1-33.七天使『セブンス・ヘブン』の実力①【ラ・エル、ル・エル】


 シ・エルの神の奇跡【離れていてもリ・ン繋がり合う想い ・ ク】により映し出された映像に、市民だけではなく教会の信徒達も愕然がくぜんとしていた。


 「凄い……コレが、冠位アーク国民しか住めないガーサの『最高』の天使と呼ばれる、シ・エル最天使長様の神の奇跡!! 素晴らしい!!」

 「天使になれば神の奇跡を一つ授かり、天使長になれば二つ目を授かると聞くが……いったい幾つ神の奇跡を授かっているのだ!?」

 「噂では、最天使長は三つ以上の神の奇跡を授かっているらしいな。それだけ神に貢献した実績と信頼があるんだろう」


 信徒達が市民達にも聞こえるようにシ・エルをたたえ、尊敬の眼差しで見つめていた。


 市民達からも。

 自分達を一方的に暴力と権力で従わせようとしていたサラキ・エルとは違う振る舞いに、既に数人の市民がシ・エルのファン虜になっていた。


 「……何も知らないのは、当たり前か」


 ユーサは、自分を殺した天使に対して嫉妬しっとしているわけではないが、どこか面白くない感情で呟いた。


 シ・エルが、何を企んでいるのか。

 今から何を仕出しでかすのか。

 何故殺した自分を助けようとしているのかわからず。

 ユーサは、少し苛立いらだちをあらわにしていた。


 「それでは映像により何が映し出されるのか、最初に順番を説明しよう。

  いち。各都市で、ユーサに似た悪魔がいた事。

  。その悪魔を討伐した時の状況。

  さん。悪魔に情報を聞き出す映像をお見せしよう」


 シ・エルの言葉にその場にいる全員が注目する。

 先ほどまで意識を失っていたサラキ・エルが、意識を取り戻した。


 「__!? 待てシ・エル!! 何をするつもりだ!!」

 「おや? やっと意識が戻ってきたようだねサラキ・エル。そんなに『天使教皇様』からの追放命令がキテいたとは……まぁ、とりあえずその理由も含めて君も見てくれ」

 「__!? いったい我の何がいけなかったというのだ! どうすればよかったのだ!!」

 「サラキ・エル。とりあえず黙って見ていてくれ」


 天使という立場を追放。という命令にショックを受けて意識が飛んでいたサラキ・エルが、映像を食い入るように見ていた。


 「第一都市はラ・エル。第二都市はル・エル。第四都市はダ・エル。第五都市はアン・エル。第六都市はイフ・エルが録画してくれた内容をお見せしよう」


 第三都市は此処ここ、ザキヤミだから映像は無い事をシ・エルは補足して、映像に映し出されたものをその場にいる全員は食い入るように見ていた。


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 一つ目の映像。


 第一国家、砂漠の都市コガシマ。

 

