第27話 鬼ヶ島
駅を出て学校までの通学路を歩いていると、見慣れた二つの姿を見つけたので声をかける。
「おはよう、二人とも」
私の声を聞いて二人は振り返るが、一早く私の声に気づいた一花が少し驚いた顔をみせる。
「あれ、今日は早いのな。大体いつもギリギリなのに」
「最近、目覚まし時計を二つ鳴らすようにしたのよね。二人とも朝弱いし、スマホの目覚ましだとスヌーズにしてもうるさくてすぐに切ってしまうから、二人分鳴らせばなんとかなるんじゃないかという戦略でね。その甲斐もあって今日はちゃんと起きられたのよ。とはいえ、由美は辛うじてという感じで、見ての通り今も眠そうにしているけど」
「おはよー」
挨拶こそすれど、電車を乗り降りしてもまだ半分は寝ているような、そんな状態であった。
「さらっと一緒に寝ていることを話されるのにももう慣れたな」
「一緒にって、別に同衾しているわけじゃないわよ。明け方、寝ぼけている由美が布団に入ってきたけど」
「世間的にはそれを同衾と言うんだが、まあいいか。今はそれよりも面倒なのがいるからな」
一花はその言及については諦めてくれたが、それは別の理由があるということを示しており、すぐに知ることになる。
「えへへ、おはよう、灯」
「何よ、その顔」
すると薫はにへらと笑いながら接近してくるので、私は反射的に身をのけぞらせる。
「あっ、避けないでよ。ほらあ」
しかし避けても薫は幽霊のように手を伸ばしながら迫ってくる。
「えっ、本当に何なの。気持ち悪いわよ」
「きっ、気持ち悪いって」
浮かれている様子であったのでキツイ言葉をいってしまったが、その言葉には少なからずショックを受けたようである。
「いえ、ごめんなさい。言いすぎたわ」
「いや、事実だろう。ちゃっかり身体にもベタベタ触っているし」
薫はすっかり沈んだ様子でうなだれながら私にもたれかかってきたので支えてやるが、彼女の手はペタペタと私の肩辺りを触ってきていた。
「それで、これは一体何かしら」
「ああ、こいつは今他人になすりつけようと必死なんだよ」
「なすりつけるなんて人聞きが悪いよ、一花。私はこの身に纏わりついている気を他の誰かに託して希望を繋げようと思っていただけだよ」
「まるで意味がわからないのだけど」
「なんでも、今朝観ていた星座占いの結果で最下位になって邪気を纏ってしまっただなんだと騒いでいたんだよ。さっきまで私になすろうとしていたが、もっと隙がありそうな奴を見つけたから、すぐに切り替えてベタベタしている次第だ。いつもは勘が鋭くてご主人様のためならなんでもやりそうな番犬も今日はおねむのようだしな」
「んー」
気付けば薫同様に私の肩にもたれかかってきている由美であった。
「占いねえ」
「私だってね、いつもは最下位だったときは見なかったことにして、占いをやっている他の番組に替えて良い結果が出ているのを見つけるまで探し続けるよ」
「ゲームのガチャじゃないんだから」
「でも今日は、朝から散々だったんだよ。タンスに小指をぶつけるわ、制服のスカートのチャックを布に挟むわ、苺ジャムのついたトーストを床に落とすわでさ。しかもジャムのついた面が下だったせいで掃除も大変でさ。それでも電車に間に合ったのは、前にもピーナッツバターを塗った方が下になって落としたことがあったからね。それにしてもなんでトーストを床に落とす時って、毎回何か塗ってある方が下になるんだろ」
「マーフィーの法則ね。それは災難だったと思うけど」
「一花も言っていたように、灯には優秀な番犬様がいるから多少の災難が降り注いでも跳ね返せるでしょ。跳ね除けられる人が背負うべきなんだよ、この邪気は。しーさー、あいあいさー」
「友達を魔除けのシーサー呼ばわりはどうなの」
