1-9.幕間 ~街中での救世主達 ユーサの遺志を継ぐ者達~



 ユーサの住む地域で都市の中枢を担う場所、中心都市(セントラル)。

 和風の街には不釣り合いな、西洋風の巨大な教会がある。


     



 避難警報が、教会から街中に向けて響き渡る。



    



 『結界石』__ダイヤモンドよりも硬く、簡単に壊す事はできない数十メートルはある巨大な結晶石(クリスタル)。



    



 教会の信徒達の日々の祈りが『結界石』を通して神に届き『加護』を得る。

 その『加護』は、悪魔や魔物達が『結界石』の半径数十キロメートルは近寄る事ができない程の効果を持つとされている。

 『結界石』のお陰で、人々は平穏に暮らしていた。



 ……しかし。



        



 「いやああああぁぁあぁーーーー!!!! 助けてええぇぇーー!!」

 「どうしてここに悪魔が!!? 教会は何をしてるんだ!!?」

 「死にたくない!! 死にたくない!! 誰かあ!! だ……ああぁぁー!!」



 『結界石』が『破壊』されたことにより__人々の平穏は崩れた。



 都市内に大量の悪魔が侵入し、市民の断末魔だんまつまが響きわたる。

 悪魔が、魔物の群れを引き連れ、人々を襲い始めた。

 殺戮さつりく惨劇さんげきを繰り返し、街は混沌こんとんと化した。


 悪魔__黒いオーラを纏(まと)い、人々の内臓と魂を喰(くら)う存在。

 身体と精神を破壊して生きたまま地獄の苦しみを味あわせる怪物。



 そして、悪魔は通常の物理攻撃・・・・・・・では死なない。

 【特殊な力】でしか祓う事ができない。

 【特殊な力】が無い人間に取って、悪魔は絶対的な恐怖。

 悪魔に出会う事は……『死』を表す。


 その為、市民を守るのは……【特殊な力】を持つ、教会の選ばれた天使や一部の信徒、ギルドの戦闘員達である。


 「現在、教会の『結界石』の修復に、多くの信徒達が祈りを捧げている。それまで手の空いた者は『小結界石』のある避難所まで市民を誘導してくれ!!」


 「しかし、避難所の『小結界石』がある加護の範囲に悪魔達が侵入して、加護を乗り越えようとしている!! 何故だ!!?」


 「神の加護に耐性がある上級悪魔がいるのかもしれん!! そいつを倒せば悪魔達も諦める筈だ!! やむを得ない。【秘術アーク】を持つ戦闘員の手も借りなくては……。 伝令は、ギルドに緊急クエストの要請を!!」



 教会内で、上層部の信徒達が連携して、市民を悪魔達から解放しようと試みている。


 一分、一秒を争う緊張と不安が続いた。




。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。




 そして……。


 教会の信徒達が市民を誘導している避難所ひなんじょ


 教会の近くにあり、そこには数百人分の西洋墓標せいようぼひょうが建てられている。

 幾人いくにんもの魂が安らかに眠る場所。


 しかし、現在。

 そこは、教会の信徒しんとと、悪魔の戦場と化していた。



 「悪魔達をこれ以上避難所に近づけさせるな!!」

 「一人では街灯レベルの光の【奇跡ミ・ラーク】でも、数人並んで放てば威力が出る!! 聖なる光を唱えられる者は並べ!! 【奇跡ミ・ラーク】を詠唱するぞ!!」


        


 数名の信徒達が悪魔達と対峙し、前に出て呪文を唱える。


        