 砂漠の黄金都市。とも呼ばれている街並み。

 ユーサは前世で見た事がある、インドの砂漠、砂丘さきゅうを思い出していた。

 砂と岩で作られた綺麗な街並み、秘術により幻想的な物語が今にも始まりそうな世界であった。


 ー 「「「GYAAAAAAAAAAAAA-ーーーーーー!!!!」」」 ー


 そこへ、突如とつじょ

 大量の悪魔が都市で暴れまわっていた映像が流れた。


 「ヒッ!!!」


 市民達の中で、昨日の事件を思い出す人が数名。

 声を出して怯えていた。


 ー 「探せ!! 神の依り代・・・・・を!! 我が一番最初に見つけるのだ!!!」 ー


 そこへ、人間の姿をした、半分人間、半分骸骨の顔をしたエナメルスーツを着た悪魔が現れて、数多の悪魔達に指示を出していた。


 「神の依り代・・・・・……」


 ユーサは、誰にも聞かれないように小さく呟いた。

 自分を生き返らせたジャンヌが言っていた。

 ディアとマリアの存在を、悪魔達は血眼ちまなこになって探している事に冷や汗が出ていた。


 「あ!? あれ__!!! マリアたちをおそった、ぱぱのニセもの!!!」


 マリアが大声を出して、映像を指さした。

 自分達を脅威きょういおとしれようとした人物が映し出されていた事に少し興奮気味に見ていたマリア。


 「あれ? 半分骸骨ガイコツでわからないけど。確かに、フォレストさんに似ているぞ?」

 「どういうことだ? フォレストさんは特殊な魔族だったんじゃないのか?」


 市民達が食い入るように、映像に映し出されたユーサに似た悪魔とユーサを見比べていていた。

 ユーサは、その視線を大変不愉快になりながらも、こらえていた。


 ー 「助けてーー!! 誰かー!!!! 天使様ーーー!!! 神様ーーーー!!!」 ー


 映像から都市に住む住人の悲鳴が聞こえていた。

 広場で映像を見ているザキヤミの市民は、昨日の自分達を見ているようで直視できない者もいた。


 ー 「らららー…。そこの悪魔君? 聞きたいんだけど、神の依り代・・・・・ってどういう事かな?」 ー


 そこへ、半仮面をつけたソバージュの髪をした女性が、親玉悪魔に話しかけた。

 現地人のアラビアンな服装。

 片手には、『サソリ』のしるしがされている、片手で持つには不釣り合いなほど分厚い大きさの『磁石』。

 スタイルの良さを隠す事ができない艶めかしい体。

 シ・エルと同じ軍服コートを羽織はおり、彼女の背中には青白い片翼が生えていた。


 誰もが、女性が天使であると気づいた。

 天使の登場により映像の音声が、コガシマの住民達による女性を称える声で埋め尽くされた。


 「彼女は、の仲間である。第一星天だいいちせいてん、月の加護を持つ天使。ラ・エル。通り名は『最防さいぼう』の天使」

 「最……『防』……?」


 シ・エルが、映像を見ている市民達にラ・エルの詳細を説明し始めた。

 彼女が今までのコガシマで成し遂げた実績の数々。

 市民からの信頼。天使としての実力。

 一つ一つが、神に誇れる内容である事を聞き、ザキヤミ広場にいる市民のラ・エルへの活躍に期待が集まる。


 ー 「チッ!! こんなところに、もう天使が駆けつけてきたか!! 死ね!!!」 ー


 ユーサに似た悪魔は、その場から大量の悪魔を使役して、天使を攻撃した。


 ー 「らららー。やっぱこうなっちゃうか? しょうがないね……」 ー


 ラ・エルは、何かを諦めて戦闘態勢に入る為に、呪文を唱え始めた。

 

