1-12.天使武器:暴食の大鎌【ベルゼブブ】


  

 「これでよろしいですかな? ナザ院長」

 「あぁ。うるさいのがいなくなって、やっとこっちも仕事に取り掛かれる」

 「フフフ……ナザちゃんったら。素直じゃないんだから」


 高度な奇跡を目の前にして、現実を忘れてしまっていたが、三人の会話と……。



 __ガタンッ!!



 突然、大きな音を立て、扉が開けられた。


 意識が現実に戻った。

 皆が一斉に音が鳴った方向を向いた。 


 「ジルちゃん!?」

 「トムさん。ギルド本部からの伝令です。早くお戻りになられた方がよろしいかと」

 「わかったわ。ナザちゃん行くわよ」

 「あぁ、そうだねぇ」


 神主様かんぬしさまのジルさんが、トムさん達にギルドからの緊急連絡を伝えに来たのだろう。


 そうなると……。


 「ナザさん。私も……」

 「ディア。アンタは無理しない方が良い。病院こっちの事は任しときなぁ」


 ナザさんが手を前に出して、立ち上がって駆け寄る私を静止させた。


 「今のアンタじゃあ、仕事にならんでしょうよ。一応アンタ達を傷つけた最天使長さんに一肌ひとはだ脱いでもらいましょうかね」

 「え……?」


 ナザさんも、シ・エル最天使長様の肩を持つように話を進めていた。


 「大丈夫だよディア。実はアタシも、このいけ好かない最天使長さんとは古い知り合いでねぇ。何考えているかわかんないけど、腕は確かだし、マリアの事を考えるなら……今の状況ならアタシ達よりもソイツと一緒にいた方が安全さねぇ」

 「ナザ院長。そんな風に余を見ていたのですかな?」

 「だってそうでしょうよ。何考えてんのか分かんないし、何仕出しでかすかわかんないし。ディアになにかあったら承知しないからね」

 「シ・エル。ワタシも同意見よ。ディアちゃんとマリアちゃんに何かあったら、今度こそどうなるか……わかってるわよね?」


 シ・エル天使長様に対して不信になっているのを、きっと感じ取っているからこその、配慮なのだろう。

 ナザさん、トムさんがシ・エル最天使長様に睨みをきかせていた。


 「なるほど、エル教会の天使長様達がいるのであれば、フォレストさんは大丈夫そうですね」


 ジルさんが、シ・エル天使長様を見た後、何か納得したような様子で、そう口にした。

 他宗教でも、エル教会の天使様は特別なのだろうか。


 「先ずは、皆様、緊急用の出入口をお使いください。どうぞこちらへ」

  

