第3章 新生ラディアンス王国 編
第35話 宿場町にて
あの宴の翌朝である。
「さあ、タカヒロ様、行きますよ!」
「お、おう。」
凄く晴やかで明るい表情でそう言うサクラ。
何か、吹っ切れたような感じではあるんだが……
結局、モンテニアル王国への要件も教えてはくれなかった。
というか、こちらの政務もニーハを代理にたてて丸投げしていた。
ローズも同行しているが、こちらはちょっと困った様子ではあった。
ぼそっと
「タカヒロのせいだからね……」
と呟き、ため息を吐いたものだった。
護衛は無し、馬車の御者は2名いるが、それ以外は俺とサクラとローズ、そしてリサとカスミの5名だ。
リサは狼の姿に戻っている。人型は結構疲れると言ってたしな。
が、馬車に乗れるのかと疑問に思ったが、幾分体が小さくなっていて問題なかった。
聞けば、ある程度体積を変化させられるんだそうだ。人型になるよりは負担はかなり軽いんだとか。
で、ピコなんだが。
朝起きたら、どこにもいなかった。
あちこち探したものの、気配すらなかった。
途方に暮れていると、リサが教えてくれたのだ。
「ピコは国に帰ったよ。やらなくちゃいけないことができたって言ってね。」
「国?魔界か?」
「そう。あ、伝言ね、『ありがとう、大好きだよ、またね』だって。」
またねってことは、また会えるんだろうか。
さよならも言わずに別れるのは寂しいけど、なにか事情があるんだろうな。
また猛禽類にいじめられないかが心配だ。
王国を出発して半日ほど経った。
街道は途中から整備が行き届いた状態になっていたおかげで、移動速度が上がった。
というか、ラディアンス王国付近の街道は荒れ放題で保守整備などは一切されていないようだった。
これだけでも、あのワキムカンとやらがどれほどの無能だったかが判ろうというものだ。
「で、サクラ、そろそろ今回の訪問の目的を教えて欲しいんだけど……」
「あ、そう言えばまだ言っていませんでしたね。」
いいえ、サクラさん。
昨夜も今朝も、聞いても教えてくれませんでしたよね?
なにか策謀のにほひがする。
「妹と弟に会いに行きます。それと、ついでに今回の事件の報告です。」
隣国への報告がついでなのかよ。
てか、妹と弟?
するとローズがフォローしてくれた。
「ほら、前に言っていた第二王女のプラムお姉さまよ。お兄様は第一王子のラークお兄様、弟は第二王子のカミネね。」
「あー、そうか、あの一件で別々になってたんだけか。」
「でね、モンテニアル王国はラディアンス王国の分国なのよ。」
「分国?」
「えーとね、あんまり例がない事だったんだけど、もともと一つの国だったんだけど、二つに分かれたのよ。」
「それって、内紛か何かでって事?」
「いいえ、そうじゃなくて、それぞれの土地に特化した産業に、適した国家の運営に分けたってのが正しい認識ね。」
適した国家運営に分けた?
「簡単に言えば、商業と工業、それと農林業に適した国に分けたのよ。」
「でも、同じ国なら別に分ける必要はなかったんじゃないの?」
「んーとね、よくは解らないけど、産業というか仕事によって収入や支出のバランスが変わってくるんだって。
それで複雑な税収やら政令が必須になってくるから、政務が複雑になりすぎて滞る心配がでてきたらしいの。
政務にかかる費用も税金だから、あまりそこに税金を使うべきではないとかなんとか。」
あー、なるほどねぇ。
「それなら、と、丁度その時王子が双子だったという事もあって、国を分けてしまえってなったんだって。」
「へー、なんというか、思い切ったことしたんだな。」
「でもね、これも民の暮らしを考えた末の処置で、当時の国民は概ね賛成したんだそうよ。
反対したものは元々利権を握っていた有力者だけだったそうね。」
「まーそうだよな、美味しい権利を手放すことになる人もいるだろうしな。」
「でも、ちゃんとそこも話し合いで解決して最低限のフォローもしたそうよ。」
「最低限?」
「ん-とね、利権獲得や金儲けは己が手腕によるもの、国がそこだけ手厚く保護するのは平等ではない、もてる資質で再び成り上がるがよいって事みたいね。」
「なんていうか、すげえな、それ。」
確かに権利を握る上級国民みたいな人は、その資質があるからこそ、だよな。
その資質がありゃ、またゼロからの出発なんて簡単なんじゃなかろうか。
単に御家柄とかだけで利権を我が物顔にする者ってのは淘汰されるだろうし、残っても害悪でしかないもんな。
特に俺が居た世界というか時代なんて、それがよく分かる構図だもんな。
それはさておき。
その王国には明日の昼頃には到着するそうだ。
途中、宿場町があるので、今夜はそこに宿泊するらしい。
「タカヒロ様、ひとつ、お願いがあります。」
「へ?あ、ああ、何だい?」
「モンテニアルから帰る時まで、タカヒロ様は私の夫、という事にしておいてください。」
「うん?今、なんて?」
「ですから、私の夫、です。」
何てこと言い出すんだろう、このコは。
「あ、いえ、方便です、そういう事にしておくだけです。その方が、あちらでのタカヒロ様の行動制限が無くなりますので、行動がしやすいかと。」
「あ、いや、行動も何も、俺何かしないといけないの?」
「いいえ、特に何もすることは無いと思いますが、念のために……」
念のため?