 「「「 AAAAーーーKKKKUUUUーーー!!! 」」」


 数名の修道服しゅうどうふくを着た信徒達が持っていた十字架。

 その十字架に埋め込まれた宝石からソーラービームのような光が放たれる。

 連携を取り、協力し合い、悪魔達を祓う。


 しかし……はらっても、はらっても。


 「何故こいつ等は加護の範囲内に入ってこれるんだ!!?」

 「いったい、コイツらはどこから現れるんだ!! キリがないぞ!!」


 下級悪魔の群れが何処からともなく、墓場に現れる。

 終わりの見えない戦闘が続く中。

 【特殊な力】である戦闘用の【奇跡ミ・ラーク】を持った信徒達が消耗したところで、形勢が逆転する。


 「「「 AAAAAAーー!!! 」」」

 「「「 ぐあああぁぁぁーー!!! 」」」


 悪魔達が、信徒達の隙をつき一斉に襲いかかった。

 信徒達は、次々と命を落とした。



 「「「AAAAーKAッKAッKAッKAッKA!!!」」


 ___残る邪魔者は、あと少し!!

 ……と聞こえてきそうな、悪魔達の下卑た笑い声が広がる。

 勝利に満ちた雄叫びだった。

 その奇声に、瀕死の状態で倒れた信徒達が死を覚悟して、絶望する。


 しかし……。



 《  ー 〇 呪文(スペル) ●秘術(アーク) ◎召喚(ゲート) ー  》


 そこへ……一人の修道服を着た少年が悪魔の方へ走り駆け寄る。


 《  ー ネコ忍者!! ー  》


 少年が、腰につけていた瓢箪(ひょうたん)を口先につけながら呪文を唱えると、瓢箪から白い煙が現れて、煙が忍び装束しょうぞくを着た大きなネコの形に具現化する。


 「やれ!! 三毛蔵(みけぞう)!! みだれひっかきだ!! 」

 「フシャー!!!!」


 白いオーラをまとった、忍び装束を着たネコが、大きな声で威嚇しながら鋭い爪を立てて襲い掛かる。


 「ニャニャニャニャニャー!!!」

 「「「 AAA!?!? KUUAA--!! 」」」


 突如現れたネコの攻撃に驚き、避ける事もできず、悪魔達の体に『白い傷痕』が浮かぶ。


 「アユラ!! ガケマル!! 出番だ!! 傷痕の箇所を狙え!!  悪魔達が三毛蔵(みけぞう)に意識が向いている今にうちに!!」

 「オトキミ様! 承知!! 狙い打ちます!! 」

 「ま、か、せ、ろ」


 オトキミと呼ばれた修道服を着た少年の後ろから二名。

 弓矢を持つ陰陽師の格好をした美青年アユラ。

 太鼓を叩く太めのバチを持った片言のマッチョ忍者ガケマル。


 その二名が次々と悪魔の『白い傷痕』を弓で射抜き、バチで叩くことで悪魔達は絶命し、灰となっていった。

 それを、ひたすら繰り返して、数分が経過した。


 「う……嘘だろう……あの少年は確か……【奇跡ミ・ラーク】を授からず教会から追放された、領主ズー家(け)の落ちこぼれじゃないか?」

 「私達、信徒よりも……悪魔討伐数を、上回っている……!?」


 先程まで、信徒達の死者が数名出るほどの死闘だった。

 しかし、後から現れた少年達の悪魔を倒した数は、あっという間に信徒達の討伐数を上回った。


 「おいおいおいおい!! 教会の信徒諸君!! 本業である君達が、ギルドの落ちこぼれ修道者に負けてんじゃないぞーーー!! 立てーーー!! 悔しくフニャフニャフニャフニャ」

 「オトキミ様。興奮して最後何言っているのか、わかんないですよ」

 「お、ち、つ、い、て」


 先程まで死期を悟り戦意を喪失していた信徒達の視線が、オトキミと呼ばれた少年に集まる。


 オトキミと呼ばれた頭巾ずきんのウィンプルをかぶった、瞳が見えないほどの薄黄色の長い前髪をした少年。

 修道服と着物が混ざり合わさったような和服。

 百六十センチ程の小柄な身長の教会のシスターのような恰好をしている。


 「落ちこぼれ!? あの少年は、希少な獣召喚秘術士ビーストサモン・アーカーではないかっ!? 教会からギルドの荒くれ者に落ちこぼれた奴が、何故!??」

 

 「なんだなんだ!? 教会側(おまえら)が呼んだんだろうがよ!! 普段ギルドを下に見てて、都合の良い時だけ猫の手でも借りたくなりやがって!! 猫(みけぞう)の手の方が、教会側(おまえら)より役に立ってるぞ!! どうしたどうした!!」


 両腕を組み、大きな態度で信徒達を見下ろし叫ぶ少年。オトキミ。

 召喚した忍者の猫が、悪魔のヘイト稼ぎを終えて、オトキミの肩に乗るように戻ってきた。

 忍者の猫も、オトキミの肩で器用にも二足歩行で立ち、飼い主の真似をしていた。


 「落ちこぼれて腐っていた俺は、ユーサのアニキ・・・・・・・に救われた……。信じていた教会の神ですら、救ってくれなかった俺を!」


 オトキミが何処からか、おはらい棒を取り出し悪魔達に向ける。


 「だから今、俺にできる事は! ユーサのアニキ・・・・・・・の代わりに市民を守る! アニキがいなくても! 意志を継いで! 強くなると誓ったんだ!!」 


 お祓い棒の紙垂しでが、稲妻いなづまのようにジグザグに揺れる。


 「だから信徒達よ!! 諦めるな!! 生きろ!! そして!! 戦え!! 教会側(おまえら)が死んだら誰が市民を守るんだ!!?」


 オトキミの鼓舞こぶに震えたのか、諦めて倒れていた信徒達が顔を上げる。


 「オトキミ様。流石です。実際に戦っているのは召喚猫みけぞうと俺達なのに」

 「え、ら、そ、う(偉そう)」

 「偉そうで何が悪い! 軍師や司令塔が強い必要はない! 自分を強くするのではなく、周りを強くするのも、また強さ! ステータスなのだ!!」

 「オトキミ様。その言葉も自分のではなく、ユーサのアニキ・・・・・・・のセリフですよね?」

 「パ、ク、リ(真似)」

 「うるさい!! 偉大な人の言葉はなぁ! 語り継がれるものなのにゃんフニャフニャ」


 悪魔達を前に、あーだ、こーだと緊張感のない会話を続ける三人。

 悪魔達が三人に気を取られている中、信徒達は気を取り直したのか。


 (倒れている自分達が、こんなふざけた連中に__負けているのか?)