 私達は、ジルさんに先導され、部屋を後にした。



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。



 ジルさんから、緊急用の出入口を教えてもらい、外に出た数分後の事だ。



 トムさんはギルド、ナザさんは病院の方に向かい。

 私とマリアは、シ・エル天使長様達と一緒に都市の裏路地から、教会の避難所まで向かった。


 「ハァ……ハァ……」


 マリアを抱きかかえながら、シ・エル最天使長様達が言う避難所への途中。

 安全な所、という所まで走り続けた。


 ……のだが。


 「ママ……だいじょうぶ?」


 腕の中のマリアが、私の心配をする。


 「ハァ……、大丈夫……、ハァ……、だよ、マリア……、気にしないで……」


 笑顔で、そう娘に答えてみたけど。

 正直、自分でも無理しているのがわかる。


 情けない母親と思われたくないのもあるのか、そんな風に口にしたが……。

 かれこれ数分間、娘を抱きかかえながら走っているので、正直言うと疲れている。


 食事どころか、血液・・も取れていないし……。


 赤ん坊の時は大丈夫だったけど、娘も重くなった。

 確か、十三キロぐらいには……なっていたはず……。

 大きくなったんだなぁ……と、緊急事態こんなときに感じるとは思わなかった。


 「……シ・エル様。もうこの辺で……一旦よろしいのではないでしょうか……?」

 「そうだね。ここら辺なら安全だろうし、そろそろ・・・・かな」


 息を切らして走っている私をずっとチラチラ見て気にかけてくださっていたク・エル天使長様が、シ・エル天使長様に申し出をしてくれた。


 正直、助かる。


 「ディアさん。無理をさせて大変申し訳ない。もうそろそろ、余の【虹色の転移窓ヴィヴィッド・カラーズ】が使えると思うので、ここで待機しよう」


 目の前の二人が足を止めて、私達を出迎える。


 二人共、まったく息を切らさず平然としている。

 マリアを担いで走っていたのもあるが、明らかに天使様達とは体力、体のつくりが違うのを思い知らされる。

 まぁ、室内で仕事している人と、室外で体を動かして仕事をしている人を比べるのは何か違う気もするが。


 「……ディア様。どうぞこちらに腰かけてください……」

 「あ……ありがとうございます」


 天使長様に『様』付されるのは正直気恥ずかしい。

 神様でも、貴族でもない私には勿体無いお言葉。


 しかし、走って疲れているせいか、失礼ながらも訂正する余裕はない。


「……ふぅ」


 汗をかきながら、情けない一息を出した。

 そして、道で座れそうな台がある箇所に、マリアを抱えたまま腰かけた。


 「……何かお飲み物を、お出ししましょうか……?」

 「あ、いえ……、ハァ……、お気遣い、ハァ……、ありがとうございます」


 ク・エル天使長様が、着物の袖に手を通して私に聞いてきた。

 遠慮してしまったが、何か飲み物を、その着物に携帯していたのだろうか。

 少し気になった。


 ただ。

 正直、水分もだが……多分、が足りていない。


 ……の事を考えるのは、今はやめておこう。

 私の心、『不安』が、をまだ警戒している。


ー 「マリアを守れるのは、アンタだけなんだからね」 ー


 ブンちゃんの言葉を思い出す。


 何か、得体の知れない恐怖。

 しがみついて離れない違和感。

 先ほどのシ・エル最天使長の不気味な笑い・・・・・・と、意味深な会話が聞こえたせいで、どうして良いかわからない。


 そして、多分だけど。

 目の前にいる二人にも、が伝わっている気がする。


 「……ディア様。少しよろしいですか?……」


 こちらが警戒している事にきっと気づいていながらも、緑色の女天使様の方からゆっくりと歩み近寄ってきた。

 音も無く、スッと私の前に現れたク・エル天使長。


 たたずまいが同性である私が見惚みほれてしまうほどの姿。

 私が着ている物よりも高級そうな着物。

 その上に上等な羽織はおりのように着ている軍服コートが和洋折衷わようせっちゅうのコーディネートを高めている。


 「ク・エルおねえちゃん」


 マリアが突然、天使長様に向かってハイタッチをするかのように、手をあげて挨拶あいさつをした。


 「__っ!? マリア!? 天使長様に失礼よ」

 「……良いのです。ディア様。マリアちゃんには、そう呼んでも良いと伝えております。面識もありますから……」

 「えっ……? そうなの、マリア?」

 「うん! たまにマリアたちのたくじじょのところにきて、おかしとか、たべものをもってきてくれるのー! そのときに、おねえちゃん。ってよんでいいっていわれたの!」


 天使様達が、託児所たくじじょや園児達の為に慈善活動じぜんかつどうをされているのは聞いていたけど。

 まさかマリアが、ク・エル天使長様と直々に親しい中になっていたとは知らなかった。


 「……ありがとうございます。マリアちゃん。覚えていてくれて嬉しいです……」


 マリアに視線を合わせるように座るク・エル天使長様。


 「……ディア様。無礼を承知で確認したいのですが。……貴女にとってマリアちゃん……子供とは何でしょうか……?」

 「え……?」


 唐突に天使様の問答テストが始まった。

 うろたえてしまう。

 少し緊張感のある圧力を感じてしまった。


 私にとって、マリアは……。



 「自分よりも大切な存在であり、夫と私にとって大事な宝物です」



 答えは一つではなく、たくさんあるけど……できるだけ簡潔に答えを出した。

 言葉にすると難しくなる。

 それでも、偽りのない気持ちを言葉にしてみた。


 「……。……」

 「……えっと、あと……神様からの授かり物……でしょうか? 無宗教の私がいうのも可笑しいかもしれませんが」


 目の前の天使長様が求めていた答えではなさそうだったので、天使様が好むような答え方で、恐る恐る答えてみた。

 

