1-32.神の奇跡《エル・ラーク》【離れていても繋がり合う想い《リンク》】



 「シ・エル……何故、き、、貴様、、が、ここ、、に? 管轄かんかつ、、がい、、だぞ!」


 サラキ・エルがシ・エルをにらみながら口を動かす。


 「天使教皇様てんしきょうこうの命により、ガーサからこのザキヤミまで来たまでさ」

 「な、、!!? て、、ん、、」

 「会話にならないな、一度【神の奇跡エル・ラーク】を解除しよう」 


 シ・エルは持っていた土星型の鐘に手を触れて、鐘の振動を止めた。


 ドゴンッ!!!!!! グシャッ!!


 鐘の振動が止むと同時に、サラキ・エルの鞭が地面にたたきつけられた。


 「あなたっ!!!」

 「パパのあたまがーー!!! いやああーー!!!」


 そして、同時にユーサの頭も鞭で叩きつけられた。

 シ・エルは、ユーサの危機を救ったわけではなく、ユーサが大怪我する事を一瞬だけ先延ばしにしただけであった。


 「あ。悪いユーサ。まるで、サンドイッチに挟まれた具材みたいになっちゃったね。グシャッ! って言ったね。鞭と地面のサンドイッチなんて誰も食べないよ? アッハッハッハッハッハ!!!」


 何が可笑おかしいのか、下手をすれば命を落とす可能性がある瞬間をシ・エルは楽しそうに笑っていた。


 「あれが、上級国民を超える冠位アーク国民ではないと住むことができない第七都市ガーサの最天使長なのか?」

 「噂に聞く『』の天使ではなく、『』の間違いじゃないか?」

 

 市民から冷ややかな視線と、小さなボソボソ話が耳に入ったのか。

 シ・エルは少しだけ咳払いをして冷静な態度に戻った。


 「ディアさん。こちらの方に来て、ユーサの手当をお願いしても良いかな? 大至急で」

 「え? あ、はい!!」

 「!!? なりません! シ・エル最天使長!!」


 ディアとマリアを拘束していた信徒達が、シ・エルに忠告をした。


 「あーそこの信徒諸君。サラキ・エルの言う事に従わなくて良いから。彼女達を解放してくれ。ユーサ達の治療をしたい」

 「ふ……ふざけるなぁあああああーーーー!!!! シ・エルっ!! ここは我の管轄だぞ!!」

 「何を言っているんだ。君は? これも、天使教皇てんしきょうこう様のめいだ。だから信徒諸君、ディアさん含め、市民の皆さん達を解放して欲しい。最天使長以上のめいを、君達は無下むげにするのかね? 知らないよ? どうなっても?」

 「__っ!? ハッ!! シ・エル最天使長!!」

 「なっ__!? ふざけるなぁあああああーーーー!!!! このゴミカス共がぁあーーー!!!」


 武装した信徒達は、『使』という言葉を聞いた瞬間態度を変えた。

 慌て始めたが、シ・エルの言う通りディア達を解放した。


 サラキ・エルが、信徒達に暴言を吐く。

 しかし、『天使教皇てんしきょうこう』の名前に恐れをなしたのか、命令には逆らえないのか。

 武装した信徒達は、サラキ・エルの方を見向きもせず市民を次々と解放した。


 「おいおい。サラキ・エル。君は最天使長なのに、余の言う事を誰も疑わずに解放したよ? 君は部下に信頼されていないのだね? アッハッハッハッハッハ!!! ダメだよ? 部下に信頼してもらうのは、上司の能力ステイタスだよ?」

 「!? シ・エル!! 貴様ッ!! 嘘だったのか!!!」

 「あ、悪い。それは本当の事だ『天使教皇てんしきょうこう』様の命令があってね。その一つ、君は天使追放だからね」

 「__つ!? 追放!!? 『天使教皇てんしきょうこう』様がっ!? 何故!!! 我を!!?」

 

 サラキ・エルは持っていた鞭を落とし、裁判長席に座りこんだ。

 魂が抜けたかのように、銅像と化したのか微動だにせず固まっていた。

 飼い主に見捨てられた子犬のように、ただ意識を保つ事がやっとな状態で意気消沈いきしょうちんしていた。


 「ママ……てんし、きょうこう、さま。ってなぁにぃー?」

 「マリア。『天使教皇てんしきょうこう』様っていうのはね。一国いっこくの王様達よりも立場が上と呼ばれていて……。エル教会の頂点に立つ、一番偉いちばんえらい天使様なんだよ?」

 「ええ!! そうなの!!? すごおーい! だから、あのこわいてんしさま。だまっちゃったんだ」

 「そうよ。自分よりくらいが上の天使様の言う事は絶対らしいわよ? あの怖い最天使長様は、天使の身分は辞めさせられちゃうらしいの。そして、その『天使教皇様』は私達一般市民では、お会いする事も許されない。とされている程の、身分が高い天使様なのよ」

