第3話

第三話 


 光が見えて来ない。あれから恐らく半日が経とうとしていた。

 どこを見ても森、森。まるで樹海だ。それに何処からか見られているような気配も感じる。

 昨日の広場の様な場所から打って変わり、茂みで空からの光が遮られ、夜か昼かも分からない。

 

 この森は普通じゃ無い。

 何より恐ろしいのが、たまに俺を襲い来る化け物の存在だ。

 ここには様々な生き物が生息している。例えばフクロウだったり、シカの亜種?の様な生き物だったり。でも中には得体の知れない生き物が存在している。大体は俺のことを見ても素知らぬ顔でどこかへ去っていくが、そうで無い奴もいて何なら向こうから俺の方へすり寄ってきたりするのだ。

 そいつは四つ目の獣。四つ目以外は標本で見るオオカミと瓜二つの四足歩行生物で、木々の暗闇の隙間から俺を襲おうと爛々と目を輝かせている。事実、何度か襲われた。

 

 そんな時はどうしているのかというと、一号を囮に使って引き寄せている間に、投石で撃退している。これが以外に有効で、キャン!という鳴き声を上げてどこかへ去っていく。また少し経てば懲りもせず戻ってくるのだが今はこれで持ち堪えている。一号には命の危機を背負わせているもののこいつ事態本当に得体が知れないから、何とも言えない。


 そしてここが地球で無いことにも流石に気付いた。地球にあんな変な生き物は居ない。夢であって欲しいと思うのだが、それにしてはリアリティが高すぎる。

 もしかすると異世界転生ってやつなのかも知れない。

 俺はあの時既に死んでいて、墓下から転生したってことだ。つまり顧問が墓を建てたわけではないんだろう。

 俺は少し心が軽くなった。だってここが異世界なら明日から部活に行かなくても良いんだから。

 でもせめて衣食住ぐらいは確保して欲しかったな。

 生き返ったは良いけど、いきなり転生させられて、森にポイと捨てられたも同然じゃ無いか。神様も無責任かもんだ。神様かどうかは分からんが。

 ん?もしや一号は転生特典的なあれってことなのか?

 だとしたらもっと良さげなのあっただろ!と文句を言いたいが貰っただけでもまだマシか。

 


 俺がこの森で生き残る為には早く解決しなければならない問題がある。

 餌にされ掛けているのも重大な問題だが、一番困っている問題は食料が無いことだ。木の枝にぶら下がって居る果実らしきものはあるのだが、明らかに人が食べて良い色をしては無い。動物を肉にして食べようとも思ったが、そもそも簡単に見つからないし、見つかったとしてもすぐに逃げてしまう。

 とりあえず今しなければならないのは食の確保。食が無ければ動けなくなって、獣の食にされてしまうからな。

 

 そうこう考えていると、再び俺は四つ目のオオカミに狙われていた。左右の木々の合間から目が光っているので丸分かりだ。

 奴らはあれでも隠れているつもりらしい。

 確かにこの森は暗いし、目の悪い生物が多いのかも知れない。

 じゃあ逆に俺が気付いて居ないと思われていることを逆手にとってはどうだろうか。

 ちなみに囲まれたのは今までで初めてだ。奴らも少しは学習したみたいで、一号の囮作戦を使い辛くしてきた。

 俺は今、木々の合間をゆっくりと歩いている。一号は1メートル程先だ。

 

 俺は一号を止めてこちらに向かい合わせる。

 そして、四つ目オオカミの存在に気付いて居ない振りをし、自然に一号とだべる。


「なあ、おかしいと思わないか?大人に成ると体はデカくなっていくけど、夢は小さくなっていくんだ。」


 一号は頷く。(俺が頷かせてる)


 四つ目オオカミ達も歩みを止め、狙いを定める姿勢になる。

 

