第39話 愛しのサクラ
酔ってはいるものの、それほど酩酊しているわけではない。
事ここに至って、サクラの思惑をようやく理解できたんだ。
そして俺がサクラに言った解決策は、サクラ本人によって見いだされ解決の目途がついた。
ホント、俺って情けないな。
情けない話ではある、が、ならばこの状況で俺がすべきことは一つだ。
「サクラ、起きているか?」
サクラの部屋の扉の前でサクラに呼びかけると、すぐに扉は開かれた。
「タカヒロ様、お待ちしておりました。」
サクラは、俺が来るのを待っていたようだ。
ちょっと、気恥ずかしいというか、驚いた。
でも、うん、そうだな、サクラにそんな気を使わせちゃダメだな、男として。
「うん、ちょっと、いいかな?」
「はい。」
人気のない中庭まで、手をつなぎ歩く。
中庭に着くまで無言だった。
こんなシチュエーションで、他愛のない話で場をやり過ごすってのは違うと思う。
中庭に着き、歩みを止めてサクラと向き合う。
もうすでに、サクラの瞳は潤んでいる。
俺は、腹は決まっているとはいえ、何十年ぶりかの鼓動の高鳴りに戸惑っている。
大きな月が、俺たち二人を優しく照らしてくれている。
「サクラ……」
「はい……」
「待たせちゃったかな、その、ゴメン。」
「そんなことはございません……」
「その、俺は今後どうなるかはわからないけど……」
「……」
「俺と一緒になってくれ。サクラを、お前を離したくない。」
「タカヒロ様……私は、命ある限り、貴方とともにありたいです……」
「サクラ、愛してる。」
「私も、貴方を愛しています。」
見つめ合ったまま体を寄せて、そして口づけを交わす。
そして、何も言わずにただ見つめ合って抱き合い、やがてお互い月を見上げた。
すると、また人工衛星、もとい、神の方舟が見えた。
あれはこの間のとは違うやつだろ、たぶん。
いくつものデブリがあるんだろうな。
「タカヒロ様! 神の方舟ですよ!」
「ああ、見えたよ。きっと、俺たちを祝福してくれてるんだろうな。」
「きっとそうですね。」
と、突然その空気が変わるような事が起きる。
「ということでー、今度はわたしよね!」
いつの間にかローズが後ろにいた。
「ローズ!お前なんでここに!?」
「何でって、最初はお姉さまに譲ったけど、次は私だもん。」
「次ってお前……」
「ふふ、タカヒロ様、妹にも最高の告白をお願いしますね。」
そう言って、サクラは離れて少し距離を取る。
ローズが俺に駆け寄り、抱き着いてきた。
「あ、いや、ちょっと……」
「タカヒロ、私も待っていたのよ?」
「ええ?いや、あの……」
ちょっと待ってほしい。
それで良いのかよ二人とも。
いや確かにローズの事も好きだし、愛してるっちゃ愛してるけどさ。
この世界って、何?重婚とかそういうの関係ないの?
二股とか、そういうドロドロは気にしないの?
俺はとってもカルチャーショックなんだけど?
とはいえ、からかっている訳ではないのは理解できる。
ローズだって、サクラと同じくらい、俺にとっては大切な存在だし。
でも、気持ちをぶつけられていつまでも狼狽えてなんかいられないな。
きちんと気持ちに答えなくちゃな。
「わかった、ローズ。」
「はい。」
「この先も、俺の傍にいてくれ。お前の事は俺が守るから。」
「はい、わたしも貴方の傍にいます、いつまでも。」
「……愛してる。」
「愛しています。」
ローズとも口づけを交わして抱き合う。
それを優しい眼差しで見ているサクラは、再びこちらに歩み寄ってきて、俺の手を取る。
左手はローズ、右手はサクラ。
二人の手を握り
「ちょっと戸惑っているけど、とにかく、よろしくな、二人とも。」
「はい!」
「はい!」
何とも驚く展開ではあるが、こうしてサクラとローズの二人に告白し、二人もそれを受け入れてくれた。
婚姻とまではいけていないが、形上ではなく心の絆として、固く結ばれたような気がした。
ほんの少し、これが何かの扉を開いたような、何か道を切り開いたような、そんな気がしたのは気のせいなんだろうか。
そして、そんな甘い空気をかき消すことがまた起きた。
「目出度い!このワシがしかと見届けたぞ!」
「わらわの順番はまだなのか!」
「兄上!もう兄上と呼ぶのに文句は言わせぬぞ!」
「ふふふ、二人とも幸せですね。」
「お姉ちゃんたち、嬉しそうだねー。」
「もー、アンタもうちょっと気の利いた事言えないの!?」
「ワフー!」
あんたら、ずっと隠れて見てたのかよ!
俺に気配を悟られないってのは凄いけど!
メチャ恥ずかしいわ!
でもまあ。
甘いもロマンティックも何もないが、ひとまず俺たちの絆は一層深まったかな。
ひとつ引っかかるのは、死んだ妻のマスミの事だ。
俺はもう、マスミ以外の女性とどうこうなるつもりは毛頭なかったのにな。
俺はこんなにも意志薄弱だったんだろうか、と少し自己嫌悪にもなった。
マスミはこんな俺を、許してくれるだろうか。
でも、それでも、マスミを今も愛しているのも本当だし、サクラを愛しているのも本当だ。
もちろん、ローズの事も。
どっちつかず、なんて事じゃない。誰かを選ぶ、なんてことでもない。
3人とも、同じように愛している。
他人から見るとどう思われるかなんてのは、理解はしているけどそんなのは気にすることじゃない。
話せばわかる、しかし、話せなければわからない。
マスミとはもう話すことはできない。
彼女が苦しみ、死に行くときでさえ、言葉を交わすことができなかったけど。
だったら、できる事、すべき事は俺から話しかけ続けるだけなんだろうな。
そんなのは自己満足でしかないのは解っているけど、これが俺がとるべきケジメだな。
こればかりはサクラ、ローズには話すことではないから、胸に刻んでおくことにしよう。
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