「まあ、あんまり気にすんな。どうせ昼頃には、いや次の話題になったらもう忘れているさ。さっきも電車内で相手するの面倒だったから、食べられなさそうで食べられるパンの話をしていたらそっちに夢中になっていて、改札口でタッチしそびれて人の流れを止めた時まで思い出さなかったぞ」
「そう、あれで思い出しちゃったんだよね。私の右腕にまだ邪気がまとわりついていたことをね。うずいているんだよ、この右腕が」
「なんの漫画の影響か知らんが、そいつをさっき灯に渡したんじゃなかったのか」
いよいよ一花は呆れる。
「そうだった。一花みたいな抜け目なくて性悪なのと比べて、灯ちゃんは抜けていて、じゃなかった、優しくてお人好しだからね。許してくれるよね」
「このご時世、優しいという言葉は、褒め言葉として使われることの方が少ない気がするわよね。多分、本来の意味は甘いとか間抜けだとかそういうことよね」
「へへっ、よく分かってるね」
「灯ちゃんが聖母のような優しさで許したとしても、私はそこにつけ入る輩は何人たりとも許しはしないからね」
「はい、すみませんでした」
「ようやく眠れる獅子がお目覚めか」
「私としても、せっかく灯ちゃんに寄りかかっていられたんだから、もう少し寝てるふりをさせてほしかったのだけど」
「此度につきましてはですね、ほんの少しばかり調子に乗ってはいたものの、決してあなた様や灯様の気分を害するような意図はなくてですね」
「邪気かシーサーかはともかく、小学生の頃にはこういう相手になするような鬼ごっこが唐突に始まるのよね」
助け舟を出すつもりではなかったが、見苦しさを感じたので話を変える。
「確かにあったな、そういうの」
「私はああいうのわりと苦手だったのよね」
「そうは言っても、灯だって全く運動ができないというわけでもないだろう。この間、ソフトボールをやったときも、最終的にはボールを前に弾き返せるぐらいになっていたし」
「いえ、私が運動音痴で息も切れ切れになるというのはもちろんあるのだけど、なんというか気になってしまうのよね。この鬼というのはいつ無くなってくれるものなんだろうって。例えば、小学生であれば休み時間のチャイムが鳴ったり帰る時間になるとかの区切りで、もしくは単純に皆が飽きて終わりになることが一般的よね」
「そうだな」
「で、そうやって鬼ごっこ自体は終わるわけだけど、そこでいつも思ってしまうのよ。最後に鬼だった人は、その人が持っている鬼というのは一体どうなるのか」
「まあ、ルール的には一番最後に鬼だった人が負けということになりそうだけど。そう考えると、けっこう残酷なゲームなのかもしれない」
「そう。今の薫じゃないけど、たとえゲームとしての鬼ごっこが終わったとしても、鬼はそのまま邪気を持ちつづけている。確かにそれは今回の薫のように不運な気などではなかったとしても、そこには色んな人が押し付けあっていた念のようなものがあるわけで」
「なんだか話が妙な方向に転がってきた気がするんだが」
「今回はたぶんそういう話だねえ」
再び寝ぼけまなこでうにゃうにゃしている由美がのんびりと言う。
「いや、私もその気持ちは分かるよ」
「あら、本当に」
真っ先に忘れられそうな薫が賛同してくるので聞き返す。
「うん、私も昔たまたま最後に鬼だったことがあって、でもそれが嫌だったから、こっそりつけようとしたことあるもん。その時はバレちゃって喧嘩になりかけて、最終的には他の子と一緒に先生に怒られたんだけど、怒られている途中に私がその鬼を先生に移したら仲直りできたからね」
「それははたから見たら面白そうな光景だけど、でも子どもにとってはそれぐらい死活問題だし、歳を重ねた今でもその感性は少なからずあるわよね」
「あるね。ありすぎて、ありになってあれを追ってありおりはべりいまそかりビームだよ」
「本当に意味が分からん」
「分かるわよ。あれ、追いかけたくなるわよね」
「ええ、これ私がおかしいのか。正直どうでもいいし、追ったところでどうにもならないだろ」