「じゃあ、体が小さいままなら、夢の大きさは変わら無いのか?」


 それを言い終わったタイミングでいよいよ左右のオオカミは、同時に俺目掛けて飛んできた。数はそれぞれ三匹づつ。


 水泳部で培った飛び込みの瞬発力を活かして俺はしゃがみこみ一号も同様にさせた。


 突然、俺達という目標物が目前から消えたことで、オオカミ達は互いに体をぶつけ合い、反発力で弾かれ合う。


 そして、砂埃を立て両脇の地面にたたきつけられた。投石の威力とは比べ物にならない筈だ。肉食獣が本気で俺を殺そうと飛びかかってきた破壊力なのだから。


 脇に転がっているオオカミ達の様子を見る。

 目は白目になり口から泡を吹いて居た。完全に気絶して居るようだ。

 

「まあ、別に夢なかったしどうでも良いんだけど」


 安全を確認して、最後の決め台詞で締めた。特に意味は無い。


 想像以上に上手くいったようだ。

 また目を醒まされたら厄介だったので、一号に急所を刺してもらい、とどめを指しておいた。


 俺は死体が転がっている側で仁王立ちしながら腕を組み冷や汗を垂らしていた。

 

 改めて、どう考えても運が良かっただけだよな……。

 挟まれているという時点で絶望的だったのだ。あまりに運頼りの無謀な作戦、何とか冷静さを装い自分を保っていた。先にいる一号が今でも小刻みに震えている。俺の思考を反映させるということはそういうことだろう。


 さて、どうやってオオカミを調理しよう。生で食べても良いのだろうか?いや、流石にな……。地球の鳥ですら半生で食べてたとしても腹を確実に壊すレベル。こんな得体の知れない世界の、得体の知れない生き物を生で食べたら命すら危ういんじゃ無いか?

 

 火を起こそう。火の起こした方はサイバイバル番組で見たことのある、木と木を擦り合わせるという古典的やり方を試してみる。

 

 と早速実践してみたがこれはダメだ。水分を含み過ぎているみたいで、上手く火が付かなかった。


 頭を抱えた俺は転生特典の疑いがある、一号でどうにかできないか考えた。ここが異世界なら一号を使って魔法が使えるかも知れない。

 俺は一号へ薪に火をつけろと命令した。

 すると一号は両手をかざして、薪の方を見つめる。

 

「――――――」

 

 出来そうだと思ったんだけどな……やっぱりダメだった。

 少し一号に腹を立てた。こんな奴いてもいなくても変わらないじゃないか。そう思っていた時だ。


 突然、一号は白い煙に変わった。その煙は俺の方へ近づき、驚いて開けた口の中へ入ってしまう。


 そう言えばゾンビを吹っ飛ばした時も、口から白い塊が出て来た。一号が現れたのはそのすぐ後だ。つまり、一号は俺の体内から出て来ていたのだ。

 

 よく分からないが、これは異世界にありがちなスキルとかいう奴なのか?スキル、分身とか。

 んーただ単に分身を作るスキルなのかな?いやそもそもスキルと決まったわけでも無いし。


 取り敢えず、今は食料をどうにかしなければ……

 結局火は起こせなかった。生で食べる勇気も無かったので、その場にオオカミを放置し、再び森を歩き出した。

 そこに入れば別の肉食獣を呼び寄せる可能性があるので、少し急ぎ足で。

 案の定しばらく歩いていると、オオカミ達がいた方角から大きな地響きが聞こえて来た。また別の新たな化け物か?おっかないったらありゃしない。


 それにしてもこんな場所で一人になってしまった。この状況、かなり危険な気がする。

 どうすれば一号を出せるのか。

 口から出た時は確か俺ゾンビに怖がってたな。

 ならば恐怖がトリガーになるとかそんなところだろう。


 俺は口を大きく開け、怖がっているのだと自分を思い込ませる。

 すると呆気なく口から白い塊が飛び出して来て、その塊はみるみるうちに一号へと変わった。

 

 やっぱりそうだったか。こんな奴でも誰かと一緒にいると思えば安心出来る。


 木の上からフクロウが目を光らせ、俺を覗いていた。

 

 ずっと誰かに見られている気配を感じると思っていたんだが、気配の正体はフクロウだったのか。あんな所で高みの見物を決め込んで、さぞかし俺は滑稽だろう。


 そうして一号を先頭(囮)に薄暗い森の中で歩みを進めていると、とうとう俺は出会ってしまった。

 

 本物の化け物って奴に。

 

 


 

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