 ー 「 ≪ 君が描く 蜃気楼らくえんへ ≫ 」 ー


 ラ・エルの胸元にある青白い真珠。

 パールの【秘宝石】が輝き始めた。

 共鳴するように『サソリ』の印がされた『磁石』が光り始める。



 ー 「 ≪ 【神の奇跡エル・ラーク】 ≫ ≪ 【崩れゆく砂の城ロスト・ヘブン】 ≫」 ー


 ラ・エルが、青白いオーラを纏い、呪文を唱え始めると。

 『磁石』の周りに周辺の砂が、生きているかのように集まり始めた。

 砂漠の砂と岩が高速で混ざり合い砂の壁を作り、ラ・エルだけではなく、都市に住む市民を守る城、要塞を生み出した。


 悪魔達が、お構いなしに砂の壁を壊そうと、触れた瞬間。


 ー 「「「「AAAAAッ!!? GYAAAAAAAAAAAAA-ーーーー!!!!!!」」」」 ー


 砂の壁が一瞬で、悪魔の軍団を飲み込んだ。

 まるで砂嵐に巻き込まれたかのように。

 砂の竜巻が、飲み込んだ悪魔達をボロ雑巾のように絞りだし、おびただしく血が噴出した。

 そして、悪魔達の体中から水分がなくなったのか。

 生きたまま干からびていき、次々と悪魔の灰が周辺に散らばり始めた。


 「なるほど……最も『防』御が強い、天使って事か……」


 ユーサは、静かにラ・エルの戦闘の腕前を分析していた。

 【秘宝石】を最悪の場合は、戦って奪う可能性。

 もしくは、対峙する関係になった時の為に、ユーサは先程のダメージが回復しきっていない頭で朦朧もうろうとしながらも観察の目を光らせていた。


 ー 「な、、な、、、なんだ、、この天使は!! クソッ!! 死ねええーーー!!  ……GYAAAAAAAAAAAAAAAAーーーー!!!!!!!!」 ー


 ユーサに似た悪魔が、ラ・エルに襲い掛かる。

 しかし、あっけなく生きた砂と岩の嵐に飲み込まれ、雑魚悪魔と同様に干からびていった。


 ー 「やっと…………のに……」 ー


 それが最後の言葉となり、ユーサに似た悪魔は灰と化した。

 そして、悪魔の親玉が倒された事で、都市を強襲していた悪魔達も一緒に消えていった。


 「なるほど。やはり……か……」


 シ・エルは、何かに気づきボソっと呟いた。


 ー 「おおおおお!! ラ・エル天使長!!! バンザーーーイ!!!!」 ー


 映像から耳が痛くなる程に、現地民の歓声が響いた。

 

 力を解除して、片翼を消したラ・エル。

 それと同時に神の奇跡により収束した砂粒が、まるで夜空に浮かぶ星屑のように煌びやかに消えていった。

 砂粒の輝きと共に、小さな虹と月が輝いた。

 その輝きが疲弊した砂漠の都市と市民を癒すかのように、天の川が流れていた。

 

 ー 「らららーー!? シ・エル君!! ごめん!! あっさり殺しちゃったわ!! 情報聞き出せなかった……」 ー


 「ラ・エル、ご苦労様。コガシマの市民を救ってくれてありがとう。充分よ」


 先ほどまで真剣な顔をしていたラ・エルが、カメラ目線で友達に送るビデオレターのように、見た目からは考えにくい少女のように砕けた感じの声を出してシ・エルにメッセージを送った。


 「……では、次はキサナガのル・エルを見てみよう」


 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 次の映像は、ザキヤミから近い隣の水の第二国家の都市。キサナガ。


 ユーサは、前世で写真でしか見たことがない、イタリアの水の都ベネツィアのような水の上に建物がある街並みを思い出した。

 秘術により、水の中をガラス玉のような乗り物に乗って街を移動し、人魚達が市民をエスコートする姿は、幻想的な映画に出てくる映像を見せられているかのようなものだった。


 「あ! ここ! マリアしってる!! ブンねえちゃんが、すんでいるばしょだ!!」

 「そうねマリア。……ブンちゃん。大丈夫だったかな」


 ディアは、ユーサの葬式で数百キロメートルは離れている場所から来てくれた姉の事を思い出していた。

 今回の事件で急遽きゅうきょキサナガに戻り、人命救助で無事活躍したのか、それとも悪魔との戦闘で命を落としたのか、ディアは不安になっていた。


 不安になっている理由は、映し出されたキサナガも悪魔の襲来を受けている真っ最中の映像だからである。

 

