い出した。この前の夜泣きの頃と符合するような……なんだろうこの感覚は。
女の敵は女というけれど麻美に何か感じる処があるのか? 私には麻美が以前と変わりはないと考えるのだけれども、霧が二階から降りて来たら尋ねよう。
翌日の日曜日のお昼になった。
「霧ちゃん今日は元気ないけど……どうかしたの?」
「ん~あのね、最近お馬さんがいうこをきいてくれないの。」
「そうなんだ、でもまた行くんでしょう?」
少しかまを掛けた質問をしてみる。するとどうだろう、常の麻美からは聞けなかった返事が返ってきたので大いに驚いたわよ。
「騎士のお兄ちゃんがね、『馬が嫌がっているよ、だから馬の為にもう乗馬は許可できないな~』と言うの。だから悲しくなっちゃった。」
麻美はそんな事は一言も言わなかった。麻美が知らないという事は逆に霧が麻美に気を使ったんだろうか、それは大いにあり得る話だと感じた。
「そ~なんだ、霧ちゃんは悲しいね。」
「うん!」
続けて霧が不思議な事を言い出して驚いた。
「さくらおねーちゃん、霧には両親とおねーちゃんがいるのかな。」
「本当のお父さん・お母さんについてはね、お姉ちゃんはパパから聞いたことはないな~どうしてなの?」
「でもね……時々夢に出てくるんだ。」
「両親の顔は分らないけど、おねーちゃんはその……、」
「その、なぁに?」
「それがね、あさみおねーちゃんなんだ。」
「へーそうなんだ、さくらおねーちゃんじゃないの? さくら淋しいな。」
「ごめんね、あさみおねーちゃんなの。」
そうか~霧の夢に出てくる麻美が姉なんだ、でもどうしてだろうか。
「じゃ~麻美おねーちゃんに、い~っぱい甘えようね。」
「うん!」
お昼ご飯でお腹も満ちて霧は元気になった様子で外に遊びに出かけた。霧の両親は飛行機事故で亡くなったと、追い打ちをかけるようで私には言えなかった。淋しい顔を作る霧が可愛そうだと思う。確か教授はキリに話していているからと仰ってはいたはず。
教授からは少しだけ霧の事は聞いていた、一緒に住むんだったら話しておこうと教授から話してもらっている。
機会があれば霧の夢の事は教授に相談してみよう。
今日も帰宅が遅い教授であって、もしかしたら手土産があるのかな。
麻美には霧のお守りで沢山の借りができてしまったからね、明日からの数日はこの家に泊めて接待を行う予定を組む。きっと杉田先輩も来てくれるだろな~嬉しいな~。
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