 ……と負けじと立ち上がる信徒が増えてきた。


 「オトキミ様……。墓場の方に強い魔力反応があります。俺達は、そっちに行った方が良いかもです……」

 「お。本当か、アユラ。もう、避難所の悪魔は、三毛蔵が傷をつけている残り僅かの下級ばかりだし……どうしよう……」

 「ま、か、せ、る」


 ボディービルダーのような男らしい腕をしたガケマルが、立ち上がった教会の信徒達を指さした。


 「なるほど。そうか! おい、教会側(おまえら)!! 立ち上がったなら、ココは任せるぞ!! 【奇跡ミ・ラーク】の力が尽きても『白い傷跡』を叩けば、悪魔を倒せるからな! じゃあな!!」

 「__っ!!? おい! 小僧共!! 止めておけ!! そっちは今……!!」


 何かを言いかけた一人の信徒を無視して、オトキミ達は教会の信徒達に残りの下級悪魔の処理を任せ、別の場所へ急いで移動した。


。。。。。。。。。。。。。。。



 三人が走る事、数分が経過した。


 「アユラ。魔力の反応が高くなっている場所っていうのはどこだ?」


 魔力探知をしながら、先頭を走るアユラに向かってオトキミが確認をする。


 「オトキミ様。多分……こっちは……避難所の近くの奥。 墓場……? ……の……奥?」

 「な、ん、で、? (そ、ん、な、ト、コ、に?)」

 「わからない……。とにかく行ってみよう。もの凄い魔力反応だ……」


 先頭を走るアユラと並走するように並ぶ三人。


 「どのぐらいのレベルなんだ。アユラ? ……ん?」

 「ど、う、し、た、?」


 横から顔を覗き込むオトキミ。

 質問に対して返答がない、様子のおかしいアユラ。


 オトキミの質問から1分以上の沈黙が続き、アユラが答えた。


 「オトキミ様。詳しくは、わからないですが……、コレは……今まで見たこともない。感じたこともない魔力です……」


 口にする事も恐ろしいのか、声が震えている。冷や汗も出ている。

 帰ったら叱られるかもしれない。

 ……とおびえて、家に帰りたくない子供のように足取りが遅くなるアユラ。


 「もしかしたら……ユーサのアニキを……」


 __その時だった。


 「あああああぁぁぁーーーー!!!!!」


 オトキミ達の前方。

 遠くの方から大きな声と、何か大きな物体が三人を通り抜ける強風を感じた。


 そして……。



 グシャッ!!



 通り過ぎた物体が、三人の後方で、実(み)がたっぷりと入った果実が潰されたような音を立てた。



 そして、前方の数百メートル先。

 四メートル以上の巨大な悪魔が現れ、奥にいる数人の信徒達を次々と惨殺していった。


 「__っ!? ぶ、き、の、か、ず!」

 「おいおいおい、あの悪魔、腕が四つあるぞ! あれではフニャフニャ」

 「オトキミ様、落ち着いてください。あれでは……接近されたら、攻撃を防げない……。しかも……動きが速い!!」


 大きな悪魔の攻撃を避けようとした信徒が、大きな槌(つち)により果実のように潰された。

 潰されただけではない。

 別の信徒は、頭を真っ二つに切り裂かれた。

 また別の信徒は、体を切り刻まれた。

 心臓を貫かれた者もいた。

 大きな悪魔の四つの腕には、武器がそれぞれ四つ。


 大きな剣、槍、斧、槌。

 その四つの武器が、血で真っ赤な色の武器に変わった。


 「で、か、い」

 「おいおい、噓でしょ。嘘でしょ。アレって、上級悪魔より強そうな、もっと上の……ふにゃふにゃふにゃ」

 「オトキミ様。ユーサのアニキを、倒したかもしれない……という魔力反応。噂の階位悪魔アーク・デーモン。……かもしれません」


 アユラの言葉に、全員が同時に動きを止めた。


 「だ……だからって! ここで逃げていられるかよ!!」


 固まった三人の内。

 __リーダーである自分が動かなくては!!

 っと思ったのか、一目散に大きな悪魔へとオトキミは立ち向かった。


 「AAAAAAAーーーーーー!!!!!」


 数分後、そこには瀕死状態のオトキミ達が、絶体絶命のピンチを迎えていた。

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