第4話 中立を謳う都市

《フェスリティア都市 門》


「おい、坊主、起きろ」

「んん……んぁ…………あ?」


 身体を揺さぶられ、俺は目を覚ました。

 最初に見えたのは、鎧を着た憲兵の姿だった。

 兜は着けていないから、しょうがないなぁという顔がよく見える。


 俺は身体を起こして、すぐに状況を理解した。


 今、俺はフェスリティアの検問所にある仮眠室にいた。

 というのも、都市に着いたのが深夜だったせいで、入るための門が閉まっていたのだ。

 規則上、住民でもない限り深夜に人を入れてはいけないらしい。

 ただ外で寝ようとしていた俺を見かねて、空いていた仮眠室に入れてくれたのが、ここまでの経緯だった。


 そしてもう一つ、俺は分かったことがあった。


 ……なるほど、結構寝ていたみたいだな。


 部屋にある時計が10時を指している。

 普通の人ならとっくに起きて仕事をしている時間だ。

 これには憲兵が呆れているのも納得だった。


「えっと、すみません」

「ああ、気にするな。あまりに爆睡してたから、起こすのに少し躊躇結構遅くに来たんだろう? 若いのにご苦労な話だぜ」

「あまり世間のことは知らないんですが、珍しい話ですか?」

「その格好から察するに、冒険者志望だろう? まぁ、少し珍しいかもな」

「え? でも父さんが、ここが一番オススメだって」

「あぁ、その通りだぜ。だからおかしい話じゃねぇんだがな……」

「?」


 どうにも騎士の反応がたどたどしい。


 思い切って聞いてみれば、なるほどと思える話だった。


 どうやら時期的な問題だった。

 普通の人たちは、気候が落ち着いた四月ぐらいに来るのが多いらしい。

 四月は色々と先輩冒険者の団体から指導してくれることもあって、俺みたいに四月以前から来る冒険者志望はかなり珍しいことだったようだ。


 ……まぁ、時期とか考えてなかったな、俺。


 そういえば昔、俺が冒険者になりたいって言った時に、やけに行くなら四月にしろって行ってたけど、このことだったのか。

 よく行かしてくれたな、父さん。


 だからと言って、村に戻るつもりはないけどな。

 それならそうで、やりようはある筈だし。


「まぁでも、今回は運が良い方かもな」

「……それってどういう?」

「んいや、こっちの話だ。いずれ分かる。と、検問はもう昨日のうちに済ませたんだっけな」

「はい、夜分遅くでしたけど」

「気にすんな、それが仕事だからな」


 憲兵は俺に許可証を渡し、にこやかに口を開いて言った。


「ようこそ、フェスリティア都市へ。冒険者、頑張れよ、坊主」

「はい、部屋貸してくれて、ありがとうございました」


 俺は一礼して、部屋を後にした。


「ここがフェスリティア都市の街か。賑やかだな」


 10時ってのもあるけど、街の通りは結構賑わっていた。

 王都に行った時から思ってたけど、やっぱり村と違って活気がある。

 別に故郷の村が嫌というわけではないけど、ただ何というか、これはこれで良いものだ、と思った。


 街の大通りには、色んな屋台が並んでいた。

 衣服から食べ物、村じゃ絶対に見ないような装飾品まで、たくさん並んでいた。


「ヨツハ商会の衣服に負けない衣服よぉ~。みんな買ってよねぇ~」

「疲労回復付与のネックレス、冒険者さんにオススメよ!」

「うっし! 魔牛の串焼き二本、お待ち!」

「う、旨そう……ってダメダメダメ。無駄遣いは絶対にダメだ」


 活気が溢れているせいか、それとも単純に売り方が上手いのか。

 妙に買ってみたいという欲が湧いてくる。


 父さんから貰ったお金があるとはいえ、贅沢できるわけじゃない。

 何もしなければ一週間で尽きる資金だ。

 大切にしないと。

 お金がなくなって村に帰るなんて、笑い話にすらならないからな。


 ……でもいつかは、たくさん食べたいなぁ。


 そんなことを思いながら、俺は大通りを歩いていく。

 周囲からの視線はあまり感じなかった。


 一度王都に行った時の経験が活きているんだろう。

 変にオドオドしていれば注目されるけど、堂々としていれば子どもでも気に留められないらしい。


 変に注目を浴びてないのは、この街に冒険者が多いってこともあるんだろう。

 ちょっと通っただけでも、ボロボロとした格好している人が多い。

 だから今の俺の、身体を覆うマントに一本の剣を下げている格好でも、一応はそれっぽく見える姿ということだ。

 マントを外せば、平民みたいな姿になるけど、それは仕方ない。


 前に色々あって行商人から貰った服が、こういう時に役立つとはな。


「そういえば、この街を拠点にしてるって言ってたな、あいつ」


 『あいつ』というのは、その行商人の息子のことだ。

 アリスとリリィがいない時にできた、初めての男友達だった。

 この街に住んでいるみたいだから、いつか会いに行ってみよう。


 まずは冒険者になることからだ。


 そうしてたどり着いたのは、大きい木造の建物の前。

 最近改築でもしたのか、まるで新しく建ったかのような感じだった。


「ここが冒険者ギルドの建物……デカいな、思ったより」


 『冒険者ギルド』と呼ばれるそこは、文字通り冒険者たちが集う場所だ。

 冒険者ギルドの主な仕事は、外部から依頼された仕事を冒険者に斡旋すること。

 あとは討伐した生物の毛皮とか牙を査定したり、必要であればギルドの職員が冒険者と共に活動することもあるらしい。


 そして冒険者になる方法は、簡単だ。

 その冒険者ギルドに冒険者として登録すること。

 それだけで、簡単に冒険者になれるのだ。

 その後どうなるかは、実力次第っていうのが冒険者という職業らしい。


 お金が欲しいなら、当然命の危険が高い仕事を受けないといけない。

 そのためには力がいるし、そのためには時間もかかる。


 覚悟していたことだ。

 後悔はない。

 夢のために、俺は頑張るって決めたんだからな


「フゥー……行くか!」


 俺は軽く息を吐いて、冒険者ギルドの中へと入った。

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