 「ええー。そんなぁーー。マリア、おれいが、いいたいのにぃーー」


 ディアとマリアは、ボソボソと話をしていた。

 マリアの質問に分かりやすいように、丁寧に答えていた。


 「ディアさん。今のうちに、ユーサとジル氏達を診てもらえると助かるんだけど」

 「あ! はい! ありがとうございます! シ・エル最天使長様!!」


 シ・エルの指示通りディアが、ユーサ、ジル、ギアドの順に診察を行った。


 「皆……酷い状態……私一人では……全員は助けられない……どうすれば」


 重症の三人。

 助けるのは、最愛の夫か。

 それとも、先に重症度の高い、ジルとギアドか。

 一刻も争う中、ディアが迷っているその時。


 「なにやってんのよさ、ディア!! こういう時は、じゃなくて、な!!」

 「え?」


 ディアは声がする方を見た。

 聞き覚えのある親の声。

 白衣を着た、ピンクの髪をした褐色の老婆のエルフがディアの横にいた。


 「ナザさん!!?」

 「アタシだけじゃないよ。ごめんね遅くなって。ほら! アンタ達も市民で怪我している患者の治療を開始しなっ!!」

 「「「はい!! リー院長!!!」」」

 

 ディアの育ての親であり、ナザ病院の院長である医師、ナザ・リー。

 彼女が、数名の医療従事者を連れて現場に駆け付けた。


 「ディア!! アンタは、ユーサを!! アタシは、ジルとギアドを治療するよ!!」

 「__! はい!!」

 「ママたち……すごいの!」


 ディアとナザも治療、手当を開始した。

 その手際はよく、一切の迷いがなく、ユーサ達の応急処置が始まった。

 ディア達の活躍をマリアは、窮地きゅうちを救うヒーローの登場を見せられているかのように高揚こうようしていた。


 「ナザさん! どうしてここに!?」

 「さっきまで、今回の事件による怪我人の治療をしていたのよ! 不眠不休であちこち駆け回っていて、ユーサの異端審問が始まるっていうから、ギリギリ間に合ったのよ!」


 ディアとナザが会話をしながら、処置を進めて会話を続ける。

 

 「そしたら、シ・エルが、今のタイミングで。って言い始めてね! 何考えてんだが、この自称、最高の天使様は!!」

 「え? もっと早めに来られていたのですが? どうして……」


 __もっと早めに助けてくださらなかったのですか? そうすれば、夫達も、市民の皆さんも傷つかずに済んだ筈。


 ……という言葉を飲み込み、視線だけでシ・エルに訴えかけるディア。


 「ん? ああ。そうか。申し訳ない、ディアさん。もうちょっと早めに駆け付けれたのだが、余の方で準備に手間取っていてね」


 ユーサの手当がほぼ完了したタイミングで、ディアとシ・エルの視線が重なる。

 ナザの方は、ジルの応急処置が終わり、ギアドの治療を開始するところであった。


 「重ねてお詫びするよ、ディアさん。でも、お陰で、ユーサを今回の事件の犯人にしなくて済む証拠は集まったのだから、それで許していただけると助かる」

 「え? それはどういう……」

 「ぐ……。シ・エル……」


 ディアの治療により、ユーサが意識を取り戻した。

 しかし、まだ本調子ではないのか、顔を歪めながらユーサは目を開けた。


 「パパ!! やった!! めがさめたんだね!! よかった!!」

 「あなた! まだ動いちゃダメ!!」

 「あ、ユーサの方は大丈夫だね? 流石はディアさん。では説明を始めようか。弁護天使の出番といこうか! アッハッハ!!」


 ユーサが起きた事を確認し、シ・エルは最天使長しか入る事を許されてない裁判長席まで歩いた。

 意気消沈したサラキ・エルの隣まで来たところで、その場にいる者達の視線を一つにするように挙手をしながら、大声を上げた。


 「諸君!! 今から、ユーサ・フォレストが今回の事件の犯人ではない。という証拠をお見せする!」


 シ・エルは、そう言いながら手に持っていたサファイアオニキスの宝石を左手に、土星型の鐘を右手に持って、空にかざした。


 「 ≪ 生まれ変わる世界が、その目に、届くように …… ≫ 」


 ー カラーン ー


 「 ≪ 【神の奇跡エル・ラーク】 ≫ 」



 ー カラーン ー



 シ・エルが、土星型の鐘を鳴らして呪文を唱えた。



 「 ≪ 【離れていても繋がり合う想いリ ン ク】 ≫ 」


 ー カラーン ー


 シ・エルが呪文を唱え始めると、サファイアオニキスの宝石から光が現れた。

 その光は立体的な映像を、上空に映し出した。

 

 そこには、ユーサが見たことがある、使が映されていた。


 「……シ・エルの……天使……たしか……破壊神の……」


 ユーサは、自分が殺された日を思い出した。

 破壊された古ぼけた教会にいた、天使達。

 ク・エル以外の天使が映し出されていた。


 「余の仲間である、破壊神側近部隊の天使セブンス・ヘブンが、各都市で起きた事件の主犯悪魔を討伐した時に得た情報を、諸君達にお見せしよう」


 まるで、上空にホログラムで出力された巨大なテレビモニター画面のように。

 各都市で起きている事件の様子がそこに映し出されていた。

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