 ー 「AAAAAAAAAAAAAAAーーーーー!!!!」 ー

 ー 「さぁ、水の都市に住む住民の中に標的がいる筈だ!!! 探せえええーーー!!!」 ー


 「また……フォレストさんに似た悪魔がいるぞ……」

 「本当だ……何故?」


 先ほどのコガシマと同じく。

 ユーサに似た人型の悪魔が、水の都市を自由に行き交いできる、魚類、魚人族の形をした骸骨の悪魔の軍勢を引き入れ、市民を襲っていた映像が流れた。


 「酷い……大雨……」


 ディアが小さく震えながら呟いた。

 水の都市が飲み込まれそうなほど災害レベルの大雨。

 綺麗で美しい水の都市が、津波に飲み込まれ瓦礫がれき泥水どろみずで埋もれそうになっている街並みと化していた。


 ー 「天使様!! 神様!! 助けてーーー!!!!」 ー


 それは、無情にも、救いがないかのようにも見えた。

 水の都市に住む市民の悲鳴が、いくつも映像から流れてきた。


 ー 「__!!? 見て!! 教会の頂上を!!!!」 ー


 しかし、悲鳴に答えるように。

 中央都市の教会の頂上に立つ、が映像に映りこんだ。


 「彼女はル・エル。第二星天だいにせいてん、水星の加護を持つ天使。彼女の通り名は『最強さいきょう』の天使」


 シ・エルが、先程と同じように映像を見ているザキヤミの市民に説明をしていた。


 「『』……。最も、強い、って事なのか? そんなに……?」


 見た目からは想像もつかない。と言いたげにユーサが呟いた。


 長い金髪の女性。

 全てが黄色で統一されたコーディネート。

 目元は、黄色の仮面をして素顔が見えない。

 体形を誤魔化すことができない民族衣装のアオザイを着て、シ・エルと同じ軍服コートの色違い、黄色のコートを着て、背中には黄色の片翼を羽ばたかせていた。


 『最強』というには、つかわない無防備のまま立ちすくしていた。


 ー 「__。」 ー


 カメラ目線で、ル・エルは黙ったまま何かを訴えていた。


 ー 「AAA!!?? AAAAッ!! AAAッ!!!!」 ー

 ー 「いたか!! なんだ……天使か。ガッカリさせやがって間抜け共が……。邪魔しに来たのか? 教会の犬が!!」 ー

 ー 「__。」 ー

 ー 「おい! 何を黙っていやがる!!」 ー

 ー 「__。」 ー


 ユーサに似た悪魔と部下悪魔の集団が、ル・エルに気づいた。

 しかし、ル・エルは一言も発せず、仮面の下にある視線だけで何かを訴えかけていた。


 ー 「なんだ貴様? おちょっくっているのか!!? 邪魔するなら死ねえええーーー!!! 」 ー


 ユーサに似た悪魔が、黙ったままのル・エルを不気味に感じたのか。

 しびれを切らして、悪魔の集団と一緒に襲い掛かった。


 ー 「 ≪ __。≫ 」  ー


 ル・エルは、右手に持っていた『』の印が付いた水鉄砲を空に向け、何かを小声で唱え始めた。


 「……途切れた糸がどこか、……運命にきざみ付ける」

 

 ディアは、ボソッと、彼女が唱えた呪文を聴き取り、呟いた。


 ル・エルの胸元から、黄色の【秘宝石】トパーズが、オーラと一緒に輝き始め。

 輝きに共鳴するようにル・エルの背中から黄色の片翼が現れた。

 

 天使の羽が辺りに散らばり、ル・エルが持つ水鉄砲の『人魚』の印が黄色に光始めた。

 

 ー BANッ!!!! ー


 ル・エルは、右手の水鉄砲を雨空に向けて発砲した。


 その瞬間。

 降っていたが。

 糸のような。

 針のような。

 槍のような。

 

 

 ー 「「「「AAッ!!?? GAAッ!!?? AAーーーーーーーーッ!!!!!」」」」 ー


 雨の一粒ひとつぶ一粒ひとつぶが、凶器と化し、悪魔の集団を貫いた。

 体中に無数の小さな穴を開けられ、いびつな形に変化して血を大量に噴出し、絶命していく悪魔の集団。


 ー 「なんだ!!? AAッ!!? 雨が!! 針に!! 変わっって、、、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーー!!!!!!!!!!」 ー


