閑話 読まなくても物語に影響は無いです。 カエデの過去
私はずっと不満に思っている事があった。
何に?
お母さんは暖かいし、お父さんは優しい。
お父さんはいつも朝から出かけて夜になると、必ず食べ物を持って来た。
お母さんはお父さんが居無い間、掃除とか洗濯をしたり、私の遊びに付き合ってくれた。
お父さんが帰ってくると、獲物をお母さんに渡し、いつも美味しく調理してくれた。
私は家の中で何不自由なく過ごせていただろう。
外に出掛けたいと言ったら、父さんは森の中を連れまわしてくれる。獲物の捕まえ方とかを見せて貰い、私はいつも目をキラキラさせていた。
私が言ったことに、お父さんとお母さんは出来る限り応えようとしてくれた。でも、そんな両親たちでもあることだけは頑くなに拒む。
私は外に行きたいと言った。また一緒に森へ行くか?とお父さんに言われる。
でも、そうじゃ無い。私が行きたい外は、ここと別の場所だ。私は知っていた。どこからか私達に似た人が森にやって来て死人を埋めていく事を。
一度だけ、一人で庭の結界から外に出た事がある。一人でいっちゃダメだと言われてたけど、好奇心には勝てなかった。
一人で行くのは新鮮だったのも有り、ついつい奥まで進んでしまった。モンスターとかも襲って来たけど、お父さんに教えて貰った狩の方法を使えば難なく倒す事ができた。
木々の間を潜り抜けて、ワクワクしながら歩いていると、遠くの方から何かの歩く音が聞こえて来た。それは今まで聞いて来たどの生き物の足音とも似ても似つかない。
気になった私は音の正体を見る事にした。
忍足で歩きながら音の方向へ近づいていくと、広場の様な場所に音の発信源らしき何かの影が見えた。
そして、私は見た。
顔が長くて、足も長い、不思議な生き物に跨って、闊歩している人達を。数は馬とセットで五くらい。
その人達の格好はお父さんが狩る時に使う剣と言われている武器を腰にぶら下げ、鉄で体を纏っていた。
そして彼らの顔が私達と違って金髪で、目の色も違う。
私は心底驚いた。
不思議な格好と生き物もそうだが、お父さんとお母さんはこの世界には亜人しか存在していないと言っていたからだ。でも彼らの目は赤く無い。
もしかして、お母さんとお父さん、嘘付いてた?なんて嫌な考えがよぎる。そんな訳無いと、頭を振り彼らの様子を木の影に息を潜め、眺めた。
彼らの内一人が不思議な生き物に載せてあった大きな荷物を下ろした。遠くからだとよく見え無いけど、人型の様に見えた。彼らのうち三人が馬から降りる。そして馬に立て掛けてあったスコップらしき物を持ち、地面を掘り出した。最後一人はの馬上から眺めて周囲を警戒している様だ。
何をしてるのか全く分からなかったけど。彼らは真剣だった。しばらく掘り出していると、長方形に広い穴ができた。内一人が人型らしき物をそこに入れ、埋め始める。そうしてしっかり埋め終わると彼らは謎の生き物と一緒に颯爽と広場から去っていった。
私は急いで家へ帰った。お母さんとお父さんが結界の前で立っていて、遠くからでも怒っているのが分かった。
謝るより前に私はさっき見た人達のことを話した。
するとお母さんとお父さんは目を見開いて、みるみる顔が真っ青になる。やっぱり嘘ついてたんだと私は分かってしまった。問いただしてみると、見間違いだとか、幻を見たんだとか言い訳にもなってない様な事を言われる。そして二度と一人で外へ行かないようキツく叱られた。
私はその日から両親への不信感が募った。
夜ベットにうずくまってこの森の外にはどんな世界が広がって居るんだろうと考える様になった。ずっと森が続いているのか、それとも私が見たこともない様な景色が広がっているのか。私の底なしの好奇心は収まる所を知らなかった。妄想を膨らませていく内に、好奇心は憧れに変わり、いつか外に行きたいと気持ちその憧れは間違いだとも知らずに。
それからしばらく経った――
何度も言うけど、私はお母さんお父さんのことが大好きだった。そんな両親達が隠し事をしているのが信じられなかった。
だから、決心した。一度ちゃんと向き合って話合おうと。その頃既に私は思春期を迎え、親に反骨心の様なものを抱いていた。それも影響したのかもしれない。
母と父に真面目な話があると言い、食後に机で向かい合った。
外の世界に何があるのか?隠し事も嘘を付かないでしないでちゃんと私に話して欲しいと。
でも、教えてくれなかった。前の時と同様に、言い方は違えど何も無い、誰も居ないの一点張り。
私は悲しかった。腹を割って話そうとこちらから歩み寄ったのに、それを拒否された。それは怒りへ、反抗心へ繋がる。
翌日の朝早く、私は旅の荷物をまとめて家を出た。両親達は幸い、起きることは無くスムーズに準備を進めることができた。家には置き手紙だけを置いてある。
内容は勝手に家を出たことへの謝罪と、確かめたら直ぐに戻る等。
森を歩いている時、私は罪悪感に苛まれたと同時にワクワクが止まらなかった。散々妄想し、肥大化した期待。
未知との遭遇に不安と期待を感じながら心臓が今までに無いぐらい跳ねていた。
長い間森を歩いていた。本当にこのまま森しか広がって居ないんじゃ無いかと心配になるぐらいに。
でも不安は杞憂に変わる。徐々に木の数が少なくなり、地面の色が鼠色から緑へ変わっていったのだ。私は確信した。この森の向こうに何かがあると。
そしてついに私は見つけた。
緑が広がり、太陽が煌々と輝き、黄金に輝く草が生え揃う雄大な大地を――――
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