 「……大丈夫ですよ、正解なんてありません。あなたにとっての答えを知りたかっただけですから……」

 「あ、はい。そう、なんです、ね」

 「……それに私達の神は慈悲深じひぶかく、無宗教など関係なく貴女にも祝福は届きます……」


 娘の手前上、恥ずかしい。

 良い大人が、間違った答えを出したくないような。

 まるで教師の反応を見ながら苦し紛れに回答する子供のような回答の出し方で恥ずかしかった。


 「……子供は世界にとっても宝物です。子供達は未来を支える大事な存在であり、ないがしろにして良い存在ではありません……」


 先ほどまでの緊張した圧ではない。

 少しだけ彼女の周りの空気が優しく変わった気がする。

 

 「……私が天使になった理由。使命は、世界中の子供達と、子供を大事にする貴女のような親が幸せに暮らせるように努めることです……」


 汚職にまみれた、口先だけの国の権力者達が嫌われ。

 教会の天使様達が、あがめめられている理由が分かった気がする。


 天使様の崇高なる使命を聞き、無宗教である私でも尊敬の念を抱いてしまう。

 仮面の下の表情はわからなくても、凛々しさを感じる。

 

 「……そして、ディア様。私からお願いがあります……」

 「えっ……?」


 そう言いながら、ク・エル天使長様は、自分の付けていた仮面を外した。


 「わぁ、ク・エルおねえちゃん。びじんさんだー!」

 「……お褒めいただきありがとうございます。マリアちゃん……」

 「えっ? えっ?」


 仮面の下。

 美しい青と緑のオッドアイの瞳をした、美しい女性の素顔が見えた。


 マリアと同意見だけど、今はそれよりも驚き、頭がこんがらがる。

 仮面を外した・・・・・

 私に?

 マリアに?

 何故?


 「おやおや、ク・エル。民に素顔を晒す・・・・・・・のは、良くないんじゃなかったっけ?」

 「……シ・エル様……」

 「……あ、うん。すまん。余が悪かった。どうぞ話を続けてもらって。怒り・・ではなく、その呆れ・・は好きではない」


 シ・エル最天使長様のヤジが気に入らなかったのか。

 後ろにいるシ・エル天使長様の方を向いて答えていた。


 こちらからは見えないが。

 聞く限り、呆れた顔をされたのであろう。

 彼女に対して謝るシ・エル最天使長様が、意外だった。

 多分、部下と上司だとは思うのだけど……どういう上下関係なのだろうか。


 「……ユーサ・フォレストから、お願いされた事がありました……」


 ドクン。


 突然。

 夫の名前が出て、心臓がはねた気がする。


 「夫が……お願い? 夫の遺言は、無かったと聞いていましたが……」

 「……はい。遺言というよりは……個人的に知ったのもありますが……」

 「個人的に……知った? ですか?」

 「……はい。貴女とマリアちゃんが、幸せに過ごせる・・・・・・・よう。と……」


 そう言いながら、ク・エル天使長様は、着物の帯から見覚えのある手帳を私に差し出した。 


 「これは……」

 「あ! パパのてちょーだ!! いっぱいもじがかいてるー!」


 夫の手帳だ。

 受け取って、中を確認してみた。


 

________________________


 〇月×日

 今日、ディアが僕達の子供を産んでくれた。

 名前は『マリア』

 ディアが名付けてくれた素敵な名前だ。

 ……運命を感じた。

 この日から、忘れない為に記録を残していこうと思う。

 家族との大事な思い出を。


________________________



 マリアが産まれた日の事だ。

 何かを書いていたのは知っていたけど……夫は日記をつけていたのだ。

 それも、毎日。

 ページをめくると、マリアの些細な成長や、私との思い出がたくさん書かれていた。


 ある日は

 マリアが初めて歩いた日、初めて言葉を発した日の事。


 ある時は

 マリアの好きな物。嫌いな物。

 託児所のご飯と、自分の作るご飯の味付けの違いで食べれる物、食べれない物のメモ。


 そして

 マリアの育児で困った時の解決策。

 仕事で帰れない日が続いた時は、マリアから一日何があったのかを共有した内容。


 たくさんの事がしるされていた。


 そして……。



________________________


 〇月×日

 今日は、マリアの四歳の誕生日。

 食べたいと言っていた、ご飯とデザートを無事全部食べてくれた。

 欲しがっていた十字架のペンダントも作ってみたが、喜んでくれて嬉しかった。

 練習した成果が、表れて良かった。


 マリアと明日の夜、遊ぶ約束をした。

 必ず無事帰ってくるように、念入りに秘術道具の確認をしよう。

 

