1-4.幕間 ~ 我らの主よ!(ウィーッシュ!) ~
「ねぇ、聞いた? ナザ病院の
「えぇ!? あの女の子みたいな美人の旦那さん? 確か……トムさんの運送護衛ギルド内でもトップクラスに強くて、有名な通り名が『死を運ぶ者』とかで、見た目とは裏腹に凄く強いって聞いたけど……」
「魔物や
季節は日本でいうところの四月頃。
桜が満開に咲いている桜並木。
ワビサビ文化が詰まった日本庭園と老舗店。
旧時代の日本に近い、古き良き伝統的な日本の姿に似た街並み。
和洋折衷にコーディネートされた洋服を着る人々が賑わう都市『ザキヤミ』
その都市の住宅街、とある場所で婦人が三名。
世間話をしていた。
「噂では……たしか亡くなった旦那さん、十五歳ぐらいの時に記憶喪失になっていたところを、ギルド長のトムさんが
「そうなの? 最近結婚して幸せになって……まだ娘さんが四歳ぐらいじゃなかったかしら。お気の毒にねぇ……。フォレストさんもだ若かったわよねぇ」
「そういえば、フォレストさんが絶滅種とも噂されていた珍しい
ヴァンパイア。
という単語が一人の婦人の口から出た瞬間。
残りの婦人達が息を
「あ……なるほど、もしかして……」
「ん? どうしたのよ?」
「あなた知らないの? たしかここら辺での、ヴァンパイアの末裔って……昔『不吉を呼ぶ赤目』の女って言われてたわよね」
「あぁ!! 昔噂になっていたわね。聞いたことあるわ! その女の子に
「旦那さんは、女の子みたいな見た目だったから大丈夫だったんじゃないか? って噂にもなっていたわね。もしかして、今回その奥さんの不幸が……」
三名の婦人達がお気の毒にね。という顔をしながら話をしていた時。
「それは多分無いっスねぇ。お二人は呪いの秘術具を、幸せな秘術具に変えちゃうぐらいマジハンパないぐらいラブラブだったんで」
パリピな祈祷師(きとうし)のような恰好をした若者の男性が、指ぬきグローブを見せつけるポーズをとりながら、三人の会話を遮(さえぎる)るように間に入った。
「「「__っ!? ギアドさんっ!?」」」
「ウィー主(しゅ)よ! ご婦人の皆様、コンコンにちは」
後ろから急に声をかけられ驚く婦人達。
ギアドと呼ばれた若い長身の男性。
若者は両手をキツネのような形にして、神に祈りを捧げながら陽気に挨拶をした。
「ごきげんよう。ギアドさんは……、フォレストさんのお葬式に行かれたのかしら?」
「それがぁ、近くまで行ったんスけど、ユーサのアニキんとこ、家族葬にされてるみたいでぇ……日を改める事にしたんスよ。今その帰りなんスよね。やっぱりこういうのって家族の気持ちが最優先なんで、部外者のオレがしゃしゃり出て良い訳じゃないんで」
「そうよねぇ、一番辛いのは家族ですわよねぇ……」
「そうなんスよ……オレぇ、今でもマジ信じられねぇっスよ」
見た目と話し方からは想像しにくい配慮をする優しい青年。
明るい表情だった若者が、急に涙声になり始める。
「ギアドさん……ギルドの方達が扱う有名な秘術具店の店主さんですから、フォレストさんとも仲良かったでしょうし……お辛いですわねぇ」
「そういえば、フォレストさん夫婦がギアドさんのお店で結婚指輪を買ったあたりから、お店が繁盛し始めたわよね……そりゃ思い入れがあるわよねぇ」
「そうなんスよ……。ユーサのアニキ達、邪神様が作ったという、いわくつきの『ラーマとシータの結婚指輪』の
綺麗な顔をした若者が涙を流しながら、大事な思い出を話し始める。
「だから……奥さんの不吉な噂じゃなくて、多分……オレが売った結婚指輪の呪いのせいなんじゃないか? って思ってるんスよ。ホント、あんな物、仕入れなければ良かったって……思ってます」
「ギアドさん……別に貴方(あなた)のせいとは、言い切れないと思いますわよ……」
「そ、そうですわよ。世の中何が起こるか分からないんですから。お気をたしかにですわ!」
「世の中何が起こるか分からない……確かにそうですわねぇ」
先ほどの不吉な噂をしていたのを聞かれた事も含め、ばつが悪そうに若者を励ます婦人達。
「……それにしても、教会の天使様達は何をしているのかしらねぇギルドのトップクラスの人が亡くなるほどの悪魔が近くにいるかもしれないって思うと……怖いですわぁ」
大正、明治時代の日本を思わせるような場所だが、森永 典安(もりなが のりやす)が過去にタイプスリップした訳ではない。
地球という惑星ではあるが、日本という国は無く、典安が知っている地球ではない。
ギルド、亜人、魔物、悪魔というゲームや映画の中でしか存在しない非現実が存在する幻想的なファンタジー世界。
ここはユーサが住む世界であり、前世の世界とは違う【別の世界】なのである。
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