動かざること山のごとし。女神から「全能」の力をもらったし四神から求愛されたが馬鹿どもめ!俺はここから一歩も動かん!
@shakenohatsukoi
第1話
戸板 幽は激怒したことがなかった。
服も住んでいるところも貧そうだ。
貧しさと裕福の違いがわかったもんじゃないこの男は
喜怒哀楽も薄く
何もかもが彼にはつまらなかった。ゆえにドブ川で入水自殺することにした。
貧相なボロボロの服では石を入れたさいに破けて沈まないかもしれん。
本くらいにしかつかったのなかった貯金をおろしなるべく
丈夫な服を服屋で探そうとしたがすぐにやめた。
服屋の店員の女性の笑顔が気にいらなかったからだ。
仕事で笑ってることは理解していたが気にいらないなのだからしょうがあるまい。
服を選ぶふりをしながらぼそっと
「お前はそれで生きているといえるのか?」と小声でつぶやいた。
女性店員は他のお客さんの会計をしている。
全く聞こえていないだろう。
「成功だ」戸板はつぶやく。聞こえてないからこその成功なのだ。
戸板は夜になるまで待ちさっそくどぶ川へ直行した。
なぜ自分はこうなのか?と若かりしころ考えたこともあったが
やはり生まれたときからそうなのだという結論にいたった。
まだ20代前半だろう君は?前を向きたまえ!と大学の教授に諭された
ことが先日あったが知ったことではない。
私のではなく私の脳みそに教育をすべきだ。
どぶ川についたらさっそく大きな石をぼろ服の中に入れ続け
どぶ川に飛び込む。…1分すぎたころからやはり苦しくなってきたが
我慢した。我慢を重ねる。空気を吸いたい欲求がガンガンする頭痛を
下回ったときやっと私はこと切れた。
「はいどーーもお兄さん(笑)!」
戸板は絶句した。
死んだと思ったのに、目の前には和服をきた女性が座っていたからだ。
びっくりするほどの長髪の女だ。黒髪は百メートルいやもっともっとあろう。
なにせこの何もない白い空間の地平線の彼方まで続いている。
女はそのうち一本の髪を引っ張っていた。その毛髪は私の心臓あたり…胸に
引っ付いていた。
「女、ここは地獄か?あの世のようなものがあったことは信じられんが
まず地獄かどうかが先だ!」
「えーとですねえ(笑)。なんというかあなたは死ぬ運命ではなかったんですが」
「何が言いたい?」
「まあまあ…あのー枝毛って知ってます?」
「知っている。髪の先が枝のように二枝に分かれるあれだろう?
それより私は地獄にいきたいんだ!」
「それでですねえ。私の髪の一本一本が現世の人の命につながってましてねえ。
あはは」
「地獄に落ちるような奴らに聞いてみたい!なぜあくどいことができるのかと。
望むような答えはほぼかえって来ないだろが一人いるかも知れん」
「でですね!(聞いてないなーこのお兄さん)やっぱり気になるじゃないですか?
枝毛?でやっちゃったんですよ。ひょいっとお兄さんの命の一本釣り」
「なに?では女。私の人格が偏屈極まりないのは、その枝毛が関係してると?」
「いやそれは関係ないですねーー」
「よかった」
「でしょうねーー。で、これが上にばれると私は始末書減棒確定気味なんで
お兄さんにはどこか異世界に飛んでもらおうかと…」
「異世界だと!駄目だ!私は地獄に目的があるのだ!地獄へ!」
「無理でーす。私にその権限はありませーーん。よし!大サービス!『全能』の
能力与えちゃいます。」
「いらん!地獄へ——」
「いってら~~(笑)」
と女が指を下に指した瞬間、白い空間から地面がなくなり私は下に落ちていった。
私は後悔した。あの女に平手打ちの一発でも当てていれば私は地獄に
落ちたかもしれんのに。
あの女の裏表なさすぎる性格が、私の女の印象を180度ではなく18度程変わって
いたことを。
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