「どうでもいいなら、私の不運も引き取ってよ」
「それはまた別の話だろ」
薫が自身の身体にベッタリと触ろうとするのを顔をしかめながら避ける。
「どうにか気にしないで済むようにできればいいのだけど」
「んー、じゃあ、お焚き上げでもするしかないんじゃない」
「もし鬼ごっこのたびにそうしていたら、神社やお寺は大儲かりね」
「だとしたら、関係者各位は毎日こぞって鬼ごっこを開催するだろうな。いや、だから何の話なんだよ、これは」
「だからこそ終わりは肝心よ。もし一度始めた鬼ごっこに真の意味での終わりがないのだとしたら、あらゆる鬼ごっこが今もまだ続いているわけで、すなわちそこらじゅうに鬼の人が溢れているということになるわ。いえ、酷な話をするならば、最後に鬼になっているのは大体いつも同じ人になってしまう、むしろ一人で三十個ぐらいの鬼を兼任しているのかもしれない。でもそういう人だって、家族と身体が接することがあったり、そうじゃなくても道端や駅ですれ違うときに肩をかすめたりすることはあるはず」
「段々と複雑になってきたな」
「いっそのこと鬼になっている人が光っていたら分かりやすいんじゃない。持っている鬼の個数が多いほど強く光るの」
「とんでもないディストピアが誕生したわね」
「じゃあ、逆に鬼をたくさん持っていたら、ポイントが貯まって特典がもらえるようにすればいいよ。そうしたらむしろ羨ましがられるよ」
「だとしたら、皆が鬼になりたがってもはや別のゲームが始まりそう」
「でも、そっちの方が良いよ。一人だけ辛い思いをするよりも、一人だけ良い思いをする方が」
「まあ、そこに異論はないわ。でも、どのみち、私みたいな人間が勝つことはなさそうだけど。運よく一度鬼になれたとしてもすぐに知れ渡って奪われてしまうから」
「じゃあ、その時は私がすぐに買い取ってあげるよ。それで私はそのまま家まで逃げ切って出てこないから」
いよいよ話がよく分からない方向に行き始めているのは、一花の呆れ顔を見るまでもなく分かっていた。
「一番有名な鬼といえば、やっぱり桃太郎に出てくるやつだよね。鬼界のスーパースターだよ」
「昔話としては泣いた赤鬼なんてのもあるけれど、やっぱり桃太郎の悪役としての方が知名度はありそうね」
「なるほど。だとしたら、鬼ヶ島は鬼になった人たちが集まっているんだ」
「いや、いるのは人間じゃなくて、本物だろうが」
「えっ、一花って本物の鬼がいると思っているの」
「そういう意味ではなくてな」
「怖いこと言うわね。でも、さっきの話を採用するなら、そこでは鬼の中の鬼を決める頂上決戦が行われていることになるのでは。それで最後は桃太郎に全部かっさらわれていくのよ」
「じゃあ、最後の鬼は桃太郎ってこと?」
「餌で釣った三匹の手下をけしかけて、鬼たちが溜め込んでいた金銀財宝をかっぱらっていったんだよね」
「そんな設定はなかったと思うが、もう今さらだな」
一花はもはや諦めた様子で前を歩く。
「結局のところ、どう転んでも鬼はハッピーエンドを迎えられないということになるのね」
「可哀想な鬼さんだこと」
「うーん。順当に強者が勝つだけの物語というのはどこか面白みに欠けるわね。救いはないのかしら」
「まあ、鬼同士で協力するという線はあるかもな。ほら、泣いた赤鬼とかそうじゃん」
「泣いた赤鬼ってどんな話だっけ」
そこでうつらうつらしながらも話は聞いていた由美が尋ねる。
「知らないのか、由美は」
一花は少し意外そうであった。
「人間の友達が欲しかった赤鬼が自作自演で友達を作る話だよ。友達の青鬼に人間を襲わせたところを助け出して、人間たちにアピールするの」
「ええ、赤鬼がふつーに悪いやつじゃん」