 ディア。

 マリアを四年前に産んでくれてありがとう

 誰よりも愛してる。


 いつまでも、家族が幸せでいられるように

 僕は、この日も、絶対に忘れない。


________________________


 

 手帳はここで終わっていた。


 最後のページには、夫と過ごした最後の日。

 マリアの誕生日の日記。

 

 夫が願った幸せが、最後に書かれてた。

 

 「ママぁ……」


 気づけば涙で、目の前が見えなくなっていた。

 その涙をマリアが、私の頬を触り拭ってくれた。

 私の頭を、撫でて励ましてくれていた。


 泣きじゃくる私が、娘で。

 それを慰めようとする娘が、まるで母親のようだった。


 「泣かないで……ママァ……」


 自分が情けなく感じた。

 でも、手帳から夫の心に触れた事と、娘の優しさに触れた事で 

 より一層強く、娘を愛おしく思い、娘を守らなければならない。とも感じた……。


 「大丈夫……ありがとう。マリア……」


 ……ただマリアを抱きしめた。

 絶対に、夫の代わりに、マリアだけは守るんだ……。


 「……ディア様。私ではユーサ・フォレストの代わりにはなれませんが。必ず……私がお二人をお守りいたします……」

 「……え?」

 

 マリアを抱きしめながら、自分に誓いを立てていた私に。

 突然、目の前の天使長様が私達に申し出た。


 「……例えそれが……私の神に背く事・・・・・であろうと……。必ず、お守りいたします……」


 左手に持った、天使が素顔を隠すための仮面を見た後。

 こちらを真っ直ぐ見て、彼女はそう答えた。


 「おやおや。ク・エル。余の前で神に背くそんな事を申しても良いとでも思っているのか?」

 「……ディア様が、シ・エル様を信用できない様子でしたので、せめて私だけでも信じていただけるように、お願いをしております……」


 __真剣な話をしているのに、話の腰を折らないでもらっていいですか?


 ……と聞こえそうな口調で、ク・エル天使長様がチラッと、上司の方を見て答えた。


 「え。余そんな目で見られていたの? 何がいけなかったのだ?」

 「……ディア様。どうか、こんな人の心が分からない最天使長様の事は置いておいて、私の事だけでも信じていただければ幸いです……」

 「え、あれ。ク・エル。一応、余は、君の上司なんだけど?」

 「……。……」


 ク・エル天使長様が、冷たい目で上司の方を黙って見ていた。

 いや、睨んでいた。


 「わかった。もう黙っておくよ。周囲を警戒しておくよ」


 シ・エル最天使長様が、土星型の鈴を持って何かを探そうとする仕草をしていた。


 「どうして……ですか?」

 「……ディア様。どうして……とは? 私では不服でしょうか……?」

 「あ、いやそうではなくて。どうして……天使長様達が私達にそこまでしてくださるのでしょうか?」

 「……それは……」


 私が理由を尋ねると、私の涙に釣られたのか。

 ク・エル天使長様の凛々しい顔が、今にも泣きだしそうな顔になった。


 「……ディア様、マリアちゃん。お二人に謝らなければならない事があります……」


 そう言いながら、ク・エル天使長様は私達に頭を下げた。


 「謝らなければならない事……ですか?」

 「……はい。シ・エル様だけではなく、私もユーサ・フォレストの近くにいたのですが……、私にはどうする事もできず、彼を守る・・・・事ができませんでした」

 「ク・エル天使長様も……夫の近くに……いたのですか?」

 「……はい……」


 この人も、夫が亡くなる時に側にいたんだ。

 そうなると、聞くべきことがある……。


 「事情はわかりました。ただ、よろしければ教えていただけませんか? 夫に何があったのか。本当の事を教えていただければ、私もお二人を信じます」

 「……それは……」


 私の言葉に、彼女はゆっくりと顔を上げた。

 何か答えようとするが、視線を私から何度か逸らそうとするク・エル天使長様。




 しかし、そこへ……。





 「「「「AAAAAAA--------!!!!!」」」」





 悪魔の叫び声が、大量に聞こえた。


 「__っ!? 何!!?」


 しかも、四方八方。

 三百六十度。

 私達が中心点としたら、悪魔が円を描くように大量に表れていた。


 ……え!? 


