1-5.彼女の名前は……ジャンヌ・Ⅾ・アーク

 

 「どこで……選択を間違えたのだろう……」


 間違いは、悪であり。

 失敗してしまったら、全てが終わりなのか?


 「死んでしまったのは……僕が悪魔だったから……?」


 気付かないは、罪であり。

 知らなかった……は、許されない事なのか?


 「僕は……何のために……生まれ変わったんだ……」


 暗闇の中。

 自分を……ただ責める事しかできなかった。


 「前世の僕は……『徳』を積んで無かったと……思うけど」


 やり直したい・・・・・・


 ……と思う事は、いけない事だったというのか……?



 「僕を……もう一度……光の……元へ……」



 そう言いながら、暗闇の中で呟いた。



 ……。


 ……ん?



 「なんで、声が出せるんだ……?」 

 


 真っ暗。

 何も無い。動くこともできない暗闇。

 しかし、口を動かすことができ、声が出せる空間にいた。


 「……典安の時も……こんな感じだったような……」


 自分が存在しているのか、実態があるのかわからないような状態。

 まるで、宇宙空間に放りだされたらこんな感じなのだろうか? というイメージの中にいるみたいだ。


 「そういえば……どうやって、典安・・からユーサ・・・になったんだっけ?」


 シ・エルが言っていた。

 僕の異世界の体であるユーサ・フォレストは、人間の姿をした特殊な悪魔・・・・・だった。


 そして、十五歳までのユーサ・フォレストの事を、詳しく知らずに生きていた。


 そもそも、どうやってユーサになったのか、覚えていない・・・・・・


 覚えているのは。

 目が覚めたら十六歳の少年ユーサになっていて。

 【異世界】に【転生】していた事だけだ。


 「何か……大事な事を忘れているような……ん?」

 

 そう考えている中で、暗闇の奥で光る何かを見つけた。

 すると、その光はこちらに少しずつ近づいてきた。


 「な……なんだ!!?」


 暗闇の中で、かすかにだが。


 ぼやけた何か、【白く光る文字】が見えた。



 ー あなたには 生き返ってもらいます ー



 「……っえ?」


 そう驚きを口にした次の瞬間。



   ○  ●  ○  ◎  ○  ●  ○



 「なんて……綺麗な……【月虹】?」


 最初に目に入ったのは。

 夜空に輝く銀色の大きな【月】と、その月明かりから生まれた【月虹】だった。


 そして、大地には緑と彩りの花が並んだ花園。

 __楽園。

 という言葉がピッタリな場所。

 開いた口が数秒間塞がらず、目を奪われていた。



 「おやおやユーサよ。死んでしまうとは何事か!?」

 「__えっ!? 死?」

 


 景色に見惚れていると、後ろの方から声がした。


 日本の有名なJRPGで聞いた事があるフレーズ。

 勇者がゲームオーバーになり、拠点である城から再スタートをする時に王様から言われるヤツだ。


 しかし、僕は勇者ではない。ユーサだ。


 そんな事を考えながら、驚き振り向いた。


 そこには……神々しく光輝く。

 美しい天女がいた。


 「突然の質問で悪いが……」


 その天女が、微笑みながら、口を開いた。


 「わたしを、覚えているか?」

 「……え?」


 目の前にいる、天女のような女性。

 すべて銀色に統一された髪の毛、瞳の色、服装。

 直感で、同じ人間ではないと感じるほどの美しさ。

 まるで、作られた最高級品の綺麗なお人形の様な、神秘的な存在だ。


 そのせいか。

 『わたしを、覚えているか?』

 なんて、古臭い感じのナンパ言葉がとても似合わない。と感じた。

 その上。


 「あぁ〜〜……」


 __全く記憶にない。

 

 相手は覚えていて、自分は全く覚えていない。

 まるで、久しぶりに会った同級生と出会い、話しかけられた時と同じような気まずさが漂った。

 まぁ、僕にこんな綺麗な同級生どころか、友達すらいなかったけど。


 「えっ〜〜とぉ〜〜……」


 そもそも、これだけ見た目がビックリするほどの存在を忘れるのか?

 印象に残りそうだが……。

 

 「はぁ……」

 

 目の前の美人から、酷くがっかりとしたため息をつかれた。

 相手の顔を覚えるのは得意な方なのだが、覚えてなくてごめんなさい。


 「まぁ、良い。気を取り直して……」


 そう言いながら、こちらを真剣な眼差しで見てくる天女さん。


 「私の名前は、ジャンヌ・D・アーク。神様だ」

 「……え?」


 神様。


 そんな言葉を聞いて驚き思考が停止してしまった。


 __ん?


 神様が、僕に、覚えているか・・・・・・? って、どういう事だ?


 「一応、改めて聞こう。君の名は?」

 「えっ? あ……ユーサ。……ユーサ・フォレストです。配達と護衛のギルド『オトムティース』で働いている一児の父親です」


 咄嗟に質問されて答えたが……改めて・・・


 「ようこそ、ユーサ・フォレスト。ここはエデン。所謂いわゆる、死後の世界。つまり君は死んで、あの世にいるって事になる」


 あ、此処・・、あの世なんだ。

 という事は、やはり僕はシ・エル達に殺されたのか……。


 「ユーサ・フォレスト。現在、死んでしまった君に、突然だが……」


 そう言いながら、ジャンヌという目の前の自称女神様は、こちらに手を差し伸べてきた。


 「下界に戻りたいか?」

 「……え?」


 ん? 下界?


 「言い方を変えよう。家族に会いたくはないか?」

 「それは……会いたいです」

 「よし。では目的が決まった。という事で本題に入ろう」


 目的? 本題? 何の話をしてるんだ?