「悪意のある切り抜き記事じゃないんだから。それを提案したのが青鬼の方からだったという最も大事なところを欠かさないで。それで人間と仲良くはなれたけど、人間の敵となった青鬼が去っていってしまい、赤鬼は泣いたという話ね」
「ふうん。でも、そうなることは簡単に予想できたんじゃないの」
「まあ、それは赤鬼が鈍かったということなのでしょうけど。ん、なんだか他人事じゃない気がしてきたわね」
私が説明している途中でそのことに気付いて言うと、他の三人は一様に笑みを浮かべていた。
「少なくとも青鬼は予想していた雰囲気はあったはず。美しい友情による自己犠牲精神の塊だったわけだ」
「いや、もしかしたら案外そうでもなかったかもよ。しばらく旅行にでも行きたくなっていて、ついでにちょっと人助けしてやるかって感じでさ。この場合、鬼助けだけど」
「でもやっぱり、あまり気持ちの良い話ではないわよね。美しい友情かどうかも微妙なところじゃないかしら。赤鬼が気遣えないのは、青鬼自身が提案したことだから仕方ないところがあるとしても、青鬼自身はそうなることを予想できたということはつまり赤鬼の性格からして泣くことも分かっていたのではないかしら。それを見越した上で、青鬼は赤鬼の自分への印象を悪くしないまま、言うなれば良い人ぶって去ったわけじゃない。それは果たして美しい友情といえるのかしら」
「えっ、急に厳しい意見」
今の今まではしゃいでいた薫が顔を引きつらせる。
「いや、その、昔話にこんな真面目に指摘するものじゃないわよね。ええ、分かっているわ、分かっているのだけど」
「まあ、真面目だな。灯は」
「でも、そういうちゃんとしているのは良いことだと思うよ?」
一花に言葉を濁され、薫にまで気を遣われる始末に私は反省するしかなく、もうどうしたら良いのか分からなかった。
「さすが大天使アカリエルちゃんだね」
しかし目を瞑りながらもたれかかるようにしていた由美は、寝言のように言う。
「とはいえ、結局どっちの話でも鬼が幸せになることはなさそうだな」
すでに学校の校門が見えており、話も終わりそうな気配であった。
「元々、鬼というのは人間とは一線を画す異形的存在の象徴とされていて、仲間外れの意味合いそのものだから」
「だとしたら、あれだね。全員が鬼になるしかないんじゃない」
薫が言う。
「とんでもないバッドエンドが来たな」
「でも仲間外れはいなくなるよ」
「自己犠牲どころか全員犠牲になるわけだが」
「一応、鬼ごっこにも増え鬼ってあるわよね」
「でもこの場合はゾンビ映画とか吸血鬼みたいなのをイメージさせられるんだが。全員が病原菌に感染していくようで嫌だな」
「そう考えると、増え鬼の結果が鬼ヶ島なのかしらね。元々は一人だった鬼が誰かに触れるごとにどんどん鬼が増えていって、やがては島中に広まったと」
「そういうことだね」
「私は二人だけの鬼ならそのままで良いと思っちゃうけどね」
「朝から熱々の強火ですなあ」
「でも、そうね。私もどちらかといえば、増え鬼形式の方がまだ良いと思ってしまうかも」
「ええ、なんでよ」
「だって、もし二人だけだったら、何か問題が発生したとき、由美は自分を犠牲にしようとするでしょ。でも、理解し合える同胞が他にもいるなら、一人だけが犠牲になる必要はない。私はやっぱり一人だけ不幸になることは避けたいのよ。もちろん共倒れは望まない上でね」
「場合にもよるけど、犠牲なんて大袈裟なものじゃなくて、本当にそうしたくてそうしているときだってあると思うよ、私なら」
「案外、青鬼も由美みたいな気持ちだったのかもな。ただ、どんな超人だって一人で出来ることには限界があるわけだからな、仲間はほどほどには居た方が良いんじゃないか。いざという時、頼れる奴がいれば、誰かを助けられることもあるだろう」
「戦いは数だってよく言っていたもんね、一花」
「物騒な話ね」
「物騒だよ、一花は」
「本当に余計なことしか言わないな、薫は」
「でも言ったことは本当なんでしょ」