 ここは、安全地帯って言ってなかったっけ?


 

 「「「「AAKUUUUUU--------!!!!!」」」」



 大量の悪魔が、私達の頭上がから襲い掛かってきた。


 「ママッ!!!」

 「__っ!!?」


 突然の恐怖に、マリアを抱きしめる力が強くなった。



 「……安全地域にここまで、大量の悪魔が現れるとは、本格的に街が危険になってますね……」



 そう言いながらク・エル天使長様は立ち上がり、私達を守るように背を向けた。


 そして、どこからかL字型エルじがたの武器を二つ取り出し、両手で二つの武器を、くるくると起用に回転させた。


 あれは、確か……。


 「トンファー?」


 夫の持っていた武器の本で見たことがある。

 攻防を同時にできる武器として扱う、格闘型の武器だった……筈。


 「……ディア様、よく知っておられますね、でも私の武器の本領発揮はここから……」


 そう言いながら、ク・エル天使長様は二つのトンファーをつなぎ合わせて変形させた。


 「……悪魔を喰らい尽くしなさい。暴食の大鎌ベルゼブブ……」


 ガキンッ! ジャキンッ!!


 二つの武器が金属音を出しながら、つなぎ合う音を出した。


 L字型エルじがたの取っ手が付いた長い棒状に変化したところで、棒の先端から大きな刃が現れた。


 大鎌。


 二つのトンファーがL字型エルじがたの取っ手が付いた、武装用大鎌に変形した。


 大鎌の刃には禍々まがまがしい『はえ』の彫刻ちょうこくがされていた。


 そして刃は、マリアの身長……いや、私の身長を超えるほどの長さだった。


 とても危険な武器だと感じた。


 彼女は、その凶器を曲芸のように、両腕、首、腰、肩にくるくると回し……。



 「「「AAっ__!!?」」

 「「「GYUAAAーーーっ!!」」」



 目には見えない高速の刃が、近寄った数十近くの悪魔達を一瞬で切り刻み、灰にした。



 「ク・エル。やむを得ない。まだ再利用の時間ではないが、余は転移術の準備をする。それまで悪魔をよろしく頼む」

 「……はい、承知しました。シ・エル様……」


 ザシュ!!


 「AAAAA---!!!」


 ク・エル天使長様が、三百六十度中の六十度程度の悪魔を大鎌で、一瞬で薙ぎ払った後、私達を守るように背中を向けて、残った悪魔が近づかないように戦闘態勢に入った。


 そして……


 ー カラーン ー



 シ・エル最天使長様が、腰につけていた大きな土星型の鈴を手に取り、鈴を鳴らした。


 「 ≪『時』を同じくして、いろどられた、窓の向こうへ≫ 」


 ー カラーン ー


 「 ≪ 【神の奇跡エル・ラーク】 ≫」


 ー カラーン ー


 「 ≪ 【虹色の転移窓ヴィヴィッド・カラーズ】 ≫」


 シ・エル天使長が、神の奇跡を唱え、『虹色の窓』を出現させた。


 「__っぐ!!? さぁ、ディアさん。マリアちゃん。早く……中へ!! 時間がない!!」


 胸を押さえながら苦しむシ・エル天使長様に呼ばれた。


 「えっ!? シ・エル最天使長様!? 大丈夫ですか!!?」

 「余の事は……お気遣いなくだ……ディアさん。安全地帯まで危険な場所になっているのであれば、早くこの『窓』を通って、此処よりは安全な場所へ」

 「……えっ!? で、でも……」


  『虹色の窓』の前で、シ・エル天使長様が苦しむ姿を見て、自分達だけが逃げて良いのか、後ろめたさも含め、不安になり戸惑ってしまった。


 「大丈夫。……余に対する気遣いは無用だ。寧ろ……早く……っ!!?」

 「てんしちょうさま! だいじょうぶ!!! しんじゃいやだよ!!」


  腕の中のマリアが、苦しそうにする天使長様を気遣う。

 

