Where are the four boys?

空付 碧

第1話 How to eat apples?

 むかしむかし、あるところに、真っ赤な実がありました。真っ赤な実は、神さまが初めて作った人間に食べられました。食べた人間は、自分が人間であることを知りました。そして、その実が『りんご』であることも知りました。

 りんごは知恵の実としても有名です。生き物が地面に立っている重力というものを気づかせたのもりんごですし。何かにつけてはりんごで、息子の頭に乗せられて矢で射抜かれたのもりんごですし、危うく命を落としかねたお姫様が食べたのも真っ赤な毒りんごでした。

 そもそもりんごは、冷涼な地域で栽培されることが一般的で……、

「おいおい、そこはいらねぇだろ」

「え、っと、……」

 ……、この国にやってきたひとつのりんごは、それはそれは赤かったそうです。りんごは腐ることなく、太陽の光を浴びて輝いていました。その美しさを国王はとても気に入り、日の入る窓辺に置いて毎日眺めていました。ある夜、闇の中を通りかかった住民が、窓辺で光る赤いものを見つけました。真っ赤な光で、それはりんごであることに気づきました。真っ赤に燃える火を宿した、ろうそくのようでした。


「それで、だ」

 真っ赤なズボンを履いた少年は、ガラスの向こうにあるりんごを指さしました。

「あのりんごはレプリカなのか、とりあえず食ってみようぜ」

「いやだよぉ!!」

 真っ赤な、それこそりんごのようなズボンを、青いローブをきた少年が引っ張ります。

「そんな大層なりんごなんだからさぁ!!絶対やめたほうがいいよぉ!!」

「やめろ、引っ張れば布が伸びる」

 銀色の長い髪の少年が言い、

「あの布生地、かなり頑丈なものだよ。確かこの地方の……」

 と黄色いかばんを下げた少年は上の空です。

「お前らちょっと考えろよ!!」

 赤い服の少年が青いローブを軽くけります。小さな力で、ぱたりと少年は倒れてしまいました。うぅ、と青いローブは泣きます。

「このがれきの中で、あれ以外食えそうなもん、ねぇだろ⁉」

 真っ赤なりんごを中心に、滅びた王国の真ん中で声が響きました。

 これは、ある4人の少年たちが、小さな旅をするお話です。


「倉庫も見た、畑も見た。食えそうなもん何一つなくて、見つけたりんごを食わねぇって⁉」

「ワン、それはあまりにも暴論すぎるよ」

 黄色いかばんを漁って、少年は取り出した本を見せます。

「この物語のように、りんごはろうそくである可能性が高いんだ。現に、りんごは表面からワックスのようなもので艶を出すともいわれているし」

「いや、それならペン。りんご食えるかもじゃん」

 ワンの言葉にしばらく黙って、ペンは手のひらを叩きました。

「確かに!!」

「いや、待って!?何日も腐らなかったりんごって、もはや食べ物じゃないんじゃない⁉」

「カップの言うとおりだ」

 銀髪の少年も頷きます。そして、一歩踏み出します。

「俺が毒見をする」

「食べれるって言ってないよ!?」

「ソー、また君は死に急ぐ」

 進もうとするソーを、カップの悲鳴と、ペンが肩に手を置いて止めました。

「……殺してくれっ」

「ずっと思ってたけど、お前過去何したんだよ。どうしてそんな病んだんだよ」

 ワンの一言に、鋭い視線を送った後、ソーは座り込み黙って顔を両手で覆いました。

「悪かった!!俺が悪かったから、そんなみっともない姿をするな!!カップじゃあるまし!!」

「俺をそういう形でいじるの、やめてくれない!?」

 黄色いかばん以外の少年たちが息を整えるのに、しばらく時間がかかりました。


 ***


「じゃあ、多数決を取ろう。こういう時は、きちんと話すべきだよ」

 ペンの声に、二人ほど反論が上がりましたが、銀髪が揺れることで多数決が決定しました。

「はい、りんごを食べる人」

 すっと、三本の手が上がりました。