 都市を襲撃していた、雑魚悪魔だけではなく、その集団を引き入れていたであろうユーサに似た親玉悪魔は、悲鳴を上げながら、一瞬にして灰と化した。


 「__!!? なんだ!!? 何が起きた!!?」


 映像を見ていた全員が、一瞬の出来事に理解出来ずにいた。


 「これが、彼女が『最強』の称号にふさわしい天使としての象徴。 ≪ 【神の奇跡エル・ラーク】 ≫ ≪ 【死の運命に刻みフラット・オブ付ける大雨の涙・ティアーズ】 ≫」 


 シ・エルが、喋らないル・エルの代わりに補足するように説明し始めた。


 「振り出す雨を、凶器に変えるという恐ろしい奇跡だ」

 「え?」

 「雨の日の彼女は無敵だ。まさに『最強』だろう? 因みに、人間に害はない。悪魔だけを退治する雨だよ。是非、君と戦わせてみたらどうなるか……、ねぇユーサ」


 雨が降ろうが、槍が振ろうが。という言葉を思い出すユーサ。

 

 「冗談だろ……。『最強』……『』の間違いじゃないのか?」

 

 圧倒的な、恐ろしさ強さを持つ天使。

 映像を見れば見るほど、ユーサはシ・エルの仲間達との力の差を痛感する一方だった。


 「神様が言う、『殺してでも奪い取る』という選択肢は無くなったか……。まぁ元からするつもりはなかったけど」


 ユーサは、ル・エルの胸元で光るトパーズの【秘宝石】を見ながら、生き返る条件である召命コーリングの一つ。

 最天使長の【秘宝石】回収が頭によぎった。


 「天使長レベルで、これだけ強いなんて……最天使長の【秘宝石】なんて、どうやって集めろって言うんだよ……神様」


 ユーサの中で、圧倒的な力を持つ天使達と戦う選択肢は無くなっていた。

 __こんな格上の天使を、どうやって仲間にすれば良いのか?

 っと、一人で思考を膨らませて、無宗教者のユーサは名前の言えない神様に啓示を求めていた。


 「おいおい。あれでキサナガの最天使長ではなくて、天使長レベルなんだろう?」

 「その上である最天使長は、もっと強いんだろうか……流石は、エル教会だ」

 「ザキヤミの天使と変わってもらいたかったぜ、ハズレを引かされてる気分だ」

 「……。」


 市民達の声が、騒めき始める中。

 一人だけ、黙ったまま金髪の天使を見つめている女性がいた。


 「……『最強』。が……よく言っている言葉」


 キサナガに住む半人魚で、金髪の女性は珍しくはない世界。

 しかし、胸に違和感を感じたディアは、自分の鼓動を確認していた。


 「? ……ディア?」

 「……。」


 ユーサの声が届いていないのか、ディアは映像に映った金髪の女性を見つめていた。


 金髪ツインテールで半人魚の姉。

 目の前の金髪の天使が、重なって見えた謎の違和感を拭えず。

 ただじっと、穴が開くかのように、ディアは画面を見つめていた。



  ー 「__。」 ー



 悪魔の襲来を防ぎ、任務を完了したル・エルが、カメラ目線で何かを訴えていた。


 「ラ・エルと一緒で、情報を聞き出せず倒した事を謝罪しているね。……あ、因みに。ル・エルは喋らない。身振り手振りボディーランゲージでコミュニケーションを取る天使だ」

 「え? あれ、身振り手振りしてるのか?」


 目元を隠している仮面をしていても、無愛想なのが伝わってくる風貌。

 悲劇から解放された市民の歓声を背に、ル・エルは映像を切った。



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 「次は、第四国家。雪原の都市、タイオー。第四星天だいよんせいてん、太陽の加護を持つ天使、ダ・エルが担当の映像なんだが……。録画ミスして、何も映ってないな」


 シ・エルが、次の映像を映し出そうとしたが、何も映っていない画面が上空に表示された。

 

