第2話

戸板 幽は落ち続けていた。

暗くなにもかもない空間をだ。

戸板は必死に抑え込んでいた。

もちろん「絶叫」をだ。

誰も見ていないのだから思う存分叫べばいいだろうにと思う人も

いるかも知れないがこの男にとってそれは逆である。

現世において喜怒哀楽が薄かったこの男の思考では

人々がたくさんいる前で心の底からの感情の爆発があったとして

それを叫んだとするなら、この男にとってそれは「恥」ではなく

現世に根を張らした巨木になったと言わんばかりの「存在」へ

変体したと言えた。

もちろんこの男を叫ばせるにたる現世においての事件は何一つおこらなかったが。

今、戸板は必死に自分が自分に向けた「恥」と戦っていた。

自分自身にだけは負けるわけには行かんのだ。

それを考えると誰一人いないこの空間は彼にとっては試練の場と言えよう。

偏屈であり人間嫌いの戸板が絶叫を耐えているとついに

地面らしきものが見えてきた。


「やった!勝った!」


落下と同時にすさまじい衝撃と轟音。

戸板は勝ったのだ。彼の自身が考える「恥」に。


それと同時に空から糞女の声が聞こえて来た。


「戸板さん~~聞こえますか~~?よろ~~?」


「おい女!ここはどこだ! 今からでもいい!地獄に落とさないか!」


「だから無理ですって(笑)。で、そこ森の中なんですけどわかりますよね?」


「‥ああ森だな。」


「はーーーよっと☆」


糞お‥女神がそう掛け声をかけると周りの木々の木目が変化していき

なんと人の顔のように変化した。一斉に不気味な声を発する。


「うひゃひゃひゃ」「アヒアヒアヒアヒ」「ばるんばるんばるんーー」


「おい!なんだこれは!……ちょっと面白いじゃないか!」


「すごーーちょっと怖がらせようとおもったのに!お兄さんすごい!」


「よ、よせ。人をからかうな!」

戸板はちょっと照れてしまった。不覚だ。


「さらによっと☆!」


女神がさらに掛け声をかけると、なんと愉快に変化した森の木々たちが一斉に

上空、空に向かってまるでロケットように発射された。


戸板の周りには一面の平野が広がっていた。


「なんだ……面白いかったのに」

戸板は深いため息をついた。


「まあ今みたいなことができますんで。そりゃもういろいろと」


「?」


「それじゃもういいですよねーー。好きなように生きちゃって下さい!」


「おいこら!」


それからしばらく戸板は上空に向かって声をかけつづけたが

何の反応もかえってこなかった。


「ふん!全能の能力だと?そんなものありえない… だがしかし」


戸板は頭にスコップを思い浮かべてみた。すると彼の手にその物が握られ

たではないか。


「ははは‥なんだこれは。あの女に授けられた能力だと思うと癪だが

こういうこまごましたことに使うのはいいかもしれん。」


そういうと戸板はスコップを使い地面を堀りだした。

もちろん人ひとりが入れるほどの穴を堀あげその中で座禅を組み瞑想する

ためである。


「はあはあ…」


空は雲ひとつなく晴れわたっていた。暑い。この「暑さ」も全能の力で

取り除けるのか?と思ったがやめた。戸板にとって苦しみとは自分の

人生と切っても切り離せない、戸板にとっては最愛の人といってもいい。

とはいえ普段の運動不足がたたる。


「ちょっと休むか‥」


そう考え地面に座りこんだとき、戸板の正面遠方に何か赤い服?。

服なのだろうか…長い赤い布がいくつも女の女体にまとわりついてるような

そんな変な女がこちらに全速力で向かってくるのが見えた。


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