「なんでぇ!?」

「逆に、なんでこの流れで食わないことになると思ったんだよ」

 ワンの言葉に、泣き言は響きます。

「腐らないで、自分から光ったりんごなんて、何か取りついてるんじゃないの!?」

「例えば?」

「例えば……魔女の呪いとか……」

「なるほど、食おう」

「ソーは静かに」

 しどろもどろに、青い衣は自分の主張をします。

「もう少し歩いたら、きっと町があるよ。ここがだめでも、もっと安全でおいしいものがあると思う」

「なるほど、じゃあこのあたりの地図があればいいね。探してくるよ」

 ペンの行動には、誰も反論しませんでした。先ほどこのりんごの事を綴った本は、がれきの下から出てきたので、同じところにそういうものがあってもおかしくないと思ったのです。

「そんな駄々こねて、お前は腹減らねぇの?」

 ワンの言葉に、カップは眉を下げます。

「ぼく一人で旅は続けられないよぉ……それに、りんご一切れでお腹はいっぱいにならないと思う」

「それこそ魔法のりんごなら、腹いっぱいになるかもなぁ」

 ペンが戻ってくるまで三人は座って待っていましたが、はと気づいたカップが立ち上がります。

「ペン一人じゃ危ないよ!!」

「なんで?」

「がれき一人で動かせると思う!?」

「あぁ、そうか」

 ふらりとソーが立ち上がり、ペンのいる方向へ歩き始めました。

「じゃ、俺ら見に行ってくるから、お前待っとけよ」

 ワンも立ち上がって、カップを指さします。

「なんでぇ!?」

「だってりんごを一人にさせられねぇだろ。お前だけ食わねぇって言ったんだから、お前が番しとけ」

「……そうだけどぉ」

 りんごの横に膝を立てて座って、カップはちらりと真っ赤な実を見ていました。

「確かにさ、ぼくは今は食べないよ?ぼくが食べないって言ったからね。ぼくひとりだけ、食べないって言ったんだから、多数決は終わっててもおかしくないのに。ぼくを説得するために、ペンがひとりになっちゃって、危ないことになってるかもしれないんだ。ぼくを放って、三人で食べればいいのに。……だから、今ぼくはこのりんごとぼくのことが、とっても嫌になってるんだよ。わかるかい?」

 りんごは輝いているだけでした。りんごが返事をしたら、カップは本当に発狂していたかもしれないので、幸いなことでした。


 しばらくすると、ほこりっぽくなった三人が帰ってきました。カップは立ち上がって、三人に近づきました。

「カップ、よくやった!!」

「えっ!?」

 笑顔でワンがカップの肩を叩きます。よろついたのを、ソーが支えます。

「りんごが危険なものだったの?ペンが一人で危なかった?町が近くにあるの?それともぼくが食べずに番をしていたこと?」

「いや、何一つ違うよ」

 ペンが笑顔で、かばんを抑えています。カップはすぐに、奇妙な音に気付きました。

「何の声!?」

「じゃじゃーん!!」

 ペンがかばんから取り出したのは、鶏でした。ばたばたと動く鶏は、大層元気でした。

「なんで!?」

「ペンががれきの下から見つけたんだよ。お前がりんごを食わないって言ったおかげだな!!」

 ワンは嬉しそうに、カップの肩を抱えます。カップは少し、ほっとして頬が緩みました。

「しかも卵を産む!!」

「え、雌鶏?」

「ほら」

 ソーが見せてくれたのは、金色に輝く卵でした。

「タンパク質だ」

「絶対金属じゃん!!」

 金の卵と、金の卵を産む鶏と、腐らないりんごをそれぞれ持っていました。

「ちゃんとした食べ物、だれも持ってないよ!!」

「いや、食料になりそうなもの持ってねぇの、お前だけな?」

「確かに」

「本当だ」

「……え、ぼくどうしたらいいの」

「まずは、食おうぜ」



【如何にして、りんごを食すか】

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