モンテニアル王国って、そんなに厳重で物騒なのだろうか。
まあ、行動制限がないってのはいい、のか?
ローズを見ると、ローズは俺をじっと見てから
「あー、そうですね、その方がいいかも……」
と、のたまった。
うーん、とっても不安なんだけど。
そうこうしているうちに両国の城の丁度中間にある宿場町に着き、迎賓館みたいな一番豪華な宿に宿泊することになった。
なんと、宿泊費はタダなんだそうだ。さすがは王族様である。
が、俺は一般人なので料金が必要かと思ったのだが
「夫と同室でかまいません」
とサクラが言ったので俺もロハだ。
とはいえ、かかった費用はきちんと王が支払うそうだ。
この場合はサクラになるのかな。
そりゃそうだな、宿だって商売だもんな。
夕食も豪華で、とても満足でした。
で、風呂でさっぱりしたのは良いのだが。
部屋はサクラと俺、つまり一緒の部屋なんだよな。
3部屋使っているので、別にサクラはローズと同室でもよかったのでは?
で、湯上りでほんのり上気しているサクラが目の前にいる。
ソファに座って寛いでいる。
俺はというと、同じくソファに座って固まっている。
寛げるかっての。
どうにも落ち着かない。
会話しようにも微妙な緊張感で言葉がでない。
サクラは優雅に茶をのんで寛いでいるのだが。
まあ、いい。
幸い、ベッドは二つある。
ちょっと酒でも飲んでさっさと寝ちまおう。
そうすりゃ、間違いも起こらないだろう。
そんなソワソワっぷりを発揮している俺を見てサクラが言ってきた。
「タカヒロ様、どうしました?」
どうもこうもないよ。
なんで君はそんなに落ち着いていらっさる?
「い、いや、なんかこう、サクラとこうして二人きりって、あまり機会がないなーって。」
「ふふ、そうですね、久しぶりといえば久しぶりですね。」
「緊張、しちゃうよなぁ。」
「私は、嬉しいです。こうしてタカヒロ様と二人きり、同じ空間、同じ空気、同じ時間を一緒に過ごせるだけで、嬉しいですよ。」
「そ、そうか……」
「はい……」
自然と見つめ合う形になってしまった。
い、いかん。
この甘ったるい空気、これはあれだ、「流される空気」ってやつだ。
一時の過ちを誘発する、危険な空気だ!
サクラさん、瞳を潤すのはヤヴァイです。
俺の理性は堅固で鉄壁のはずだが、女性の涙はそれすら破壊する最強武器なんすよ!
時が止まっている、動けない。
気が付くと俺はサクラの手を握ろうとしていたんだ。
あれ?
なんで?
と、その刹那。
いきなりドアがぶち開かれ、兵士みたいな人達が乱入してきた。
6名ほどの兵士が槍を構え、左右に展開し道を開けると、その奥から一人の女性が入ってきた。
「この男をひっ捕らえよ!拘束し、茨の牢獄へとぶち込め!」
「……はい?」
よく訓練された兵なのだろう、俺が抵抗しないのもあったが、あっという間に手錠というか手枷をはめられた。
後ろ手ではなく、体の前で。
槍の穂先は6本とも俺の間近に突きつけられている。
抵抗しても無駄た、と言わんばかりに、兵士の目が訴えている。
何なんだこの状況は?
あ、そうだ!サクラは、サクラは無事か!?
そう思い、サクラを見ると……
片手を頭に添え、ため息をつき頭を左右に振っている?
え?
何、そのリアクション。
「連行しろ!」
その女性は声を張り上げ、兵に指示を出したところで、一瞬俺を見てニヤリとしたのは気のせいだろうか。
「そこの女は捨て置け!行くぞ!」
そこの女ってあなた……
その方は王女ですよ?王女?
というかそもそも、貴女はどちら様?
俺はなぜ捕まったのでしょうか?
「あ、あの、ちょっと!」
「黙れ!話は茨の牢獄で聞く!」
「……行ってらっしゃいませ……」
サクラ?そのセリフ、微妙に違いませんか?
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