 「えーと……あ、あった。……って、動画じゃなくて、写真だけ撮ったのか」


 シ・エルは、持っている土星型の鐘を触り、まるでリモコンでテレビ画面の設定を開くように確認をし始めた。


 「しかも……ん? ダ・エルは余の指示を無視して観光でもしていたのか?」


 画面に映し出されたのは、雪原の大地。

 綺麗な雪結晶が彩る街並み。

 雪国に存在するのが不釣り合いな、南国にあるようなオレンジ色の太陽。

 ……と、1枚1枚が写真家が撮った洗礼されたスライドショーが画面に流れていった。


 「あ、映った……けど、後ろ姿って……意外だな。ダ・エルはシャイなのか?」


 そのスライドショーの最後。

 シ・エルと同じ軍服コートの色違いであるオレンジ色。

 その上から、オレンジ色の片翼が背中に生えた天使の後ろ姿。

 そして、街を襲撃したであろう雑魚悪魔達の灰、親玉の【死の灰】、歓喜する市民達の写真が映し出されていた。


 「の加護……どんな神の奇跡の持ち主なんだ? ん?」

 「……。」


 ユーサは、写真ではわからない情報に少しがっかりしながら呟き、横目でディアを見た。

 ディアは、先程と同様に天使の姿を食い入るように見つめていた。


 「どうしたの? ママ?」

 「……。え? あ、うん。なに? マリア」

 「ママ、このオレンジのおにいさんてんしのこと、ずっとみてたの」

 「え? そう?」

 「うん。パパをみてるときと、おなじめでみてたよ?」

 「え?? そう??」

 「むっ!?」


 マリアとディアのやりとりを横で見ていたユーサが、面白くないような反応をした。


 ユーサは、画面越しに見えるオレンジ色の天使に嫉妬してしまったのか。

 __何故か分からないが。とは、仲良くできない気がする。

 と、心の中で呟き、謎のライバル心を芽生えさせていた。

 

 「メッセージも来ているな。『シ・エルへ。タイオーの雑魚悪魔と親玉は破壊した。都市の被害も最小限に抑えた』……と報告があるから、まぁ良しとしよう。次を映すよ」


 テレビのチャンネルを変えるように、シ・エルは次の映像を映した。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 「次は、第五国家。火山燃料を扱う機械都市、トモマク。第五星天だいごせいてん、火星の加護を持つ天使、アン・エルなんだが。あれ? コレも映ってないぞ?」


 映像を映す側のアクシデント予期せぬ問題、なのか。

 それ以降、映像は「ザー……」という映像が流れた。

 ユーサは、前世の深夜で見る、テレビの砂嵐のように何も映っていない状態を思い出していた。


 「一応。アン・エルからは『終了した』とだけしか報告が残ってない。流石は『最怠』の天使。働きたくないのか。しょうがないな。次のを映すか」

 「ママー。つぎのてんしさまはー?」

 「え? あぁ、映ってなかったみたいよ」


 ディアはマリアから急に声をかけられて、心此処こころここにあらずな状態であった。


 「?」


 ユーサは、ディアの様子がおかしい事に気付いたが、映し出された映像に目を向けた。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 「最後の映像を流そう。第六国家、修羅しゅらの国。第六都市オカフクなんだが……最後は、録画じゃなくて実況中継のようだ」


 シ・エルの言葉と同時に、一人の紫色の髪、服装をした少年が映し出された。


 「ふぃふぃ。シ・エルーー? おーい! 見えてっかーー? 返事しろーー。……オイ、ポンコツロボット天使。これどうなってんだ?」


 映像に映っていた少年の姿が、急に顔のドアップに変化した。

 カメラの録画、ズーム機能を上手く使いこなせていないように、操作に慣れていないのか、あどけない少年が呑気な声を出しながら、画面外にいる誰かと会話をしながら登場した。


 「映っているよ。イフ・エル。聞こえるかい?」

 「お? その憎たらしい声は、シ・エル! 何とか映っているみたいだな」

 「ははは。イフ・エル。一応、余は君達の上司なんだけど、憎たらしいっていうは酷いよ」


 シ・エルと、画面に映し出されたイフ・エルと呼ばれた紫色の少年が、マイクとカメラテストをするように会話を続ける。


 「紹介しよう。彼は、余のセブンス・ヘブンでを誇る、第六星天だいろくせいてん、木星の加護を持つ天使、イフ・エルだ」

 「え? さっきの天使達より強い。……っていうのか?」

 「ん? どうしたユーサ? 気になるのか? 余はそう高く評価している」


 ユーサがつぶいた独り言にシ・エルが反応する。

 

