第38話 モンテニアル王国

 夜が明けた。

 軽く朝食を採りモンテニアル王国へ向けて出発する。

 結局、サクラとローズは一睡もしていないそうだ。


 俺が目を覚ました時にはサクラが俺をじっと眺めていたのには驚いた。

 実を言うと、夕べはサクラと同じベッドで寝た。

 もちろん、何もしてないけどね。

 何というか、とても優しく、包まれるような微笑みで眺めていたサクラ。

 思わず手を出したくなったのは内緒だ。


 ローズはローズで、挨拶もそこそこに俺の腕を取って食堂へ一緒となった。

 なぜか上機嫌で、笑顔が絶えなかった。

 それとは対照的に、カスミは寝不足なのか不機嫌だった。

 聞くと、延々とローズにガールズトークを強いられたんだそうだ。

 何を話してたんだろう。


 昼前にはモンテニアル王国の砦門に着いた。

 検閲もなくそのまま王宮へと進めるそうだ。

 城門もそのまま進み入城し、下車すると


 「お待ちしておりました!」


 兵士、いや、騎士団というやつか。

 少なく見積もっても100名以上いる。

 その人たちが整列して、俺たちを迎い入れたのだ。


 あっけにとられている俺を尻目に、サクラが王宮へ歩みを進める。

 俺もあわててサクラに付き従い歩いていくと、入口に一人の人物が立っていた。


 「よく来たな!姉上、兄上!」


 ラークだった。


 「国王がお待ちです。案内しますのでどうぞ!」


 元気だなラーク、お前寝てないだろ?

 そのままラークについて行って、謁見の間に入った。

 すると、玉座への通路両脇に騎士が整列しており、玉座には王様らしき人物が鎮座していた。

 俺たちが入った途端、その王様らしき人物はこちらへ駆け寄り、おもむろにサクラを抱きしめた。


 「おおおサクラ、無事で何よりじゃ!会いたかったぞ!」


 王様らしき人は涙を流しながら、心底嬉しそうにサクラに抱き着いている。


 「お久しぶりでございます、叔父様、いえ、国王様。」


 叔父様?