「そうね、じゃあ、みんなで戦いましょう」
そう言って、私は薫と一花のそれぞれの肩に触る。
「これで全員鬼よ」
「あれ、つまりこれって私の邪気が返ってきたってことだよね。祓えてないじゃん」
「今日だけじゃなくて、今後は誰かの運勢が悪いときは全員で背負うのよ。一蓮托生の運命というわけね」
「ええ、それってなんか余計に増えたってことじゃない」
「そりゃあ増え鬼だもの。仕方ないじゃない」
「いやだ、いやだ。私は自由になるんだああ」
薫は私に鬼をなすり返し、逃げ出そうとする。
「あっ」
しかし走り出した途端、薫は何もないところでつまづいてしまい、派手にずっこけた。
「だ、大丈夫」
さすがに私たちは慌てて駆けつける。
「ちょっと見せてみろ」
私よりも早く駆け寄っていた一花が慣れた様子で足を診るが、幸い大した怪我はなさそうで、薫もすぐにむくりと起き上がったのだが、その際には私と一花の手をがっちりと掴んでいた。
「帰りに近くの神社にでも寄って、お参りしましょうか」
「今から行きたい」
「おいおい、学校サボる気か」
私たちはすでに校門の前に到着していた。
「そういえば向こうの森林公園のすぐ近くに小さな神社ならあったよね。そこなら間に合うかもよ」
由美はぱっちりとその目を開けており、明瞭な声で言う。
「せっかく今日は余裕をもって学校に着いたのだけど、まあ仕方ないわね。今さっき一蓮托生だと言ったところだし、ここまで不幸なことが続くとさすがに心配にもなるわ」
「持つべきものは仲間の鬼だよ」
薫は感激した様子で言う。
「二人とも普段はわりと真面目なのに、相変わらず学校に遅刻することだけは抵抗が無いのはなんでなんだ」
「この美しい友情に水を差すつもりなの、一花。私のためを思って学校を休むことも厭わないんだよ」
「いえ、休みはしないし、遅くとも一限には間に合いたいわ。もう来週から試験が始まるし」
「ええ、灯までそんなこと言い出すの。今日はもう良いじゃん。このまま遊びに繰り出そうよ」
「ねえ、薫ちゃん」
「えっ、なになに。由美ちゃんもどこか行きたいところがあるの」
「行きたいというか、行かないといけなさそうなところならあるね」
「何それ、国語の問題?」
「何かと言うならば、生徒指導の問題ですね」
そこで薫の肩に手が置かれる。薫は「鬼ごっこでも始める気なの」などと言いながらまだ無邪気な様子で振り返ったが、その手の主の顔を確認すると、その笑顔が初めて強張った。
「確かにうちの学校は生徒の自主性を重んじており、髪型や染毛の規定などはなく、授業中の携帯電話の使用を認めたり多少の遅刻は見逃したりと比較的自由な校風であると言われていますけどね、学校の前で授業をサボって遊びに行くという話を大声で、それも他の生徒が登校しているところで喋っているというのは、さすがに見過ごすわけにはいきません。あくまでも各個人の意思を尊重しているのであって、周りの真面目な生徒を唆したり、悪影響を及ぼしかねない言動を許しているわけではありません」
そう話すのは、この学校の教師陣では珍しく真面目なことで知られている国語教員の大神先生であった。私たちのクラスではないが、一年生の別のクラスの担任でもあり、一年生の間では少なからず恐れられていた。
「そういうわけで一緒に指導室まで来てくださいね」
「鬼のすみか、鬼ヶ島は嫌だよう」
「誰が鬼ですって」
「ううっ、今日はもう散々だよ」
薫は涙目になって自身の不運を訴えるが、こればかりは自業自得であり、いくら仲間がいてもどうしようもない。
「泣いた赤鬼じゃなくて、泣いた薫ちゃんだったね」
登校中の生徒たちから注目を浴びながら、私たちは生徒指導室に連れて行かれるのであった。
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