 イフ・エル。と呼ばれた紫色の髪、服装をした少年。

 テクノカットされたボブカットの髪型。

 学生服の上にシ・エルと同じ軍服コートを羽織っている。

 見た目は、中学生ぐらいの幼さの少年。


 「因みにイフ・エルの二つ名は『』だ。天使なのに『最悪』の天使で通っている」

 「え?」

 「それぐらい、という事だ」


 シ・エルは自分の仲間を自慢したいのか、誇らしげにユーサに答えた。


 「シ・エルーー。俺は指示通り、他のアホ天使共と違ってだぜ。今から情報を聞き出す」

 「おお。流石さすがはイフ・エル。お手柄だ」

 「だろぉ? 圧倒的な強者きょうしゃというのは、ヤツの事を言うんだよ」


 画面上のイフ・エルと呼ばれた紫色の少年は、褒められたことが嬉しいのか。

 胸を張りながら答えた。


 「ラ・エルも、ル・エルも、ダ・エルも、ポンコツロボットのアン・エルも雑魚ざこだから敵を全滅させちまうんだよ。なぁ、シ・エル? 今度のボーナスは全員分を俺に振り込んでおけよ?」

 「__ドチビだから、大した威力が無いだけの話じゃなイノカ?」

 「あ?」

 「オ?」


 画面外から機械音のような女性の声が聞こえた。

 そして、イフ・エルは声がする主の方を睨んでいた。


 「……ん? 何故アン・エルの声と天使武器である怠惰のハンガーバサミベルフェゴールが?」


 シ・エルが何かに気付き、イフ・エルに話しかけた。


 画面に映し出されたのは、ならず者達が通るギャングストリートの壁。

 その壁に、はりつけにされた蝶のように動かない状態のユーサに似た悪魔が、服をかけると、巨大なとで拘束されていた。

 洗濯バサミとハンガーには『』の印が刻まれていた。


 「お、そうだ。おい、ポンコツロボット。俺達の上司ボスがお呼びだぞ」

 「何故、のアン・エルがそこに?」

 「コノ、クソチビと賭けに負けたカラ、ダヨ。シ・エル」


 アン・エルと呼ばれた百八十センチ以上はありそうなモデル体型の長身の女性が画面に映し出された。

 腰まである赤色の長い髪。

 スタイルの良さが隠し切れない赤色のチャイナドレス。

 その上にシ・エルと同じ軍服コートの赤色を着た女性。

 

 エロティックな彼女の姿を見た男性市民が、少しだけ歓喜の声を出していた。

 

 「ふぃふぃ。負けた雑魚は大人しく手伝えや、ポンコツロボット」

 「ア?」

 「お?」

 「賭け? ハッハッハッハッハ。仲が良いのはわかるけど。余の天使内でマジギレ喧嘩は減給どころではないからほどほどにね」

 「チッ。命拾いしたな、

 「あ? ? どうしたアン・エル? 急に自己紹介なんかして。画面を見てる男性諸君に自分が肉便器ロボットである事をアピールしたいのか? 流石だなぁ」

 「ハ?」

 「ん?」


 イフ・エルとアン・エルは犬猿の仲なのか。

 今にも殺し合いが始まりそうな一触即発な状態。

 メンチの切り合いをしている天使達を見せられている市民達は動揺どうようしていた。


「皆さん、お待たせした。これから、ユーサが今回の事件の黒幕ではないという、決定的な証拠をお見せしよう」


 シ・エルは二人を止める訳でもなく。

 演説をする役者のように大袈裟な仕草で、映像を見ているザキヤミの市民に伝えた。

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