 そうか、モンテニアル国王はサクラの叔父にあたるんだな。

 しばし抱擁していた王様は、サクラから離れ俺の方を向いた。


 「貴方様がタカヒロ様でございますな。」


 威厳のある声、カリスマ、なんだろうか、引き込まれるような魅力もある。

 さすがは王様だな、思わず畏まってしまう。


 「始めまして、トモベタカヒロと申します。」

 「うむ、良い目をしておられますな。以後、よろしくお願いしますぞ、タカヒロ様。」

 「はい。」


 王様に様呼ばわりされるのもなんか畏れ多いな。


 「して、サクラ、今日参ったのはどういう要件なのだ?元々明日ラディアンスへとワシらが向かう予定だったのだが。」

 「国王様、本日は重要な報告とお願いがあって参りました。」

 「おお、重要な報告とな。お願いならばよい、何でも聞くから心配せずとも良いぞ。」

 「ありがとう御座います。そういえば、プラムはいらっしゃいますか?」

 「もうすぐこちらへ来ると思うが?」

 「では、プラムが到着次第、お話を進めたいと存じます。」


 王は玉座へと戻り座った。

 俺たちはサクラとローズの後ろに並ぶ。

 数分後にプラムが登場した。


 「お待たせして申し訳ありませぬ、国王様、姉上、そして、タカヒロ様。」


 今日はかなりめかし込んだフォーマルな服装、というかドレスだな。

 昨日見た時も綺麗な人だなと思ったが、今日改めて見るとさらに綺麗だな。

 服装って大事なんだな、うん。


 「うむ、揃ったな、ではサクラ、話を聞こう。」

 「それでは。」


 サクラは一つ大きく息を吸い、国王の前でこう宣言した。


 「私、ラディアンス王国第一王女サクラは、現女王の名において第一王子ラークを、ラディアンス王国国王に任命、王座を譲渡します!」


 「「「「「「 !!!!! 」」」」」」


 みんなビックリしてる。

 というか俺もビックリだ。


 ひと時の静寂が訪れる。

 誰も声を発することができないでいるようだ。

 静寂の後、国王が言い出した。


 「サクラよ!それはお前が王位継承権を放棄するという事になるのだぞ、理解しているのか!?」

 「私とローズは、王位継承権を放棄いたします。」

 「なんと!では、お前はこれからどうするつもりなのだ、王族としての地位はそのままだとしても、持てる権利の殆どを失うのだぞ?」

 「私には過ぎた権利など不要です。生きていけるだけの、確たる生活基盤さえあれば良いのです。」

 「……そうか。」


 少しの間をおいて王は深く息を吐き


 「そうか、そうであるか。外を知り、外で生きて、強くなったのだな、サクラよ。」

 「はい。」

 「それとも、強くなったのは尊い出会いがあったから、なのかな?」


 王はそう言うと、俺をみて優しい目をした。


 「あいわかった!同盟国国王ヨシムの名において、ラディアンス王国第一王女の宣言を承諾する!」

 「おおおおおー!」


 この場に居るモンテニアル王国の面々は感嘆の声を上げた。


 「では、さっそく詳しい話と調印の手続きをしよう。王室へ移ろう。」


 そういうと玉座を降り、王室へと向かった。

 俺たちもプラムに促されて、一緒に王室へと向かった。

 王室に入ると、そこには王妃様と呼ばれた人が待っていた。


 「お久しぶりですね、サクラ姫。」

 「クメール王妃!お久しぶりでございます!」


 再会を喜び合う二人を他所に、俺たちは席に案内され着席を促された。

 ひとしきり再開を喜び合った二人は、遅れて着席すると、王は人払いをして扉は固く閉ざされた。

 ここに居るのは俺たち一行と、プラム、ラーク、国王、王妃、そして見知らぬ少年だけだ。


 「あ、カミネじゃないの、元気そうね!」

 「はい、ローズねえさん。久しぶりです。会いたかった。」


 カミネ?ローズねえさん?

 そうか、あの少年が末っ子の第二王子様か。


 「さて、では本当の話を聞こうではないか、サクラ。」

 「やはり、王の目は誤魔化せませんね。」

 「当たり前であろう、伊達に王の座についているわけではないぞ。」

 「では、私の本音をお話しします。」

 「その前に、だ。」

 「はい?」

 「タカヒロ殿、ワシらもプラムたちも、そなたの事はざっくりとしか聞き及んでいないのだ。

 そなたの事を、そなた自身の口からワシらに教えて欲しいと思う。」

 「は、はひ!」


 おっと、思わず声が裏返ってしまった。

 あまりこっちに話を振らないでほしいな、心臓に悪い。俺は小心者なんだよ。


 「えー、それでは……」


 俺はこれまでの経緯を余さず正直に話した。

 このメンツなら隠す必要もないので、精霊の事も話し、使命とやらの事も話した。


 「ふうむ、なるほどのう……」


 何やら王様はとてもとても納得した。

 するとクメール王妃が


 「サクラ、あなた、もしやタカヒロ様に付いて行く為にあのような宣言を?」

 「あ、いえ、その……はい!その通りです!」

 「ふふふ、強くなりましたね、サクラ。」

 「そ、そんなこと……」


 なんというか、王妃はサクラの母親みたいな感じがするな。


 「だがしかし、サクラが宣言したのは良いが、当のラークはどう思っておるのかのう。プラムもだが。」

 「我はすでにそのつもりであるぞ、叔父上。我は民の幸せと同じくらいに、サクラ姉とローズの幸せを願っているのだ。」

 「わらわもラークと同じです、叔父上。ただ……」

 「ん、ただ、なんじゃ?」

 「そこにわらわが割り込む余裕がないのが悔しいですが。」

 「ふははは、そうか。うーん、タカヒロ殿はもしかして、新たな英雄なのではないのか?」

 「英雄?いえ、ち、違います、俺はそんなんじゃ!」

 「英雄色を好むとも言うしのぉ。とはいえ、誠実そうなのは確かじゃ。それも良いのかも知れんの。」

 「そうですね、ただ、その使命というのが気にはなりますが、サクラとローズが付いていれば助けにもなりましょう。」

 「王妃……」


 ん?サクラと、ローズ?


 「タカヒロ、私はお姉さまがどうあれ、アンタについていくからね。」

 「いや、ローズ、お前、それって……」

 「ま、それもアンタがきちんとケジメを付けてからの話かもね。」

 「ケジメって……あー。」

 「わはははは、ではひとまず、今宵はタカヒロ殿の歓迎会としようではないか。」

 「あの、今後の事とか調印式とかは……」

 「そんなものは後でどうとでもできるであろう。細かい事は言いっこナシじゃ。」

 「そんな事を言って、あなた、面倒な事を後回しにしてませんか?」

 「さ、さあ!宴の準備じゃ!」


 という事で、また宴会となってしまった。

 急遽開催されたとはいえ、宴は盛大に催された。

 今度ばかりは俺が主賓とあって、なかなか抜け出せずにいたんだが、そうは言ってもそれなり楽しかったのも事実だ。

 宴もお開きとなり、ようやく落ち着いた時間を過ごすことができた。

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