 「ありがとう、マリアちゃん。……ここだけの話にして欲しいのだが、余は……奇跡の力の代償として……心臓の『時』が止まる事があるのだ」


 仮面の上からでも、苦しそうに見える。

 心臓の時が止まる……。

 そんな……代償を受けながら私達を……。


 「__あっ。マリアちゃん。君のその十字架は……ユーサが作った物だね?」

 「うん。そうだよ。おたんじょうびにもらったパパとくせいなの!!」

 「良ければ……それにおまじないをかけても良いかな?」

 「え! てんしちょうさまが!? いいよー!!」


 マリアが胸の十字架のチェーンを見せて答えた。


 「なるほど……。気休めかもしれないが……コレを付与エンチャントしておくよ」


 シ・エル最天使長様が『黒色の宝石』を取り出し、十字架の真ん中に宝石をくっつけた。

 すると、十字架が一瞬、光輝いた。


 「これは……?」

 「これはね『黒曜石こくようせき』。『じゃはらう。じゃから身を守る』とされているんだ。君のお父さんがよく使っていた宝石と同じ物だよ」

 「パパが?」

 「そう……、天使である余の加護と、君のお父さんの加護がついている。……余の神と、君のお父さんが守ってくれると信じてほしい」

 「うん……わかった。ありがとう! てんしちょうさま!!」


 確か、天使様が付与する加護は貴重な力も使う為、かなり高額な寄付金が必要って聞いたけど……。


 「__っぐ!!」

 「シ・エル最天使長様!!」

 「ははは、お代は結構だよ、ディアさん。……そんな顔をしなくても良い。これは余からの信用代と思って欲しい……。気休めかもしれないがね」

 「……はい。ありがとうございます」


 ここまで、してくれたのだ。

 信用しないのは、相手に失礼だ。

 疑っていた自分が恥ずかしい。


 「……ディア様、できれば私も、守りながらでは全力が出せない為、準備ができましたらお声を……」


 ク・エル天使長様が、こちらの方を向かずに声をかけてきた。


 悪魔達と、目線をそらさず、警戒を怠らず大鎌を構えている。


 「わかりました。この『虹色の窓』に入ればよろしいのですね?」

 「そう。……そのままマリアちゃんをしっかりと抱きかかえたまま入れば……に着いていると思う……お早く」


 頷き、『虹色の窓』の前に立った。


 「マリア。だいじょうぶ?」

 「うん! マリアもうこわくないよ! いこう!!」

 「では……お二人共、失礼します!!」


 マリアをしっかりと抱きかかえたまま、『虹色の窓』に飛び込んだ。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。




 『虹色の窓』に入って。


 大波に飲み込まれた船の中にいるような感覚に数秒間包まれた。


 マリアを離さないように抱きしめる力を強くした。



 シュン。



 目を開けると、先ほどまでいた場所とは違う場所にいた。


 ここは……。



 教会の近くにある、避難所の近くで……。


 「……墓場?」


 無数の西洋風墓標が並んだ、墓場にいた。



 そして……。


 「__っ!!? オトキミ様!! あそこ!!」

 「あの人は……ユーサのアニキの奥さん……ディアさん!!?」

 「な、ん、で(ここに?)」


 少し遠く離れた場所から声がした。

 あの人達は……。

 夫の仕事仲間の……確か……。


 「オトキミ君!? アユラ君!? ガケマル君!?」


 声に出して名前を思い出す。

 


 「ディアさん!! 逃げてーーー!!!!!」



 遠くにいる、オトキミ君が大きな声を出した。


 逃げる? なんで?



 「「「AAA-ーKKU?」」」

 「ンンン? ナンダ?? 女ト、子供??」



 オトキミ君たち以外の声に気づいた。



 そこには……。


 数十以上の悪魔と。


 言語を話す巨大な『階位悪魔アーク・デーモン』がいた。


 

 先程より、百から数十の悪魔に減っていますけども。



 「……さっきより、?」

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