 「何事にも目的を決めてから行動をしなければ、本題に入りにくく結果というのはにくいものなのだよユーサ・フォレスト」

 「はぁ……」


 何かよくわからんが、一方的に話が進む。

 質問を許さない空気。

 唐突に本題とやらが始まった。


 「本題というのは、君に生き返ってもらう事だ」

 「……え?」

 「ただし!!」


 ……ただし?


 「わたしの……つまり神の使命。召命コーリングを受けてもらう」

 

 召命コーリング


 「神のおし、とかいう……神様のお願い、試練みたいなヤツですか?」

 「そう。それだ。つまり、条件みたいなのものだ。それを七つ・・受けてもらう」


 ん? ん?


 「……え? 七つ・・も? ですか?」

 「因みに、始めたら引き返せない。一つでも守れなかったら、君には死んでもらう・・・・・・


 ん? ん? ん? 物騒な言葉が出てきたぞ。 


 「え? 死? ……まだ内容を聞いてないですけど、なんか怖いです。その召命コーリングっていうやつの辞退は……」

 「何を言っているんだ君は?」


 僕の言葉に、神様は「呆れたよ。君には」といった態度で口を開く。

 さっきまでの神秘的なイメージから、急に面倒くさい客を相手にする定員さんみたいな横暴な態度になる神様。


 「君、無宗教だろ? 無宗教の人間が、無条件で生き返れるような虫の良い話がどこにある? 七つの条件を守れば、生き返えって、家族に会えるんだぞ? 安いもんだと思わないか?」

 「まぁ、確かにそうですが……引き返せない、できないなら死んでもらう・・・・・・。っていうがちょっと……」

 「なんだ? 例えるなら、条件付きだが無利子無担保で何億ものお金を貸してくれる銀行ぐらい好条件だぞ? そんな銀行、もとい、願いを叶えてくれる人がいると思うのか?」

 「ちょ、ちょ、近い。近いです。なんですか急に」

 

 早口厄介やっかいオタクみたいな饒舌じょうぜつでコチラに近づいてくる神様。

 近くで見ると本当に目を奪われそうになる程の整い過ぎた綺麗な顔だが、目が凄く血走ってて怖い。圧が強くて、怖い。


 そして、後半の銀行に例えているのはなんだそれ? って感じだが、神様が言ってる事はなんとなく分かる。


 この世界では、教会に入団し、神の試練をクリアできれば、生き返ったり、天使になり不老不死なるとか、噂を聞いた事がある。


 神様は近付いてくる事を指摘されてか、少し距離を離し、冷静な態度で、今度は優しく問いかけてきた。


 「もう一度だけ問うぞ、ユーサ・フォレスト。家族に会いたくないのか? 妻を幸せにするんじゃなかったのか? 娘の成長をもっと間近でみたいと思わないのか?」


 妻の幸せ。

 娘の成長。

 ……そう言われると、弱い。


 ー 生まれ変わっても、幸せにする。 ー


 いつの日か、【月虹】に誓いを立てた日を思い出す。


 「わかりました。妻と娘に会えるなら。……あの、、その条件……その召命コーリングとやらの内容を聞いても良いですか?」


 そもそも、その条件が可能なのか、不可能なのか、次第ではある。聞くだけ聞いてみよう。


 「分かった。では召命コーリングを始めようか」


 神様は腕を広げて、目を閉じ、何かの儀式みたいな事を始めた。


 「 ≪ 神秘術D・アーク  ー 七つの召命セブン・コーリング ー ≫ 」

 

 神様は呪文を唱え、銀色に光り始めた。

 そして、両腕の間に何か大きな物体が現れた。


 「大きな……巾着きんちゃく?」


 神様の両手に、大きな巾着袋きんちゃくぶくろが現れた。


 そして、『神 降 臨かみ こう りん』と書かれていた。


 ダジャレ?


 「復活の呪文を始める。最初に結論を伝え、順番に説明していくぞ」

 

 大きな巾着袋が銀色に輝き始め、縛っていた紐が勝手に解かれた。

 神様が開いた巾着袋の口の中に手を入れて、呪文を唱え始めた。



   ○  ●  ○  ◎  ○  ●  ○



 ○いち

 『君の奥さんと子供、どちらも死なせてはならない』


 ●

 『エル教会に潜む闇の真相を知り、禁術である【神の奇跡:世界平等の死オールデッド】の危機を阻止せよ』


 ○さん

 『黒冠位悪魔ブラック・アーク・デーモンの【死の灰】を六つと、最天使長エル・アーク・エンジェルが持つ【秘宝石】を七つ集めろ』


 ◎よん

 『君を生き返らせたのは、わたし、ジャンヌ・D・アークと、誰にも教えてはならない』


 ○

 『星の力、【神秘術:永遠の星座《エターナル・サイン》】を持つ、選ばれた五人の勇者を探して、仲間にしろ』


 ●ろく

 『この一連の召命を、君の娘が七歳になる、あと三年以内に遂行してもらう』


 ○なな

 『以上、六つの召命コーリングを完遂した後、君には死んでもらう・・・・・・



 「__えっ?」


 最後…なんて?

 死んでもらう・・・・・・

 なんだよそれ。

 生き返るけど、結局、最後は……。



 「さぁ、ユーサ・フォレスト。

  生き返って神の召命コーリングをこなして、死ぬか。

  家族に合わないまま、今ここで死ぬか。

  選んでみせてくれ」



 先程までとは違う剣幕で。

 こちらを真剣な眼差しで訴えてくる神様。


 それは、召命コーリングという名の、僕に選択肢がない命令だった。

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